逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
156 / 731
第七章 一年次・後半

第154話 禁法の主人

しおりを挟む
「なるほど、二人が剣術にも魔法にも秀でている理由が分かりました」
 幻獣ファントムとの話を終えて、ようやく気持ちが落ち着いたアイリスは、ロゼリアたちにそんな言葉をぶつけていた。
「しかし、あり得ない事ですね。以前の能力を引き継いだまま、若返るような事なんて、普通じゃないです」
「だからこそ、禁法と言われるわけじゃないの」
 アイリスの感想を、さらっと一言で片付けるロゼリア。容赦無し。
「それと、私を助けようとした理由って……」
「そう、逆行前の合宿では何人か死んでたから、誰も死なせたくなかっただけですわ。まあ、助けようとせいで、あの一件の犯人があなただと分かってしまいましたが」
 アイリスのもう一つの疑問には、ペシエラが平然とした表情でさらりと答えていた。
 一人蚊帳の外状態のチェリシアは、気を紛らわせるようにご飯を用意し始めた。トムも黙ってそれを手伝っていた。


 一方その頃……。
「お呼びでしょうか、我が主人」
 薄暗い部屋の中に、濃い紫の髪の毛の女性が現れる。そして、主人と呼んだ人物の前に跪いた。
「ええ、頼んでおいた事は、順調かしら」
「はい。アイリス嬢とは接触しました。そして、見事にフェンリルを手懐けておりましたね。さすがはベル様の子孫でございます」
 尋ねられた事に対し、女性は一つ一つ報告を重ねていく。それを聞きつつ、主人と呼ばれた人物は少しずつ表情を曇らせていく。
「あの腹黒男爵は、まだ諦めていないというのかしら」
「その様でございます。ロゼリア嬢、チェリシア嬢、ペシエラ嬢の三人の防壁魔法に、神獣幻獣の警備もあって計画が進まない事に苛つくばかりでして、諦める気配はまったくございません」
 主人も女性も大きなため息をつく。
「ならば、無理やり大勢の目につく場所でやらかしをお披露目するしかないかしらね」
「その様に存じます」
 言いながら、二人はもう一度大きなため息をついた。
 二人の言う腹黒男爵とは、当然パープリア男爵の事だ。表向きは人の良さをアピールしているが、裏ではいろいろと悪どい事をしている。特に得意なのが暗殺。元々そういった事が得意な一族だから仕方がないが、貴族に取り立てられながらも、ここまで国に染まらないのも珍しいものである。
「まあともかく、あの腹黒男爵は止めないといけませんね。あの一族は昔から魔物並みに洒落にならない事をやらかしてくれていましたから」
 女性の方が、額に手を当てながら首を振って言う。
「ええ、頼みましたよ、スミレ。……いや、幻獣クロノアと呼んだ方がいいかしら」
「スミレでお願いします。この様に人に紛れて活動する事など、普通はあり得ないんですから、幻獣の名は伏せ続けさせて頂きます」
 主人と呼ばれて人物から、衝撃的な単語が飛び出た。
 なんと、この女性はロゼリアたちがカイスの村で会ったスミレであり、幻獣であったのだ。
「ええ、そうね。精霊レイニには勘付かれていたけど、カイスの村での一件、本当にありがとう」
「いえ。ですが、お辛いですよね、主人」
「ええ。でも、それを分かって自分で選んだ道。……後悔なんて無いわ」
 スミレに言われて、主人は少し言葉を詰まらせる。二人の会話では、何が辛いのかがよく分からない。
「……そらよりも、早めにあの腹黒男爵を潰す方法を考えましょう。いう暴挙に出るか分かったものではないわ」
「畏まりました。では、もうしばらく潜入して、交流網を調べ上げてきます」
「頼んだわよ」
 スミレはそう言うと、主人の返事を待たずにその場から姿を消した。
 主人の方はスミレを見送ると、座っている椅子に深く寄り掛かって天井を見る。
「前回もあの男爵の企みに気が付いたのに、あの時は何もできなかった。その結果を思うと、後悔してもしきれないわ」
 主人はちらりと机の上に目をやる。一枚の写し絵のようだ。
「だからこそ、絶対お救いすると誓ったのです。……たとえ、自分が消えてしまうとしても」
 そう言った主人の目からは、一筋の光る物が流れているのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...