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第八章 二年次
第172話 カリスマ
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木剣を折るという事態を引き起こしたが、それ以外は問題もなく二日目の日程を消化した。いやはや、木剣を折ってしまうとか、ペシエラの規格外っぷりにますます磨きがかかってしまった。
「ペシエラ、聞きましたよ。木剣を叩き折ったそうね」
ロゼリアにもしっかり伝わっていた。
「し、仕方ないのですわ。プラティナ様の雰囲気から言って手加減などできませんし、それに……」
「それに?」
「わ、私だって木剣が折れるなんて思ってみませんでしたわよっ!」
目一杯焦ったように言い訳をするペシエラ。珍しい光景である。
「私たちも見てみたかったわね、アイリスさん」
「はい、それは是非とも」
ニヤつきながら言うチェリシアに、無表情で同意するアイリス。現時点でペシエラの味方は居なかった。ペシエラがとても珍しく涙目になっている。
「騎士科の参加者で女性はプラティナ様だけでしたが、だからといって私があちらに参加させられたのは納得いきませんわ」
ペシエラはぶつくさと文句を言っている。
「あれ、プラティナ様お一人だったのね」
「ええ、そうですわ」
ペシエラの文句にロゼリアが反応した。
「あぁ、それで魔法どころか剣の腕も立つペシエラに相手をさせたのね。というか、騎士科の参加者って奇数だったのね」
騎士科の参加人数を知って、ロゼリアは納得がいく。
「しかし、普通なら教官が溢れた一人を相手にするのに、他科から学生を呼ぶだなんて……。プラティナ様が公爵家の方だから、逃げたのね」
「なんとまあ……」
ロゼリアとチェリシアが呆れていた。
ペシエラを呼んだ理由を突き詰めれば、まあその通りなのであった。教官も一応貴族の出ではあるが、子爵や男爵の次男以下だったりするので、お偉様相手に下手な事をすれば首が(物理的に)飛びかねないのだ。保身に走った結果、公爵令嬢のプラティナの相手にペシエラを選ぶという決断に至ったというわけだ。
そうやってロゼリアたちが話をしていると、不意に部屋の扉が叩かれる。
「ペシエラ様、いらっしゃいますか?」
扉の外から聞こえてきたのは、プラティナの声だった。
「ええ、いますわよ。ちょうどお話ししていたところですので、お入りになって下さいませ」
「では、失礼致します」
ペシエラはすんなりとプラティナを部屋に通す。しかし、入ってきた面々に驚いた。
プラティナだけかと思いきや、グレイアも居たのだ。その隣にはプラティナ仕えの侍女も立っている。
「どうされたのですか、プラティナ様」
不躾に質問するのはロゼリアだった。貴族社会のしきたりがしっかり身に付いているロゼリアがこのような行動に出るのも、お互い学生で、しかも合宿中だからこそである。普段ならもてなしも無しに質問をぶつけるような真似はしない。
「いえ、ペシエラ様に剣と魔法の両方を見て頂きたいと思いまして、お伺いした次第です」
「えっ?」
プラティナが頭を下げてから言い出した事に、アイリス含めて四人が驚いた。まさか公爵令嬢が伯爵令嬢に頭を下げるとは思ってなかったからだ。
「わたくしは公爵家の者として研鑽してきたつもりですが、上には上が居ると今回改めて思い知らされました」
プラティナの表情は、息を飲むほどに強い眼差しを湛えている。
「去年の時点で実力は認識しておりましたが、やはり身分というもののせいで言い出せなかったのです」
続けてこう言うと、プラティナは俯いてしまった。
「け、決してペシエラ様が殿下の婚約者に決まったから媚びる、というわけではありません。誰のために剣を振るうべきか、その結論を出せたのです」
そう話すプラティナの顔は、どこか赤い。
この表情に、地球の知識があるチェリシアがすぐに勘付いた。
ペシエラにはそもそも、元々はチェリシアなので、ヒロインとして愛される加護がある。それに加えて剣や魔法の才能が高く、意外と面倒見もいい。なので、どうしても人を惹きつけてやまない魅力があるのだ。
どうやらペシエラは、そのカリスマ性で公爵令嬢まで落としてみせたようである。ここまで気が付いたらチェリシアの顔は、知らずとにやけてしまっていた。
「……お姉様、気持ち悪いですわよ」
ペシエラがジト目でチェリシアを見る。
「あっ、ごめん。つい……」
「つい、じゃありませんわ。で、プラティナ様の要件をお聞き致しますわ」
ペシエラはチェリシアから視線を戻すと、プラティナとの話に戻った。
「はい、合宿中はもちろん、学園でも時々わたくしの剣と魔法を見て頂きたいのです。無理にとは言いませんが、よろしくお願い致します」
プラティナが再び頭を下げる。
プラティナの侍女とグレイアは、止めるどころか一緒に頭を下げている。こうなってしまっては、ペシエラは諦めたようにため息をつくしかなかった。
「はぁ、仕方ありませんわね。格下かつ年下に対してここまで素直に頭を下げられたのでは、私も断る事ができませんわ」
この言葉を聞いたプラティナは、パァッと顔を明るくして頭を上げた。
