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第五章 学園編
第88話 ヒロインはハイスペック
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「お帰りなさいませ、お姉様、ロゼリア」
マゼンダ商会にやって来たロゼリアとチェリシアを、ペシエラが迎える。
「ペシエラ、退屈してなかった?」
「ええ、大丈夫ですわ」
チェリシアが尋ねれば、ペシエラは満面の笑みでそう答えた。
「ペシエラ、なんだか機嫌が良さそうね」
ロゼリアが尋ねると、待ってましたと言わんばかりに、ペシエラはさっき作り上げた写真撮影機を取り出した。
「何なの、それは」
「ふっふっふっ、私たちの写真魔法を誰でも扱えるようにした撮影機なのですわ。魔力無しでも扱えますのよ?」
「えっ? カメラを作ったの?」
チェリシアが聞き慣れない単語を使って驚いていた。
「かめら? チェリシアの前世の道具なの?」
「ええ。レンズを通して見える景色を写し取る道具です。写真魔法の発想の元ネタです」
なんとまぁ、ペシエラはチェリシアの前世の世界にあったカメラを作ってしまったのだ。
ペシエラから原理の説明を受けると、やはりカメラそのもののようで、ロゼリアたちが来る前に複数枚撮影しては、すぐさま紙に現像していたようだ。
「枚数には制限はありませんが、現像したい写真を選ぶのが少し手間なくらいですわ。ただ、写真魔法と違って、撮った風景が失われませんけれど、魔石の魔力が切れた時にどうなるのかが問題ですわね」
ペシエラの説明を聞けば聞くほど、まるでデジタルカメラである。
右手の部分にレバーがあり、上を向いていれば現像、下を向いていれば撮影モードになるそうだ。
ペシエラはレバーを下にした状態で、試しに二枚撮ってみる。音が鳴らず静かなものである。
レンズを紙に向けてレバーを上に切り替えると、紙に撮影された風景が投影される。レバーの下に隠れていた円盤型に削った魔石をくるくると回すと、撮影された風景が切り替わっていく。そして、その魔石を押し込むと、紙に選択された風景が写真として写し出された。
「すごいわ、ペシエラ。よくこんな複雑な魔法術式を組み込めたわね」
「お姉様が考えた写真魔法から工夫してみましたの。なにせ学園に行けなくて暇でしたから」
チェリシアが褒めると、ペシエラは写真撮影機を作った経緯を説明した。暇だからと言っても作れてしまうあたり、天才なのかも知れない。
これだけの魔法と頭脳があれば、なるほどアイヴォリー王国にもたらす恩恵は大きいだろう。ペシエラから聞いた逆行前の国の盛り上がりも信じられる話だ。
ただその時は、ペイル王子とマゼンダ侯爵派の暗躍で潰されてしまったのだ。つまりは、ロゼリアが生きていてマゼンダ侯爵家が現在なら、高確率で未来は明るいのだろう。
ただ、今は写真撮影機の話で盛り上がっている。
そこへ、不意に部屋の扉が叩かれる。
「ペシエラ様、先程お持ちした調査経過報告書をお持ちしました」
シアンだった。
「あ、シアン、ご苦労ですわ。ロゼリア付なのに私の頼みまで聞いて頂いて、本当に感謝致しますわ」
ペシエラはこう言って、写真撮影機でシアンをパシャリと撮った。
一瞬身構えたシアンだったが、次に出された自分の姿が写った紙を見て、ちょっと呆れているようだ。
「これは、私がさっき試作品として作った写真撮影機と言いますの。本当はまだ改良が必要なのですが、よければこの試作機を情報収集にお役立て下さいませ」
そう言って、ペシエラはカメラをシアンに渡す。シアンは、
「畏まりました。調査の者にお渡ししておきますので、一応、使い方をお教え願えませんでしょうか」
と受け取った上で、使い方を聞いてきた。
「そうでしたわね。では、お教えしますわ」
そして、ペシエラはシアンにカメラの使い方を教えた。
どうやら、音と光が出ない方のカメラは、このために作成したらしい。暗闇でも撮れるのか気にはなるところだが、後で聞けば改良すると言っていたので試作機には付いていないようだ。
「ペシエラ」
シアンが部屋を出ていくと、ロゼリアはペシエラに話し掛けた。
「なに、ロゼリア」
「それだけの能力がありながら、どうしてあの時はあんな真似を? 婚約者の立場なら、実力で私から奪えたはずよ」
「恋は盲目なのですわ」
ペシエラはそう言って、口に人差し指を当ててウインクをしていた。
「やれやれ。女王を体験して、ずいぶんと神経が図太くなったわね」
ロゼリアがため息をついてペシエラに笑い掛けると、
