逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第354話 時が満ちて

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 あれから月日が経つのも早いもので、気が付けば運命の日付はもうそこまで迫っていた。
 時渡りの秘法を撃退できたとはいえども、シアンたちの中ではどこか不安を払拭できず、落ち着けずにいたのである。
「はあ、いよいよもう明日ですか。本当に一年があっという間でしたね」
「本当ですね。私もこのアイヴォリーで一年間を過ごすとは思ってもみませんでした。魔道具に関して、チェリシア様のお話を聞けてとても良かったと思います」
 年末祭のクリスマスパーティーの日を前に、シアンとヒスイがあれこれと話をしている。
 今年、アイヴォリー王国の王子ライトと王女ダイアが揃ってサンフレア学園を卒業した。なので、いよいよライトとシアンの結婚式が差し迫っているのである。
 よりにもよって設定されたのが明日、クリスマスパーティーの日なのである。めでたいことにはめでたいことを重ねようというチェリシアの暴論がきっかけだった。これにシルヴァノもペシエラもまったく反対することがなく決まってしまったのだった。
「お父様とお母様は明日の昼前に到着なさるとのことで、これがどれだけ急な話だったかが分かりますね」
「チェリシア様、結構思いつきで行動なさいますものね……」
 シアンたちはなんというか、ため息しか出ない状況となっていた。
「とはいえ、結婚式です。なんとしても無事に終わらせましょう」
「はい、シアン様」
 シアンたちは翌日に備えて、今日はひたすら気持ちの整理をつけることに時間を費やしたのだった。

 この一年は本当に大変だった。
 アイヴォリー王国に嫁ぐとなると、女王になるか王妃になるかの選択が迫られる。それというのも過去のアイヴォリー王国は、国王と女王という二王制にしたことで国家が安定してきたという過去があるからだ。
 ペシエラが王妃を選択したものの何も起きなかったことで、次の国王妃となるシアンにもこの選択が与えられるというわけだった。
 しかし、アイヴォリーで行われる修業は女王になることを前提としたもの。そのため、普通なら音を上げることも考えられるかなり厳しいものだった。
 シアンは元々アイヴォリー王国内の貴族だったので、その話は知っていた。ただ、自分が経験してみると、その厳しさは想像以上のものだったようだ。覚悟がなければ、おそらく耐えられなかっただろう。

 年末祭直前の夕方、城に一人の人物が到着する。
「おお、シアンよ。元気にしていたか?」
「これはティール女王陛下。はい、とても元気にしておりました」
 しっかりとした淑女の挨拶で、シアンはティールを出迎えていた。だが、アイヴォリー王家はダイア王女のみの出迎えと、予想外の対応になっていた。
「まったく、一国の主がやって来たというのに、なんとも寂しい反応だな」
「申し訳ございません。明日の準備が相当遅れているようでして、私しか出迎えられなかったのです」
 ティールが愚痴をこぼすと、ダイアが必死に謝っている。
「よいよい、気にするでないぞ。遅れてでも挨拶をしてもらえれば、妾は特に気にはせぬ。これは、こんな直前になるまでやって来なかった妾の落ち度でもあるのだからな」
 ダイアの謝罪に、ティールは笑って許しているようだった。
「それはそれとして、シアンはここにいてもいいのか?」
「はい。私には特にやることはございませんので」
 ティールの問い掛けに、シアンはにっこりと笑っているようだった。あまりにもしっかりとした笑顔だったので、ティールはそれ以上の指摘を入れるのはやめたようである。
 挨拶が終わると、城の兵士の案内で客間に移動することになる。ここでシアンやダイアとは一度別れることになるので、ティールはシアンにひとまず言葉をかけることにした。
「そうだ、シアンよ」
「なんでしょうか、ティール陛下」
「前日に言うのもなんだが、結婚おめでとう。今日までいろいろ大変であったろう? 新婚旅行に出かけるようなことがあるのなら、我が国も検討してみてほしい」
 結婚式の前日だというのに、もう新婚旅行の話をしている。これにはシアンもつい笑ってしまう。
「ありがとうございます。ライト殿下と相談してみますね」
 断る理由もないので、シアンは行き先候補のひとつとして、結婚相手であるライトと一緒に検討するとだけ伝えたのだった。
 その日の夜、ティールは夕食の席でシルヴァノたちから出迎えに関する謝罪を行ったようだが、あまり気にした様子もなくすべてを豪快に笑い飛ばしていた。初めて会った頃に比べれば、すっかり丸くなってしまったようである。
「今年の年末は実にめでたいことが重なりましたので、ティール陛下も心行くまで楽しんでいかれて下さい」
「ああ、そうさせてもらうよ」
 言葉を交わしながら、和気あいあいとした雰囲気に包まれる食卓である。

 そして、運命の夜が明ける。
 アイヴォリー王国の一年の締めとなる、七日間にわたる年末祭が始まったのだ。
 その初日は、チェリシアの提案から始まったクリスマスパーティとともに、ライトとシアンの結婚式が行われる。
 例年以上の盛り上がりを見せるアイヴォリー王国の王都ハウライトは、雪が融けてしまいそうな熱気に包まれているのだった。
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