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新章 青色の智姫
第343話 懐かしいものに守られて
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ちょっとばかり本気になったスミレの力によって、スノーグリズリーはなんと一発で仕留められてしまった。
それにしても、一瞬で心臓の動きを止めてしまうとは、時の幻獣の力はすさまじいものである。
「スミレ、その力はちゃんとつかる時を見極められますか?」
「もちろんでございます、シアン様。私は時の幻獣クロノア。そこらの魔法使いと一緒にしないでください」
シアンの質問に、いつものように淡々と答えるスミレである。
ちょっと感情的になることはあるものの、やはり幻獣は普通の人とは感覚が違うようである。
冷静な様子を見せるスミレの態度に、シアンはすっかり安心したようだった。
「さて、このスノーグリズリーですが、どのように持ち帰りましょうか。私たちには重たすぎますよ」
目的のものを手に入れたのはいいものの、持ち帰る方法までは考えていなかった。
シアンのエアリアルボードはまだまだ未熟であり、これだけの重量物の運搬に耐えられるか疑問なのである。
しばらく悩んでいると、どこからともなく重たい足音が聞こえてきた。
「なんだなんだ。誰かと思えば時の幻獣か。なんだ、その格好は」
「誰かと思えば、タウロですか。お久しぶりですね」
そこに現れたのは、全身が真っ赤に染まったミノタウロスだった。よく見てみると、そのミノタウロスはシアンも見覚えのある個体だった。
「インフェルノの眷属のタウロさんではないですか」
「うん? 誰だ、お前は」
シアンが話し掛けるが、ほぼ会ったことのないタウロの方はシアンのことが分からなかったようだ。
「シアン様のことをご存じなくても仕方ありませんね。面識がある頃のシアン様は魔力をお持ちではなかったですし、転生してからは初めてのはずですからね」
「魔力なし?」
タウロは首を捻る。
「初めまして。私、モスグリネ王国王女シアン・モスグリネでございます。転生前はロゼリア・マゼンダ公爵令嬢の専属侍女であったシアン・アクアマリンと申します」
「ロゼリア……。ああ、あの赤髪の嬢ちゃんか」
ロゼリアの名前を聞いてなんとなく分かったようである。
「そうかそうか。道理で分からないはずだ。においは違うし、魔力があるし、特徴がまったく違っているのだからな。それで、なんだってこんなところに来ている。ここはインフェルノ様の縄張りだと分かってきているのか?」
タウロはシアンたちに忠告している。
なので、スミレが代表して事情を説明している。
事情を聞いたタウロは、あごに手を当てて首を傾げるような動作を取っている。
「また面倒なことになってるようだな。俺は頭はよくねえからよく分からねえが、面倒なことだっていうことはよく分かるぜ」
「それはそうと、タウロはなぜこんなところにいるのですか」
「なにって、妙な魔力を感じたから見回りに来ただけだ。お前だと分かってたら最初から来ねえよ」
タウロは正直に答えていた。
「しっかし、またケットシーか。何か面倒が起こるたびに、その名前を聞くんだが……。一度懲らしめてやりたいものだな」
「それができるのならば、私からもお願いします。すべての行動が神経を逆なでしますのでね」
冷静さが売りのスミレですらもその表情が歪んでいる。この表情を見れば、ケットシーがどう思われているのかがよく分かるというものだ。
「よく分からんが事情は分かったからな。ちょうどいい、俺がこいつを運んでやろうじゃないか」
「あら、助かりますね」
「なに、ここら辺は基本的に平和だからな。やることがなくて暇なんだ。スノーグリズリーはいい重量があるから、ちょっと遊ぶにはよくてな」
「スノーグリズリーを遊び相手って……。魔物って怖いです」
初めてタウロを見たヒスイとコハクは、思わず後退ってしまっていた。
しかし、たまたま出くわしたタウロのおかげで、スノーグリズリーの運搬の問題が解決する。
道中、目立つ巨体に人々や魔物たちを驚かせながら、シアンたちはタウロと一緒にムー王国の王都へと戻ってきたのだった。
「おう、ルゼ。久しぶりだな」
「タウロさん。なんであなたがここにいるんですか」
城に併設された魔法研究所へとやって来たところで、出迎えに出てきたルゼがタウロの姿に驚いていた。
「なにって、こいつを運ぶのを手伝っただけだ」
ズシーンという大きな音が、地響きを伴って響き渡る。
衝撃とともに地面に姿を見せたのは、見事なまでに真っ白な毛皮に覆われた巨大なクマ、スノーグリズリーだった。
「ケットシーのやろうが、こいつを狩ってこいと依頼を出したらしい。戦闘自体はクロノアの能力で問題なかったようだが、持って帰れずに困っていたようだ。そこにたまたま俺が通りかかっただけさ」
「あなたがいるっていうことは、インフェルノ様の山の近くだということですか」
「まあ、そういうことだな」
やり取りを終えたルゼは、言葉を失っているようだった。
魔物すらも近付かないような場所に、一国の王女を向かわせたとは大問題だからである。
「……無事に戻ってきただけでもよしとしましょうか。タウロさん、これの解体を手伝ってあげて下さい」
「分かった。細かい作業は苦手だが、やってやろう」
