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新章 青色の智姫
第353話 避けられるもの、避けられないもの
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クリスマスパーティーは安全が確認できるまで一時中断されたが、城の中は特に問題はなかった。
とはいえ、問題を起こしたということで、シアンは二日間の謹慎処分を受けることになった。ちなみに勝手にやって来ていたパールとティールも同じだ。
シアンは反省していたものの、パールとティールにはさほど反省という色はなく、アイヴォリーの城の中でのんびりとお茶を楽しんでいるようだった。
パーティーの合間のこと、ペシエラのところにはシルヴァノ、チェリシア、それとなぜかケットシーまでやって来ていた。
「やあやあ、元気そうだね」
「ケットシー、なぜあなたが来ているのですか」
突然姿を現したケットシーに、ペシエラは露骨に不快感を示している。
「何を言ってるんだい? 今回の事件の陰の立役者であるボクに対して、そんな態度をとるのかい?」
ケットシーはこんなことを言っているが、どういう意味かペシエラたちは分からずにいた。
「まさか、ティール陛下とパール様を焚き付けたのはあなたですか、ケットシー!」
少し考えてはっとしたペシエラは、勢いよく立ち上がってケットシーを問い質している。
ペシエラの態度に、ケットシーはにやりと笑っている。どうやらその通りのようだ。
「はっはっはっ、せっかくクロノスまで突いたのだよ? 最後までお節介をしてやるというのが、ボクというものだよ。どうだい、うまくいっただろう?」
ケットシーはものすごく得意げに話をしている。
「ええ、まあ、うまくいきましたわよ」
あまりにもイラついたので、ペシエラは言葉をとげとげしくしながら反応を返していた。本当にいちいち頭にくる態度を取ってくれるものである。
「それで、本当にシアンに襲い掛かる恐ろしい運命を退けることはできたのかい?」
気になるシルヴァノがケットシーに確認を取る。
「ああ、間違いないよ。シアンくんたちが投げつけた宝石で魔力を吸われて能力が衰えたところに、シアンくんが一生懸命魔力を投じて作り上げた宝珠をぶつけたんだ。その状態の魔法にまともな判断なんでできるわけがない。宝珠の魔力をシアンくん本人の魔力と勘違いして、満足して消滅したよ」
ケットシーは笑っていたかと思うと、急に真面目な表情をして報告を始めた。
「そうか、なら安心だな。せっかくライトの婚約者であるシアン王女を迎えたというのに、悲しいことになる前に防げてよかったと思うぞ」
「ええ、まったくですわね」
シルヴァノがほっとした様子で話していると、ペシエラも柔らかな表情を見せていた。それだけ、シアンの身を案じていたということがよく分かるというものである。
「まったく、人のことを言えた義理ではないとは思うけれど、シアンは奇跡の王女様よね」
「ええ、まったくですわね」
チェリシアが笑いながら話すと、ペシエラも小さく笑いながら頷いている。
「まっ、なんにしてもシアンくんが無事で済みそうなのはボクも安心だよ。このボクがわざわざ奔走してあげたんだからね」
「恩着せがましいことを言わないで下さいませんこと?」
ペシエラはケットシーをじろりと睨みつけている。だが、この程度の睨みで慌てないのがケットシーである。まったく気にした様子もなく、ケーキに紅茶を味わっていた。相変わらずの図太さである。
「ボクとしては、お得意様にいなくなられるのが寂しかっただけだよ。でも、これで君たちはボクたちと積極的に関わることは減るだろうね」
「あら、どうしてですの?」
ケットシーの言い分に、ペシエラはこてんと首を傾げていた。これでも三十代半ばではあるが、まったくなんとも可愛らしい仕草である。チェリシアがにやけるくらいにはまだ似合っているということだ。
ペシエラがキッと強めに睨むと、チェリシアはごまかすように紅茶を口に含んでいた。
「おほん。ボクたち幻獣っていうのは、基本的には人間とは隔絶して暮らしているものなんだよ。分かるかな?」
「まあ、幻とか神とかついたりするくらいですもの。なんとなく分かりますわよ」
ペシエラの反応に、シルヴァノとチェリシアもこくりと頷く。
「だから、基本的に人間たちに干渉するということはまずありえないんだ。まあ、ボクみたいなタイプでもない限りは、ね」
これもまた納得のいく話である。
「これからは、アイリスくんでも通さない限り、接触はできないとでも思っておいてくれ。ああ、ボクやニーズヘッグ、それとファントムは別だよ。自分から好んで人間と接触しているからね」
話の最後に注意事項を付け加えておくケットシーである。
「あれ? それっていうことは、スミレさんも去ってしまうっていうことかしら。彼女は時の幻獣クロノアなのでしょう?」
「そうなのか?」
チェリシアが疑問を呈すると、シルヴァノがびっくりしているようだった。どうやら知らなかったらしい。
この反応を無視するように、ケットシーは首を横に振っていた。
「彼女についてはボクも分からないね。それこそ、クロノア自身が決めることだ。ボクらがとやかく言うようなことじゃないよ」
ケットシーの言葉に、部屋の中はしんと静まり返ってしまった。
どうやら、悲しい別れを回避できたのはいいが、別の別れが待っているようだった。
こればかりはさすがのペシエラたちも干渉できる話ではない。