こうして、ペシエラには年上の弟子が増えたのであった。この状況にロゼリアは困惑し、チェリシアは満足げに笑みを浮かべ、アイリスは更に尊敬の念を深めたのだった。
「ペシエラ、聞きましたよ。木剣を叩き折ったそうね」
ロゼリアにもしっかり伝わっていた。
「し、仕方ないのですわ。プラティナ様の雰囲気から言って手加減などできませんし、それに……」
「それに?」
「わ、私だって木剣が折れるなんて思ってみませんでしたわよっ!」
目一杯焦ったように言い訳をするペシエラ。珍しい光景である。
「私たちも見てみたかったわね、アイリスさん」
「はい、それは是非とも」
ニヤつきながら言うチェリシアに、無表情で同意するアイリス。現時点でペシエラの味方は居なかった。ペシエラがとても珍しく涙目になっている。
「騎士科の参加者で女性はプラティナ様だけでしたが、だからといって私があちらに参加させられたのは納得いきませんわ」
ペシエラはぶつくさと文句を言っている。
「あれ、プラティナ様お一人だったのね」
「ええ、そうですわ」
ペシエラの文句にロゼリアが反応した。
「あぁ、それで魔法どころか剣の腕も立つペシエラに相手をさせたのね。というか、騎士科の参加者って奇数だったのね」
騎士科の参加人数を知って、ロゼリアは納得がいく。
「しかし、普通なら教官が溢れた一人を相手にするのに、他科から学生を呼ぶだなんて……。プラティナ様が公爵家の方だから、逃げたのね」
「なんとまあ……」
ロゼリアとチェリシアが呆れていた。
ペシエラを呼んだ理由を突き詰めれば、まあその通りなのであった。教官も一応貴族の出ではあるが、子爵や男爵の次男以下だったりするので、お偉様相手に下手な事をすれば首が(物理的に)飛びかねないのだ。保身に走った結果、公爵令嬢のプラティナの相手にペシエラを選ぶという決断に至ったというわけだ。
そうやってロゼリアたちが話をしていると、不意に部屋の扉が叩かれる。
「ペシエラ様、いらっしゃいますか?」
扉の外から聞こえてきたのは、プラティナの声だった。
「ええ、いますわよ。ちょうどお話ししていたところですので、お入りになって下さいませ」
「では、失礼致します」
ペシエラはすんなりとプラティナを部屋に通す。しかし、入ってきた面々に驚いた。
プラティナだけかと思いきや、グレイアも居たのだ。その隣にはプラティナ仕えの侍女も立っている。
「どうされたのですか、プラティナ様」
不躾に質問するのはロゼリアだった。貴族社会のしきたりがしっかり身に付いているロゼリアがこのような行動に出るのも、お互い学生で、しかも合宿中だからこそである。普段ならもてなしも無しに質問をぶつけるような真似はしない。
「いえ、ペシエラ様に剣と魔法の両方を見て頂きたいと思いまして、お伺いした次第です」
「えっ?」
プラティナが頭を下げてから言い出した事に、アイリス含めて四人が驚いた。まさか公爵令嬢が伯爵令嬢に頭を下げるとは思ってなかったからだ。
「わたくしは公爵家の者として研鑽してきたつもりですが、上には上が居ると今回改めて思い知らされました」
プラティナの表情は、息を飲むほどに強い眼差しを湛えている。
「去年の時点で実力は認識しておりましたが、やはり身分というもののせいで言い出せなかったのです」
続けてこう言うと、プラティナは俯いてしまった。
「け、決してペシエラ様が殿下の婚約者に決まったから媚びる、というわけではありません。誰のために剣を振るうべきか、その結論を出せたのです」
そう話すプラティナの顔は、どこか赤い。
この表情に、地球の知識があるチェリシアがすぐに勘付いた。
ペシエラにはそもそも、元々はチェリシアなので、ヒロインとして愛される加護がある。それに加えて剣や魔法の才能が高く、意外と面倒見もいい。なので、どうしても人を惹きつけてやまない魅力があるのだ。
どうやらペシエラは、そのカリスマ性で公爵令嬢まで落としてみせたようである。ここまで気が付いたらチェリシアの顔は、知らずとにやけてしまっていた。
「……お姉様、気持ち悪いですわよ」
ペシエラがジト目でチェリシアを見る。
「あっ、ごめん。つい……」
「つい、じゃありませんわ。で、プラティナ様の要件をお聞き致しますわ」
ペシエラはチェリシアから視線を戻すと、プラティナとの話に戻った。
「はい、合宿中はもちろん、学園でも時々わたくしの剣と魔法を見て頂きたいのです。無理にとは言いませんが、よろしくお願い致します」
プラティナが再び頭を下げる。
プラティナの侍女とグレイアは、止めるどころか一緒に頭を下げている。こうなってしまっては、ペシエラは諦めたようにため息をつくしかなかった。
「はぁ、仕方ありませんわね。格下かつ年下に対してここまで素直に頭を下げられたのでは、私も断る事ができませんわ」
この言葉を聞いたプラティナは、パァッと顔を明るくして頭を上げた。
こうして、ペシエラには年上の弟子が増えたのであった。この状況にロゼリアは困惑し、チェリシアは満足げに笑みを浮かべ、アイリスは更に尊敬の念を深めたのだった。
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