逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
152 / 731
第七章 一年次・後半

第150話 氷山エリアへ

しおりを挟む
 翌日、まずは防寒対策からスタート。火の神獣相手なら防寒具は愚策だろうが、そこに到達するまでが恐ろしく寒いのだから仕方がない。真逆の環境が同居とは、とんでもない設定である。
 とにかく、理不尽な環境に立ち向かうには準備が必要だ。
 とりあえず、もこもこの毛皮のコートに帽子、それとブーツを購入する。ブーツの底は断熱加工で、少し分厚めになっている。帽子は耳も覆う物となっているが、聴力の邪魔をしないという優れもの。耳を覆うのに音はしっかり通すらしい。
 普段の華やかなドレスとは程遠い。防寒具に過度のおしゃれを求めてはいけないのだ。この防寒具は、アイリスも含めてお揃いのものを揃えた。なので、侍女としての生活に馴染んできたアイリスは、ちょっと遠慮しがちな態度を見せていた。
 食事に関しては、チェリシアの収納魔法にまだたくさん眠っている。なのでこれは問題ない。野営は防壁を使えば普段通りでも問題はないが、さすがに地面が一面の雪では、そこにも対策は必要だった。
 さすがに農業知識は豊富でも、雪山登山の知識は無いに等しいチェリシア。こればかりは自分たちの魔力任せである。
 時期的に考えても、吹雪いている可能性すらある。目指すのは、雪山の中でも不自然に雪が無い場所と非常分かりやすいのだが、そこに着くまでに視界が無くならないとも限らない。この日一日は、しっかりとした下準備に費やされた。
 屋敷に戻ったロゼリアたちは、まずはお風呂で疲れを癒す。そして、夕食の席で、
「お嬢様、本当に雪山に行かれるおつもりですか?」
「ええ。自分の領地を知る事は大事ですからね。誰も向かわないという場所ですから、逆に興味があるというものです」
 執事の問い掛けに、はっきりと言い切るロゼリア。執事はその決意の固さに、さっさと止める事を諦めた。
 ペシエラは、ここでも違和感を感じた。
 執事なのだから、仕える貴族に対して忠実ではあるし、時には苦言を呈する事だってある。しかし、この執事の言動のいちいちが、ペシエラには違和感を感じさせていた。
 ところが、いくら考えたところで、これに結論が出るわけではない。執事の態度としてもおかしくはないので、ペシエラは自分の胸三寸にしまう事にした。
 翌日、しっかりと準備を終えて、ロゼリアたちは執事の見守る中、北の氷山エリアを目指してエアリアルボードで進む。マゼンダ領の一番北の村まで馬車で三日、氷山エリアはそこから一番近い麓まで二日かかる距離だ。馬車で二日なので、村も冬はそれなりに寒い。しかし、であって、決して住めないわけではない。氷山エリアとは、まるで寒さが違うのだ。
 それなわけで、エアリアルボードで一気に村の近くまで進む。エアリアルボードなら、氷山エリアまでたったの二日だ。村は帰りに見てみる事にして、ロゼリアたちは氷山エリアへと直行した。
 麓に着いて分かったが、確かに氷山の一部分に不自然に茶色い部分が見える。しかも、ほのかに赤い。間違いなくあそこには何かがある。エアリアルボードなら数時間で到達できる位置だった。
 しかし、麓に着いた時は既に日暮れ時。ロゼリアたちはそこで野宿となった。
 翌日、エアリアルボードで一気に山を登る。周りはほぼ常に吹雪いているが、チェリシアの防壁の前には効果は無かった。朝の時点で、ペシエラが目的地を指し示す光のコンパスを魔法で作っていたので、どんなに視界不良だろうが意味はない。それに、アイリスもこの山に何かを感じ始めていたので、目的地に到着する事は、もはや確定的であった。
 そして、麓から飛び立って一時間もすれば、不自然な褐色の地面が眼下に広がった。この一帯だけ吹雪すらも近寄れない場所になっていた。本当に怪しいだけの場所である。
「おやおや、そこに居るんだろう?」
 召喚もしていないのに、勝手に蒼鱗魚が飛び出してきた。
 すると、この声に応えるように、あたりの空気が激しく振動する。よく見れば、地面すらも揺れている。
 しばらくすると、轟音と共に、地面の中から何かが飛び出した。そして、目の前に降り立ったのは、全身が激しく燃え盛る炎を纏う狼だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...