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第八章 二年次
第190話 調整の試行錯誤
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「うーん、魔法が違う……。こう、熱を発するイメージで……」
チェリシアが商会の中で唸っている。
「どうされたんですかい、チェリシアお嬢様は」
「魔法で動く調理窯を作ろうとなさっているのよ。それで、魔石に込める魔法で苦戦しているところなのですよ」
商会の従業員がその様子を見ていた。
そう、チェリシアは火ではなく熱を発する魔法を込めようとしているのだが、これがなかなかうまくいかない。
「うーん、こたつのようなイメージでいいと思ったんだけど、うまく再現できないわね」
はぁーっと大きなため息をついて、チェリシアは椅子にもたれかかった。
チェリシアが今居るのは、職人たちが働く工房の中。万が一の事故に備えて、人の目に付く場所に居るのだ。とはいえ、チェリシアの魔法制御はなかなかなので、事故が起きる可能性はかなり低い。
「赤く光って熱が発生する感じでいいのよね?」
チェリシアはぶつぶつ言いながら、魔石に込める魔法を調整していく。
「こたつよりハロゲンヒーターの方がいいかしら」
そうは言っているが、それでも温度としては低い。三百度近くまで上げなければ調理器具としては使えない。チェリシアはそういう点が欠落しているようだった。
「あら、チェリシア。こんな所に居たのね」
話を聞いたロゼリアがやって来た。しかし、チェリシアは作業に集中しているのか、ロゼリアにまったく気が付いていない。
「あら、これは例の調理窯の魔石かしら」
ロゼリアはチェリシアの目の前にある、赤く光る魔石に気が付いた。
「きゃっ!」
横からロゼリアの手が出てきてはじめて、チェリシアは驚きの声を上げて反応を示した。
「な、なんだ、ロゼリアかぁ」
後ろを見て、チェリシアは安堵の声を漏らす。
「なんだ、じゃないでしょう。まったく、集中しすぎて無防備でしたわよ。いくら商会の中とはいえ、気を許しすぎでは?」
ロゼリアからお小言を食らって、しゅんと顔を下に向けるチェリシア。その様子を見て、ロゼリアはため息をついた。
「……その様子では、うまくいってないようね」
「うん、熱を持たせるように魔法を込めてるんだけど、熱いというより温かい程度にしかならなくて……。どうしてかしら」
チェリシアが顎に手を当てて、頭を捻っている。ロゼリアはもう一度ため息をついた。
「根本的なイメージが間違ってるんじゃないのかしら。火を使う調理器具は、もれなく熱すぎるのよ? あなたは知らないうちに手加減をしてるんじゃ?」
ロゼリアにこう言われて、チェリシアはハッとした。
「そうだったわ。天ぷらにしてもオーブンにしても、百八十度とか二百五十度とか、かなり高い温度だったわ。……私ったら、こたつとか言って生ぬるい事をしてたわ」
チェリシアは改めて魔石に向かい、魔法を込めていく。百八十度とか二百五十度とか、よく分からない単語に、ロゼリアは首を傾げていた。
「ロゼリア、ありがとう。私ったら初歩的なミスをしてたわ」
「……さすがに初歩以前の問題では?」
魔法を使うチェリシアの後ろで、ロゼリアは完全に呆れていた。
次の瞬間、燃えないように土のコーティングされたテーブルの上で、魔石が赤々と光り輝いていた。さすがに高温を至近距離で受けているチェリシアからは、汗がだらだらと流れ始めた。
「うん、この熱さだわ。これでやっと次の段階に進めるわ」
チェリシアは満足そうだった。
「とりあえず、熱いから魔石の反応を消しなさい。このままだと、あなた燃えるわよ」
「えっ、あっ、そ、そうね……」
かすかに視界が揺らいだ事で、チェリシアは慌てて魔石の魔法を切る。すると不思議な事に、さっきまでの熱が一瞬にして消えてしまった。どうやら余熱は残らないようである。
「あらら、余熱が残らないんだ」
「一瞬で冷えてしまったわね」
「うん。これならオーブンレンジのような小型の装置を使って実験するしかないわ」
チェリシアはやる気が出たようである。
「その”おーぶんれんじ”とか分からないけど、小型の調理窯を作って試してみるって事ね?」
「うん、そうそう。小型の石窯って、どれくらいで作れるかな?」
ロゼリアの言葉を肯定した上で、チェリシアは質問を返す。ロゼリアはやれやれといった感じでチェリシアの質問に答える。
「一日あればできると思うわ。すぐに職人に声を掛けてくるから、あなたは少し休んでなさい」