「やはり、ヒロインはこれくらい強くないとね」
チェリシアが加わって、部屋に爆笑の声が響き渡るのだった。
マゼンダ商会にやって来たロゼリアとチェリシアを、ペシエラが迎える。
「ペシエラ、退屈してなかった?」
「ええ、大丈夫ですわ」
チェリシアが尋ねれば、ペシエラは満面の笑みでそう答えた。
「ペシエラ、なんだか機嫌が良さそうね」
ロゼリアが尋ねると、待ってましたと言わんばかりに、ペシエラはさっき作り上げた写真撮影機を取り出した。
「何なの、それは」
「ふっふっふっ、私たちの写真魔法を誰でも扱えるようにした撮影機なのですわ。魔力無しでも扱えますのよ?」
「えっ? カメラを作ったの?」
チェリシアが聞き慣れない単語を使って驚いていた。
「かめら? チェリシアの前世の道具なの?」
「ええ。レンズを通して見える景色を写し取る道具です。写真魔法の発想の元ネタです」
なんとまぁ、ペシエラはチェリシアの前世の世界にあったカメラを作ってしまったのだ。
ペシエラから原理の説明を受けると、やはりカメラそのもののようで、ロゼリアたちが来る前に複数枚撮影しては、すぐさま紙に現像していたようだ。
「枚数には制限はありませんが、現像したい写真を選ぶのが少し手間なくらいですわ。ただ、写真魔法と違って、撮った風景が失われませんけれど、魔石の魔力が切れた時にどうなるのかが問題ですわね」
ペシエラの説明を聞けば聞くほど、まるでデジタルカメラである。
右手の部分にレバーがあり、上を向いていれば現像、下を向いていれば撮影モードになるそうだ。
ペシエラはレバーを下にした状態で、試しに二枚撮ってみる。音が鳴らず静かなものである。
レンズを紙に向けてレバーを上に切り替えると、紙に撮影された風景が投影される。レバーの下に隠れていた円盤型に削った魔石をくるくると回すと、撮影された風景が切り替わっていく。そして、その魔石を押し込むと、紙に選択された風景が写真として写し出された。
「すごいわ、ペシエラ。よくこんな複雑な魔法術式を組み込めたわね」
「お姉様が考えた写真魔法から工夫してみましたの。なにせ学園に行けなくて暇でしたから」
チェリシアが褒めると、ペシエラは写真撮影機を作った経緯を説明した。暇だからと言っても作れてしまうあたり、天才なのかも知れない。
これだけの魔法と頭脳があれば、なるほどアイヴォリー王国にもたらす恩恵は大きいだろう。ペシエラから聞いた逆行前の国の盛り上がりも信じられる話だ。
ただその時は、ペイル王子とマゼンダ侯爵派の暗躍で潰されてしまったのだ。つまりは、ロゼリアが生きていてマゼンダ侯爵家が現在なら、高確率で未来は明るいのだろう。
ただ、今は写真撮影機の話で盛り上がっている。
そこへ、不意に部屋の扉が叩かれる。
「ペシエラ様、先程お持ちした調査経過報告書をお持ちしました」
シアンだった。
「あ、シアン、ご苦労ですわ。ロゼリア付なのに私の頼みまで聞いて頂いて、本当に感謝致しますわ」
ペシエラはこう言って、写真撮影機でシアンをパシャリと撮った。
一瞬身構えたシアンだったが、次に出された自分の姿が写った紙を見て、ちょっと呆れているようだ。
「これは、私がさっき試作品として作った写真撮影機と言いますの。本当はまだ改良が必要なのですが、よければこの試作機を情報収集にお役立て下さいませ」
そう言って、ペシエラはカメラをシアンに渡す。シアンは、
「畏まりました。調査の者にお渡ししておきますので、一応、使い方をお教え願えませんでしょうか」
と受け取った上で、使い方を聞いてきた。
「そうでしたわね。では、お教えしますわ」
そして、ペシエラはシアンにカメラの使い方を教えた。
どうやら、音と光が出ない方のカメラは、このために作成したらしい。暗闇でも撮れるのか気にはなるところだが、後で聞けば改良すると言っていたので試作機には付いていないようだ。
「ペシエラ」
シアンが部屋を出ていくと、ロゼリアはペシエラに話し掛けた。
「なに、ロゼリア」
「それだけの能力がありながら、どうしてあの時はあんな真似を? 婚約者の立場なら、実力で私から奪えたはずよ」
「恋は盲目なのですわ」
ペシエラはそう言って、口に人差し指を当ててウインクをしていた。
「やれやれ。女王を体験して、ずいぶんと神経が図太くなったわね」
ロゼリアがため息をついてペシエラに笑い掛けると、
「やはり、ヒロインはこれくらい強くないとね」
チェリシアが加わって、部屋に爆笑の声が響き渡るのだった。
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