はたして、スミレこと時の幻獣クロノアはどのような判断を下すのだろうか。
その未来は、外の景色のようにまだ真っ白のようだった。
とはいえ、問題を起こしたということで、シアンは二日間の謹慎処分を受けることになった。ちなみに勝手にやって来ていたパールとティールも同じだ。
シアンは反省していたものの、パールとティールにはさほど反省という色はなく、アイヴォリーの城の中でのんびりとお茶を楽しんでいるようだった。
パーティーの合間のこと、ペシエラのところにはシルヴァノ、チェリシア、それとなぜかケットシーまでやって来ていた。
「やあやあ、元気そうだね」
「ケットシー、なぜあなたが来ているのですか」
突然姿を現したケットシーに、ペシエラは露骨に不快感を示している。
「何を言ってるんだい? 今回の事件の陰の立役者であるボクに対して、そんな態度をとるのかい?」
ケットシーはこんなことを言っているが、どういう意味かペシエラたちは分からずにいた。
「まさか、ティール陛下とパール様を焚き付けたのはあなたですか、ケットシー!」
少し考えてはっとしたペシエラは、勢いよく立ち上がってケットシーを問い質している。
ペシエラの態度に、ケットシーはにやりと笑っている。どうやらその通りのようだ。
「はっはっはっ、せっかくクロノスまで突いたのだよ? 最後までお節介をしてやるというのが、ボクというものだよ。どうだい、うまくいっただろう?」
ケットシーはものすごく得意げに話をしている。
「ええ、まあ、うまくいきましたわよ」
あまりにもイラついたので、ペシエラは言葉をとげとげしくしながら反応を返していた。本当にいちいち頭にくる態度を取ってくれるものである。
「それで、本当にシアンに襲い掛かる恐ろしい運命を退けることはできたのかい?」
気になるシルヴァノがケットシーに確認を取る。
「ああ、間違いないよ。シアンくんたちが投げつけた宝石で魔力を吸われて能力が衰えたところに、シアンくんが一生懸命魔力を投じて作り上げた宝珠をぶつけたんだ。その状態の魔法にまともな判断なんでできるわけがない。宝珠の魔力をシアンくん本人の魔力と勘違いして、満足して消滅したよ」
ケットシーは笑っていたかと思うと、急に真面目な表情をして報告を始めた。
「そうか、なら安心だな。せっかくライトの婚約者であるシアン王女を迎えたというのに、悲しいことになる前に防げてよかったと思うぞ」
「ええ、まったくですわね」
シルヴァノがほっとした様子で話していると、ペシエラも柔らかな表情を見せていた。それだけ、シアンの身を案じていたということがよく分かるというものである。
「まったく、人のことを言えた義理ではないとは思うけれど、シアンは奇跡の王女様よね」
「ええ、まったくですわね」
チェリシアが笑いながら話すと、ペシエラも小さく笑いながら頷いている。
「まっ、なんにしてもシアンくんが無事で済みそうなのはボクも安心だよ。このボクがわざわざ奔走してあげたんだからね」
「恩着せがましいことを言わないで下さいませんこと?」
ペシエラはケットシーをじろりと睨みつけている。だが、この程度の睨みで慌てないのがケットシーである。まったく気にした様子もなく、ケーキに紅茶を味わっていた。相変わらずの図太さである。
「ボクとしては、お得意様にいなくなられるのが寂しかっただけだよ。でも、これで君たちはボクたちと積極的に関わることは減るだろうね」
「あら、どうしてですの?」
ケットシーの言い分に、ペシエラはこてんと首を傾げていた。これでも三十代半ばではあるが、まったくなんとも可愛らしい仕草である。チェリシアがにやけるくらいにはまだ似合っているということだ。
ペシエラがキッと強めに睨むと、チェリシアはごまかすように紅茶を口に含んでいた。
「おほん。ボクたち幻獣っていうのは、基本的には人間とは隔絶して暮らしているものなんだよ。分かるかな?」
「まあ、幻とか神とかついたりするくらいですもの。なんとなく分かりますわよ」
ペシエラの反応に、シルヴァノとチェリシアもこくりと頷く。
「だから、基本的に人間たちに干渉するということはまずありえないんだ。まあ、ボクみたいなタイプでもない限りは、ね」
これもまた納得のいく話である。
「これからは、アイリスくんでも通さない限り、接触はできないとでも思っておいてくれ。ああ、ボクやニーズヘッグ、それとファントムは別だよ。自分から好んで人間と接触しているからね」
話の最後に注意事項を付け加えておくケットシーである。
「あれ? それっていうことは、スミレさんも去ってしまうっていうことかしら。彼女は時の幻獣クロノアなのでしょう?」
「そうなのか?」
チェリシアが疑問を呈すると、シルヴァノがびっくりしているようだった。どうやら知らなかったらしい。
この反応を無視するように、ケットシーは首を横に振っていた。
「彼女についてはボクも分からないね。それこそ、クロノア自身が決めることだ。ボクらがとやかく言うようなことじゃないよ」
ケットシーの言葉に、部屋の中はしんと静まり返ってしまった。
どうやら、悲しい別れを回避できたのはいいが、別の別れが待っているようだった。
こればかりはさすがのペシエラたちも干渉できる話ではない。
はたして、スミレこと時の幻獣クロノアはどのような判断を下すのだろうか。
その未来は、外の景色のようにまだ真っ白のようだった。
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