ズビシとチェリシアに指差しで釘を刺すと、ロゼリアは商会の中に居る職人に声を掛けに行った。
こうして調理窯作成は、一つ前進したのであった。
チェリシアが商会の中で唸っている。
「どうされたんですかい、チェリシアお嬢様は」
「魔法で動く調理窯を作ろうとなさっているのよ。それで、魔石に込める魔法で苦戦しているところなのですよ」
商会の従業員がその様子を見ていた。
そう、チェリシアは火ではなく熱を発する魔法を込めようとしているのだが、これがなかなかうまくいかない。
「うーん、こたつのようなイメージでいいと思ったんだけど、うまく再現できないわね」
はぁーっと大きなため息をついて、チェリシアは椅子にもたれかかった。
チェリシアが今居るのは、職人たちが働く工房の中。万が一の事故に備えて、人の目に付く場所に居るのだ。とはいえ、チェリシアの魔法制御はなかなかなので、事故が起きる可能性はかなり低い。
「赤く光って熱が発生する感じでいいのよね?」
チェリシアはぶつぶつ言いながら、魔石に込める魔法を調整していく。
「こたつよりハロゲンヒーターの方がいいかしら」
そうは言っているが、それでも温度としては低い。三百度近くまで上げなければ調理器具としては使えない。チェリシアはそういう点が欠落しているようだった。
「あら、チェリシア。こんな所に居たのね」
話を聞いたロゼリアがやって来た。しかし、チェリシアは作業に集中しているのか、ロゼリアにまったく気が付いていない。
「あら、これは例の調理窯の魔石かしら」
ロゼリアはチェリシアの目の前にある、赤く光る魔石に気が付いた。
「きゃっ!」
横からロゼリアの手が出てきてはじめて、チェリシアは驚きの声を上げて反応を示した。
「な、なんだ、ロゼリアかぁ」
後ろを見て、チェリシアは安堵の声を漏らす。
「なんだ、じゃないでしょう。まったく、集中しすぎて無防備でしたわよ。いくら商会の中とはいえ、気を許しすぎでは?」
ロゼリアからお小言を食らって、しゅんと顔を下に向けるチェリシア。その様子を見て、ロゼリアはため息をついた。
「……その様子では、うまくいってないようね」
「うん、熱を持たせるように魔法を込めてるんだけど、熱いというより温かい程度にしかならなくて……。どうしてかしら」
チェリシアが顎に手を当てて、頭を捻っている。ロゼリアはもう一度ため息をついた。
「根本的なイメージが間違ってるんじゃないのかしら。火を使う調理器具は、もれなく熱すぎるのよ? あなたは知らないうちに手加減をしてるんじゃ?」
ロゼリアにこう言われて、チェリシアはハッとした。
「そうだったわ。天ぷらにしてもオーブンにしても、百八十度とか二百五十度とか、かなり高い温度だったわ。……私ったら、こたつとか言って生ぬるい事をしてたわ」
チェリシアは改めて魔石に向かい、魔法を込めていく。百八十度とか二百五十度とか、よく分からない単語に、ロゼリアは首を傾げていた。
「ロゼリア、ありがとう。私ったら初歩的なミスをしてたわ」
「……さすがに初歩以前の問題では?」
魔法を使うチェリシアの後ろで、ロゼリアは完全に呆れていた。
次の瞬間、燃えないように土のコーティングされたテーブルの上で、魔石が赤々と光り輝いていた。さすがに高温を至近距離で受けているチェリシアからは、汗がだらだらと流れ始めた。
「うん、この熱さだわ。これでやっと次の段階に進めるわ」
チェリシアは満足そうだった。
「とりあえず、熱いから魔石の反応を消しなさい。このままだと、あなた燃えるわよ」
「えっ、あっ、そ、そうね……」
かすかに視界が揺らいだ事で、チェリシアは慌てて魔石の魔法を切る。すると不思議な事に、さっきまでの熱が一瞬にして消えてしまった。どうやら余熱は残らないようである。
「あらら、余熱が残らないんだ」
「一瞬で冷えてしまったわね」
「うん。これならオーブンレンジのような小型の装置を使って実験するしかないわ」
チェリシアはやる気が出たようである。
「その”おーぶんれんじ”とか分からないけど、小型の調理窯を作って試してみるって事ね?」
「うん、そうそう。小型の石窯って、どれくらいで作れるかな?」
ロゼリアの言葉を肯定した上で、チェリシアは質問を返す。ロゼリアはやれやれといった感じでチェリシアの質問に答える。
「一日あればできると思うわ。すぐに職人に声を掛けてくるから、あなたは少し休んでなさい」
ズビシとチェリシアに指差しで釘を刺すと、ロゼリアは商会の中に居る職人に声を掛けに行った。
こうして調理窯作成は、一つ前進したのであった。
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