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第一章 はじまり
第1話 その時は突然に
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その夜会は、いつもと変わらないものになるはずだった。
着飾った貴族の面々、演奏される優雅な曲、豪華な食事、交わされる談笑。そのすべてがいつも通りだった。
侯爵令嬢ロゼリア・マゼンダも、その時はただの退屈な交流の場だと思っていた。家族ぐるみで交流のある貴族との会話も、ご機嫌伺いのようでつまらない。並んだ食事も毎回とあっては飽きてしまう。
だが、この空気が突如として変貌を遂げる。
「皆のもの、静粛に! 殿下からお言葉がある。心して聞くがよい!」
大臣と思われる小太りの男性から放たれた大声。それは、一堂の沈黙と動揺を誘うに十分だった。
「では、殿下。お言葉をどうぞ」
小太りの男性は頭を下げて、引き締まった服装の若い男性を部屋に招き入れる。
「うむ。皆のもの、楽しんでいるところをすまない。実は、国家にとって重大な事が発覚した。急を要する事なので、この夜会の場で通告する」
更に動揺が広がる。
「その重大な事だが……、どうやら国家転覆の計がなされているようだ」
殿下と呼ばれた男性がそう声を上げれば、夜会の場は一転荒げた声が飛び交う戦慄の場へと豹変する。
この男性はアイヴォリー王国長男、シルヴァノ・アイヴォリー王子。アイヴォリー王家は、代々白っぽい金髪を持つ美麗な一族である。歳は王国の学園を卒業して一年ほど経った十九歳だ。
「そして、この計画の首謀者が……」
シルヴァノ王子は、発言しながら左右を見渡す。そして、とある人物に視線が定まったところで、
「ロゼリア・マゼンダ侯爵令嬢、貴様だ!」
声高々にロゼリアの名前を叫んだ。
一斉に会場全員がロゼリアを見る。だが、当のロゼリアには全く身に覚えのない話である。そのため、衝撃のあまり、持っていた飲み物をグラスごと床に落とし、そのまま目を見開いて固まってしまう。
周りはヒソヒソと噂を始める。
そんな中、シルヴァノ王子の横に、一人の女性が現れる。
「ロゼリア様ったら、まさかこんな恐ろしい事を企んでられたなんて、驚きでしたわ」
その女性は、手に複数本の髪を持ち、顔を歪めながら言い放つ。
「まったくだ。お手柄だったよ、チェリシア・コーラル」
チェリシアと呼ばれた女性。ロゼリアやシルヴァノ王子と同い年の、子爵家令嬢だ。何かと教養が浅く、ロゼリアとはよく衝突していた令嬢である。
ただ容姿自体は悪くはない。名前の通りの髪はピンクで、首の辺りからウェーブのかかった胸あたりまでのロング。身長は平均よりやや小さめで、喜怒哀楽がはっきりしていた。
それがどうだろう。ここで見たチェリシアの顔は、醜く歪んでいる。衝撃のあまり我に返ったロゼリアは、その顔を見て全てを悟る。「あぁ、この子が嵌めたんだ」と。
しかし、それからが早かった。王子の声であっという間にロゼリアは捕らえられ、投獄されてしまう。そして、夜が明けると斬首刑を宣告されてしまう。しかも、そこから間を置かずに、ロゼリアは処刑台に連行された。
(どうして、私が何をしたというの? どうしてすぐに処刑されなければならないの?)
