逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
161 / 731
第八章 二年次

第158話 二対一

しおりを挟む
「さて、私が剣と魔法を織り交ぜた戦い方を見せてあげますわ」
 剣を構えたペシエラは、意気揚々と言い放つ。ただの挑発である。
「息が上がってきてますからね。お二人同時に相手して差し上げますわ」
 この人、どこまで傲慢なのだろう。
 剣術の腕を上げた王子二人を、三つも年下の少女が一人で相手するなど、いくら疲れているからといっても思い上がりすぎだろう。
 普通ならば誰もがそう思う。
 ところが、ペシエラは魔法無しでも十分ペイル渡り合える実力は持っているのだ。そこにほぼ無尽蔵の魔力から繰り出される魔法が加わったらどうなるか。それは誰にも分からないと言っても過言ではない。
 ペシエラと対戦経験のあるペイルは、それが十分分かっている。一方のシルヴァノも、近い年頃ならトップクラスの実力の持ち主であるオフライトと、あれだけの善戦をしたので、ペシエラの実力を評価していた。
 結果、二人は目の前のペシエラを、三つ年下の少女とは見ていない。実力の伴う騎士だと見て剣を構えた。
 この事態をチェリシアはおどおどして見ているが、止めようとしたところをロゼリアが制止する。
「しっかりしなさい。ペシエラの事を信じられないの? そらに、アイリスも止めようとしていないわ。とにかく落ち着きなさい」
 ロゼリアはチェリシアの前に手を出しているが、視線はまっすぐペシエラたちを見ている。チェリシアの後ろに居るアイリスも、真剣な表情でペシエラたちを見ていた。二人がここまで見守るつもりなので、チェリシアも駆け出そうとした前提姿勢を正し、直立してペシエラを見る。ペシエラはそれに気が付いたのか、チェリシアを見て口をしっかりと閉めて力強く微笑んだ。
「……始めて大丈夫か?」
 ペイルが問う。
「こちらは万全ですわ。そちらがよろしければどうぞ」
 ペシエラはさらっと答えるが、これは当然である。今まで打ち合っていた人間と、ついさっきここに来た人間。体調の差は歴然だからだ。
 答えを返したペシエラは、ぐっと剣を握って深く構える。相変わらずのサーベル両手持ちである。
 これを合図に、シルヴァノとペイルが動く。二人ともペシエラに向けて一直線だ。ペシエラは迎撃のために力を込める。
 が、途中でペイルがシルヴァノと離れるように横へと動く。
「そう来ましたのね」
 ペシエラは動じない。
 ガキィンと、シルヴァノとペシエラの剣がぶつかり合う。シルヴァノはできるだけ力を込め、ペシエラを押しとどめようとしているようだ。
 当然ながら、この間にペイルがペシエラの死角から詰め寄ってくる。それを見ているロゼリアだが、チェリシアが声を出さないように口をしっかりと押さえていた。チェリシアがもごもご言っているが気にしない。
「殿下、それで気を引いたおつもりで?」
「なにっ?!」
 ペシエラがそう言うと、突然ペシエラの背後を守るように土壁が出現する。しかも、ペイルが斬りかかろうとしている、その方向にピンポイントで。
 斬りかかろうとしたペイルの剣は、当然ながら土壁に弾かれる。
「くっ、見破られたか」
 ペイルは悔しそうだ。しかし、その瞬間もペシエラは見逃さない。目の前のシルヴァノの剣を弾き返しつつ、ペイルを牽制するように土壁を通して魔法を放つ。土壁の一部が棒のように変化して、ペイルに襲いかかったのだ。
「なっ!」
 攻撃を防がれたショックの一瞬の隙。それを突かれたペイルは、まともにその攻撃を喰らってしまった。
「まだまだ甘いですわね」
 剣で押し込まれているはずのペシエラは、どういうわけか余裕がある。
 それもそうだろう。ペシエラは六属性全てに適性があるのだ。背後に土魔法を使いながら、シルヴァノに対しても魔法を使っていた。その魔法も少しずつ強くなってきているので、さすがにシルヴァノも気が付いたようだ。
「これは、風か!」
「ご名答」
 だが、時既に遅し。シルヴァノは風によって弾き返されてしまった。ちなみに、ペシエラは更に二人が怪我をしないように、風で包み込んでおいた。剣が刺さらない様にもちゃんと対応済み。この幼女、強すぎる。
「まったく、単調すぎますわ。騎士の試合ならそれで十分でしょうけど、戦争や魔物との戦いでは、その甘さが命取りになりますわ」
 尻餅をつく王子二人に、バッサリ言い放つペシエラ。そして、ペシエラは二人から視線を外し、訓練場の上の方を見る。
「文字通り高みの見物とは、いいものですわね。私の魔力に干渉しようなど、片腹痛いですわ」
 ペシエラが大声で語りかけた方向を見るが、そこには誰も居ない。どういう事だ。
「無視を決め込むのですわね。……よろしいですわ。ならばこの場に引き摺り出すまで!」
 ペシエラから膨大な魔力が解き放たれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...