逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 番外編集

番外編 緑の魔道具師・その2

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 ムー王国にやって来てから一年。ヒスイはまだまだ悪戦苦闘を続けている。
 やはり、カメラの再現は無理だろうか。魔石に風景を焼き付けるという処理がまったくうまくいかないのである。
 ここまでいろいろ試してみた結果、やはり光魔法が最適だという結論にはなったものの、その光魔法の使い手がいない。カメラの再現は完全に行き詰っていた。
「はあ、三属性の魔法を混ぜ合わせるにしても、水魔法の使い手すら見つからないとは、困りましたね」
「ムー王国は北部にあって、水魔法の使い手はいそうなものですけれどね。氷属性すらも見つからないのは、はっきり言って困りましたね」
 土魔法と風魔法の使えるヒスイではあるものの、三色合成の最後のもう一色を担当できる人物がまったく見つからない。
 魔道具研究所の上司に相談してみても、まったく思い当たる人物がいないと、完全に手詰まり感を覚えていた。

 ある日のこと、ヒスイは行き詰ったので一度故郷に戻ることにしてみた。
 休暇届を出すと、思ったよりもあっさりと許可が出たので、ヒスイはモスグリネ王国のネフライト侯爵家へと戻っていった。

 実家に戻ると、学園長他家族たちが総出で出迎えてくれる。なんだかんだで、ヒスイは大事にされているのである。
「ああ、よかったわ。無事に戻ってきたのね、可愛い娘よ」
「お前ももう二十歳だ。そろそろ結婚をして孫の顔を見せてくれないかな」
 歓迎の中に本音がぼろっとこぼれ出てしまう父親である。これには妻がギロリと睨んでいる。その話題を出すなといった感じの顔である。
「ヒスイ、研究は進んでいるのかしら」
「はい。今はアイヴォリー王国のチェリシア様の専売特許であるカメラの開発に取り組んでいます。ですが、どうしても足りないものがありまして……。正直行き詰っております」
「……詳しく聞かせてちょうだい」
 母親の目がきらりと光り、ヒスイは母親の部屋へと侍女兼助手であるコハクと一緒に連れていかれてしまった。
 部屋に閉じ込められたヒスイは、母親から笑顔の尋問を受ける。この笑顔が怖くなったヒスイは、現在の研究の状況を全部話してしまった。
 カメラの再現には光魔法が必須なこと。光魔法の使い手がいないこと、シアンが使う三色合成魔法を使うにも水属性が足りないこと。
 そのすべてを聞いた母親は、唸り続けている。何かを一生懸命思い出しているようなのだ。
「……そうね。すべてを一気に解決するのなら、あの家がいいかしら」
「お、お母様?」
 ぶつぶつと話をする母親の様子に、ヒスイはただただ首を捻るばかりだった。

 帰省をしてから数日が経った時だった。
 ネフライト家に訪問客がやって来た。
「やあ、ボクが来たよ」
 声がした瞬間、ヒスイは扉を閉めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれないかい? なんで君までそんな反応するんだい? ボクは君の母親の相談を受けてやって来たんだ。入れておくれ」
 ケットシーが慌てたような口調でヒスイに呼び掛けてくる。
 ヒスイがこのような反応になるのも無理もない。神出鬼没な行動で散々困らされてきたのだから、あまり顔を合わせたくないというのだ。
「ボクは幻獣だよ。三色合成魔法については、詳しい方だ。それに、ご所望の水属性または氷属性の使い手が商業組合の中にいる。ちょっと来てくれるだけでいいんだよ、頼むよ」
 ケットシーの必死の訴えに、ヒスイはやむなくケットシーを受け入れる。
 そして、ケットシーの案内で商業組合まで向かうことになったのだった。

 そうしてやって来たモスグリネ王国の商業組合。その一室にヒスイと同い年かちょっと若い男性が立っていた。
「初めまして、ヘリオロ・コーラルと申します」
 紫色の髪の毛が特徴の男性である。コーラルの名前で分かる通り、フューシャやプルネの弟である。
「初めまして、私はヒスイ・ネフライト。こちらは私の侍女兼助手のコハクと申します」
「コハクと申します。どうぞお見知りおきを」
 お互いの挨拶が済むと、ケットシーが一歩前に踏み出してくる。
「マゼンダ商会に入ったばかりの彼だけれど、アイヴォリー王国のコーラル伯爵家の末弟の長男だ。ああ、心配しなくてもいいよ。ニーズヘッグが当主をしている限り、あそこは跡取りの問題は発生しないからね」
 ケットシーはにやにやと笑いながら話をしてる。
 ヒスイはケットシーの態度には相変わらずの不快感を示しているものの、目の前のヘリオロのことはちょっと気になっているようである。
「コーラル伯爵家の子どもたちはみんな水属性と闇属性が使える。君が不足していると困っている水属性を補えるし、彼は伯爵家の人間だ。結婚相手としても申し分ないだろうよ」
「あのですね……。まあ、結婚はこの際脇に置いておくとしまして、チェリシア様によらないカメラの開発をしたいのです。どうか、あなたの力を貸して下さいませんでしょうか」
 ケットシーの説明を受けた上で、一部のことに嫌悪感を示しながらも、ヒスイは目の前のヘリオロに声をかけている。
 ちょっとおどおどした様子を見せているヘリオロだったが、自分の力が必要とされていると聞いて、ちょっと戸惑いながらも決意を固めたようだ。
「私の微力でよろしければ、協力致します。どうぞよろしくお願い致します、ヒスイ嬢」
 ヒスイとヘリオロが握手を交わし、ここに協力関係が始まったのであった。
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