そんなわけで、スノーグリズリーはすぐさま解体に回される。
その間、シアンたちは客間に戻ってゆっくりと休んだのだった。
それにしても、一瞬で心臓の動きを止めてしまうとは、時の幻獣の力はすさまじいものである。
「スミレ、その力はちゃんとつかる時を見極められますか?」
「もちろんでございます、シアン様。私は時の幻獣クロノア。そこらの魔法使いと一緒にしないでください」
シアンの質問に、いつものように淡々と答えるスミレである。
ちょっと感情的になることはあるものの、やはり幻獣は普通の人とは感覚が違うようである。
冷静な様子を見せるスミレの態度に、シアンはすっかり安心したようだった。
「さて、このスノーグリズリーですが、どのように持ち帰りましょうか。私たちには重たすぎますよ」
目的のものを手に入れたのはいいものの、持ち帰る方法までは考えていなかった。
シアンのエアリアルボードはまだまだ未熟であり、これだけの重量物の運搬に耐えられるか疑問なのである。
しばらく悩んでいると、どこからともなく重たい足音が聞こえてきた。
「なんだなんだ。誰かと思えば時の幻獣か。なんだ、その格好は」
「誰かと思えば、タウロですか。お久しぶりですね」
そこに現れたのは、全身が真っ赤に染まったミノタウロスだった。よく見てみると、そのミノタウロスはシアンも見覚えのある個体だった。
「インフェルノの眷属のタウロさんではないですか」
「うん? 誰だ、お前は」
シアンが話し掛けるが、ほぼ会ったことのないタウロの方はシアンのことが分からなかったようだ。
「シアン様のことをご存じなくても仕方ありませんね。面識がある頃のシアン様は魔力をお持ちではなかったですし、転生してからは初めてのはずですからね」
「魔力なし?」
タウロは首を捻る。
「初めまして。私、モスグリネ王国王女シアン・モスグリネでございます。転生前はロゼリア・マゼンダ公爵令嬢の専属侍女であったシアン・アクアマリンと申します」
「ロゼリア……。ああ、あの赤髪の嬢ちゃんか」
ロゼリアの名前を聞いてなんとなく分かったようである。
「そうかそうか。道理で分からないはずだ。においは違うし、魔力があるし、特徴がまったく違っているのだからな。それで、なんだってこんなところに来ている。ここはインフェルノ様の縄張りだと分かってきているのか?」
タウロはシアンたちに忠告している。
なので、スミレが代表して事情を説明している。
事情を聞いたタウロは、あごに手を当てて首を傾げるような動作を取っている。
「また面倒なことになってるようだな。俺は頭はよくねえからよく分からねえが、面倒なことだっていうことはよく分かるぜ」
「それはそうと、タウロはなぜこんなところにいるのですか」
「なにって、妙な魔力を感じたから見回りに来ただけだ。お前だと分かってたら最初から来ねえよ」
タウロは正直に答えていた。
「しっかし、またケットシーか。何か面倒が起こるたびに、その名前を聞くんだが……。一度懲らしめてやりたいものだな」
「それができるのならば、私からもお願いします。すべての行動が神経を逆なでしますのでね」
冷静さが売りのスミレですらもその表情が歪んでいる。この表情を見れば、ケットシーがどう思われているのかがよく分かるというものだ。
「よく分からんが事情は分かったからな。ちょうどいい、俺がこいつを運んでやろうじゃないか」
「あら、助かりますね」
「なに、ここら辺は基本的に平和だからな。やることがなくて暇なんだ。スノーグリズリーはいい重量があるから、ちょっと遊ぶにはよくてな」
「スノーグリズリーを遊び相手って……。魔物って怖いです」
初めてタウロを見たヒスイとコハクは、思わず後退ってしまっていた。
しかし、たまたま出くわしたタウロのおかげで、スノーグリズリーの運搬の問題が解決する。
道中、目立つ巨体に人々や魔物たちを驚かせながら、シアンたちはタウロと一緒にムー王国の王都へと戻ってきたのだった。
「おう、ルゼ。久しぶりだな」
「タウロさん。なんであなたがここにいるんですか」
城に併設された魔法研究所へとやって来たところで、出迎えに出てきたルゼがタウロの姿に驚いていた。
「なにって、こいつを運ぶのを手伝っただけだ」
ズシーンという大きな音が、地響きを伴って響き渡る。
衝撃とともに地面に姿を見せたのは、見事なまでに真っ白な毛皮に覆われた巨大なクマ、スノーグリズリーだった。
「ケットシーのやろうが、こいつを狩ってこいと依頼を出したらしい。戦闘自体はクロノアの能力で問題なかったようだが、持って帰れずに困っていたようだ。そこにたまたま俺が通りかかっただけさ」
「あなたがいるっていうことは、インフェルノ様の山の近くだということですか」
「まあ、そういうことだな」
やり取りを終えたルゼは、言葉を失っているようだった。
魔物すらも近付かないような場所に、一国の王女を向かわせたとは大問題だからである。
「……無事に戻ってきただけでもよしとしましょうか。タウロさん、これの解体を手伝ってあげて下さい」
「分かった。細かい作業は苦手だが、やってやろう」
そんなわけで、スノーグリズリーはすぐさま解体に回される。
その間、シアンたちは客間に戻ってゆっくりと休んだのだった。
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