ロゼリアは、民衆の怒号の前に力無く執行台に据えられる。わずかに動く視界から家族を探すが、誰もどこにも居ない。
「お前の家族なら、使用人含めて全員死んだ。娘が国家転覆を計ったんだ、当然だろう?」
執行人の吐き捨てるような言葉が聞こえてくる。マゼンダ侯爵家は取り潰しの上、全員死罪。ロゼリアの絶望は頂点に達した。
(ああ、私はもう死ぬのね……)
ロゼリアは、諦めて目を閉じた。
次の瞬間、ロゼリアの意識はそこで途絶えた。
着飾った貴族の面々、演奏される優雅な曲、豪華な食事、交わされる談笑。そのすべてがいつも通りだった。
侯爵令嬢ロゼリア・マゼンダも、その時はただの退屈な交流の場だと思っていた。家族ぐるみで交流のある貴族との会話も、ご機嫌伺いのようでつまらない。並んだ食事も毎回とあっては飽きてしまう。
だが、この空気が突如として変貌を遂げる。
「皆のもの、静粛に! 殿下からお言葉がある。心して聞くがよい!」
大臣と思われる小太りの男性から放たれた大声。それは、一堂の沈黙と動揺を誘うに十分だった。
「では、殿下。お言葉をどうぞ」
小太りの男性は頭を下げて、引き締まった服装の若い男性を部屋に招き入れる。
「うむ。皆のもの、楽しんでいるところをすまない。実は、国家にとって重大な事が発覚した。急を要する事なので、この夜会の場で通告する」
更に動揺が広がる。
「その重大な事だが……、どうやら国家転覆の計がなされているようだ」
殿下と呼ばれた男性がそう声を上げれば、夜会の場は一転荒げた声が飛び交う戦慄の場へと豹変する。
この男性はアイヴォリー王国長男、シルヴァノ・アイヴォリー王子。アイヴォリー王家は、代々白っぽい金髪を持つ美麗な一族である。歳は王国の学園を卒業して一年ほど経った十九歳だ。
「そして、この計画の首謀者が……」
シルヴァノ王子は、発言しながら左右を見渡す。そして、とある人物に視線が定まったところで、
「ロゼリア・マゼンダ侯爵令嬢、貴様だ!」
声高々にロゼリアの名前を叫んだ。
一斉に会場全員がロゼリアを見る。だが、当のロゼリアには全く身に覚えのない話である。そのため、衝撃のあまり、持っていた飲み物をグラスごと床に落とし、そのまま目を見開いて固まってしまう。
周りはヒソヒソと噂を始める。
そんな中、シルヴァノ王子の横に、一人の女性が現れる。
「ロゼリア様ったら、まさかこんな恐ろしい事を企んでられたなんて、驚きでしたわ」
その女性は、手に複数本の髪を持ち、顔を歪めながら言い放つ。
「まったくだ。お手柄だったよ、チェリシア・コーラル」
チェリシアと呼ばれた女性。ロゼリアやシルヴァノ王子と同い年の、子爵家令嬢だ。何かと教養が浅く、ロゼリアとはよく衝突していた令嬢である。
ただ容姿自体は悪くはない。名前の通りの髪はピンクで、首の辺りからウェーブのかかった胸あたりまでのロング。身長は平均よりやや小さめで、喜怒哀楽がはっきりしていた。
それがどうだろう。ここで見たチェリシアの顔は、醜く歪んでいる。衝撃のあまり我に返ったロゼリアは、その顔を見て全てを悟る。「あぁ、この子が嵌めたんだ」と。
しかし、それからが早かった。王子の声であっという間にロゼリアは捕らえられ、投獄されてしまう。そして、夜が明けると斬首刑を宣告されてしまう。しかも、そこから間を置かずに、ロゼリアは処刑台に連行された。
(どうして、私が何をしたというの? どうしてすぐに処刑されなければならないの?)
ロゼリアは、民衆の怒号の前に力無く執行台に据えられる。わずかに動く視界から家族を探すが、誰もどこにも居ない。
「お前の家族なら、使用人含めて全員死んだ。娘が国家転覆を計ったんだ、当然だろう?」
執行人の吐き捨てるような言葉が聞こえてくる。マゼンダ侯爵家は取り潰しの上、全員死罪。ロゼリアの絶望は頂点に達した。
(ああ、私はもう死ぬのね……)
ロゼリアは、諦めて目を閉じた。
次の瞬間、ロゼリアの意識はそこで途絶えた。
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