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第二章 ロゼリアとチェリシア
第16話 調味料を求めて
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正直、国王への説明は父親に任せたかったロゼリアとチェリシアだったが、発案者として同行を余儀なくされてしまった。
「ごめんなさい。ロゼリアは疲れてるのに付き合わせちゃって」
「いいのよ。お父様たちだけだと不安ですしね」
話をしている国王たちの後ろで、ロゼリアとチェリシアはひそひそと話をしていた。そこへ、
「お姉様、私とも話をして下さい」
ペシエラが割り込んできた。
なぜペシエラが居るのかというと、単純に駄々をこねただけだった。最近二年間は姉と離れ離れになっていただけに、甘えたい盛りなのだろうとプラウスも咎めはしなかった。実際、国王陛下の視察を邪魔する様子もないので、わがままを聞き入れた格好だ。
さて、シェリアの市場へとやって来た。
貧乏領地なのでそれほどの規模ではないし、種類もそう多くはないが、この日は少し様子が違っていた。
「どういう事だ? 先日まで無かっただろう」
戸惑っているのはコーラル子爵。
それもそうだろう。数は多くはないが、魚が並んでいるのだ。
実のところ、昨日のロゼリアの行動で、海から魚が獲れる事が分かった。それをロゼリアから聞いたチェリシアが、こっそりと屋敷を抜け出した。その時、気候の事もあるので、魚の鮮度は長く持たないのでその日のうちに食べるか捨てるかするように教えたのだ。
生のまま売る店もあれば、とりあえず丸焼きにして売っている店もある。普段は物静かな市場が、活気に溢れていた。
「ああ、昨日ロゼリアが言ってた事か。まさか、これほどまでになるとは……」
マゼンダ侯爵は驚いていた。昨日、娘を叱った内容が、このような事になっていようとは思わなかった。
それにしても、魚だけで市場に活気が出始めたのは僥倖と言える。しかし、塩を作るだけでこれだけの体力の消耗となるのであれば、土壌改善には到底至らない。となると、早く次の手を打たなければならないという事だ。
塩の精製方法は、国王陛下に知られているので、そのうちにアイヴォリー王国内で広まる事になるだろう。魚もその日限りの状態。領地改革はそう簡単にはいかないのだ。
「やっぱり、調味料を増やさなきゃ……」
チェリシアは次の手を考える。塩ができたので、他の調味料だって欲しくなる。砂糖、酢、醤油、味噌、それにソースと油。チェリシアはロゼリアに相談を持ちかける。
「ねえ、ロゼリア。砂糖や酢とかあるかな」
「砂糖や酢といった物は分からないけど、甘い味付けに使う粉は聞いた事があるわ。……時戻り前での話だけど」
ロゼリアには心当たりがあるらしい。
「どこに行けば手に入るの?」
真剣な表情でチェリシアは尋ねる。
「一応、王都やマゼンダ領内で手に入れる事はできるわ。今は分からないけど」
先日の王都での買い物の際にも見た覚えはない。この時はまだ無かったのかも知れない。それでも、チェリシアは諦めきれなかった。
「どこからの物なの?」
強く聞けば、ロゼリアは「ちょっと待って」と眉間に手を当てる。
少しして返ってきた答えは、
「シアンの出身地、アクアマリン領。……だったはず」
思いもよらない場所だった。
アクアマリン領は、学園の合宿イベントで赴く土地だった。領内に大きな湖を持ち、周りも森林が多い緑豊かな土地である。
そして、ゲーム中では、重大な分岐イベントがあり、場合によっては退場キャラが出てしまうという鬼門だった。
コーラル領とは対照的に落ち着いた気候を持ち、農耕地も広大なアクアマリン領。そんな美しい光景を、ゲームよりかなり早い時期に見られる。チェリシアは胸躍らせた。
「チェリシア、アクアマリン領へは簡単には行けないわよ。そもそも、どこにあるか分かってるの?」
「へ?」
チェリシアは失念していた。この国の領地の位置関係を。
アクアマリン領は、意外と王都からは近い。だが、間に大きな川が流れており、訪れるには渡し船を使うか、数少ない橋を渡るかするしかなかった。そのため、アクアマリン領で生産される物品は、輸送の手間のせいで高くなっているのだった。
「距離としては近いわ。でも、川のせいで遠回りになるのよ」
一応、王都との街道には橋が掛かっている。その最短ルートの辺りは不可解な事に川が蛇行して地形が荒れており、橋を架ける位置も選定に時間を要した。
「よくシアンもうちに来てくれたと思うわ。直線距離なら一週間だけど、その地形のせいで倍の二週間掛かるんですもの」
ロゼリアのその言葉に、チェリシアは絶望した。甘い物が食べられるという夢は、所詮甘い夢でしかなかったのだった。
「うう、そうは簡単にいかないのね」
チェリシアは涙目になりつつも、この日の視察を続けたのだった。
「ごめんなさい。ロゼリアは疲れてるのに付き合わせちゃって」
「いいのよ。お父様たちだけだと不安ですしね」
話をしている国王たちの後ろで、ロゼリアとチェリシアはひそひそと話をしていた。そこへ、
「お姉様、私とも話をして下さい」
ペシエラが割り込んできた。
なぜペシエラが居るのかというと、単純に駄々をこねただけだった。最近二年間は姉と離れ離れになっていただけに、甘えたい盛りなのだろうとプラウスも咎めはしなかった。実際、国王陛下の視察を邪魔する様子もないので、わがままを聞き入れた格好だ。
さて、シェリアの市場へとやって来た。
貧乏領地なのでそれほどの規模ではないし、種類もそう多くはないが、この日は少し様子が違っていた。
「どういう事だ? 先日まで無かっただろう」
戸惑っているのはコーラル子爵。
それもそうだろう。数は多くはないが、魚が並んでいるのだ。
実のところ、昨日のロゼリアの行動で、海から魚が獲れる事が分かった。それをロゼリアから聞いたチェリシアが、こっそりと屋敷を抜け出した。その時、気候の事もあるので、魚の鮮度は長く持たないのでその日のうちに食べるか捨てるかするように教えたのだ。
生のまま売る店もあれば、とりあえず丸焼きにして売っている店もある。普段は物静かな市場が、活気に溢れていた。
「ああ、昨日ロゼリアが言ってた事か。まさか、これほどまでになるとは……」
マゼンダ侯爵は驚いていた。昨日、娘を叱った内容が、このような事になっていようとは思わなかった。
それにしても、魚だけで市場に活気が出始めたのは僥倖と言える。しかし、塩を作るだけでこれだけの体力の消耗となるのであれば、土壌改善には到底至らない。となると、早く次の手を打たなければならないという事だ。
塩の精製方法は、国王陛下に知られているので、そのうちにアイヴォリー王国内で広まる事になるだろう。魚もその日限りの状態。領地改革はそう簡単にはいかないのだ。
「やっぱり、調味料を増やさなきゃ……」
チェリシアは次の手を考える。塩ができたので、他の調味料だって欲しくなる。砂糖、酢、醤油、味噌、それにソースと油。チェリシアはロゼリアに相談を持ちかける。
「ねえ、ロゼリア。砂糖や酢とかあるかな」
「砂糖や酢といった物は分からないけど、甘い味付けに使う粉は聞いた事があるわ。……時戻り前での話だけど」
ロゼリアには心当たりがあるらしい。
「どこに行けば手に入るの?」
真剣な表情でチェリシアは尋ねる。
「一応、王都やマゼンダ領内で手に入れる事はできるわ。今は分からないけど」
先日の王都での買い物の際にも見た覚えはない。この時はまだ無かったのかも知れない。それでも、チェリシアは諦めきれなかった。
「どこからの物なの?」
強く聞けば、ロゼリアは「ちょっと待って」と眉間に手を当てる。
少しして返ってきた答えは、
「シアンの出身地、アクアマリン領。……だったはず」
思いもよらない場所だった。
アクアマリン領は、学園の合宿イベントで赴く土地だった。領内に大きな湖を持ち、周りも森林が多い緑豊かな土地である。
そして、ゲーム中では、重大な分岐イベントがあり、場合によっては退場キャラが出てしまうという鬼門だった。
コーラル領とは対照的に落ち着いた気候を持ち、農耕地も広大なアクアマリン領。そんな美しい光景を、ゲームよりかなり早い時期に見られる。チェリシアは胸躍らせた。
「チェリシア、アクアマリン領へは簡単には行けないわよ。そもそも、どこにあるか分かってるの?」
「へ?」
チェリシアは失念していた。この国の領地の位置関係を。
アクアマリン領は、意外と王都からは近い。だが、間に大きな川が流れており、訪れるには渡し船を使うか、数少ない橋を渡るかするしかなかった。そのため、アクアマリン領で生産される物品は、輸送の手間のせいで高くなっているのだった。
「距離としては近いわ。でも、川のせいで遠回りになるのよ」
一応、王都との街道には橋が掛かっている。その最短ルートの辺りは不可解な事に川が蛇行して地形が荒れており、橋を架ける位置も選定に時間を要した。
「よくシアンもうちに来てくれたと思うわ。直線距離なら一週間だけど、その地形のせいで倍の二週間掛かるんですもの」
ロゼリアのその言葉に、チェリシアは絶望した。甘い物が食べられるという夢は、所詮甘い夢でしかなかったのだった。
「うう、そうは簡単にいかないのね」
チェリシアは涙目になりつつも、この日の視察を続けたのだった。
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