逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
223 / 731
第八章 二年次

第220話 決着は一瞬で

しおりを挟む
 学園の訓練場。ペシエラたちは魔物を牽制するも倒す事ができず、苦戦を強いられていた。倒せば新たな魔物が召喚陣から現れる。召喚される数に上限がある事が分かったが故の対応である。
 しかし、それも突如として終わりを告げる。
「ペシエラ、ライが魔力供給の元を絶ったそうだ。陣が壊せるぞ」
「ありがとう、インフェルノ」
 そう、パープリアの屋敷にあった魔力供給の元となったデーモンハートを、ライが壊したのである。これで遠慮なく魔物を叩けるというものだ。
「さあ、覚悟なさい。この地に出てきた事を不運に思うといいですわ」
 ペシエラは怒り心頭だった。
 どかーんと極大範囲魔法を落として、あっという間に召喚陣ごと魔物を倒してしまった。相当にストレスが溜まっていたようだった。逆行前はロゼリアに一方的に恨みを溜めていたペシエラだったが、今回は割と脳筋に傾倒していたようだ。
 チェリシアたちが駆けつけた時には、既にすべてが終わっていた。
「えっ、これ……」
「あら、遅かったですわね、お姉様」
 魔物の残骸の上に堂々と立つペシエラ。その姿はまるで覇王。圧倒的なペシエラの姿を見たチェリシアは、驚きのあまりに固まってしまった。ペシエラの傍には、共闘していたはずのロゼリアも呆然と佇んでいる。
「ロゼリア?」
 あまりにも放心状態が酷かったので、チェリシアは心配になって声を掛ける。
「えっ、あっ、チェリシア。観客たちは無事かしら」
 ボーッとしていたので、ロゼリアはワンテンポ、ツーテンポ遅れて反応する。チェリシアの後ろでは避難誘導に付き合っていたシルヴァノとペイル、それとチークウッドが苦笑いをしている。
「ロゼリアが呆然とするのも、分かる気がするけれどもね……」
 訓練場内の惨状を見て、チェリシアは顔を引き攣らせている。おびただしいまでの魔物の死骸が会場内に散乱しているからだ。ラルクとトルフもあまりのペシエラの攻撃魔法に、壁際にまで避難していた。
「うむ、以前も見たが、これほどまで殲滅力が高いとは。トルフ、早めに避難して正解だったな」
「わ、わうっ……」
 凶暴極まりないと言われるライトニングウルフのトルフが、すっかりと怯え切っている。それほどまでにペシエラは規格外すぎるという事である。
 呆然とする会場内だったが、観客席から声がする。
「ところで、こいつはどうする? 一応、生きてはいるみたいだ」
 カーマイルだ。彼が抱えるのは、術の発動者である学生だった。どうやら召喚陣を発動する時に魔力をゴッソリ持って行かれたようで、顔面蒼白で力無く全身を投げ出していた。
「回復させて尋問ですわね。召喚陣を仕込んだ宝珠を、一体どこから手に入れたのか吐かせねばなりません」
 ペシエラの表情は怒りに満ちていた。なにせ、召喚陣の発動にパープリアの屋敷の人間を犠牲して、アイリスの母親を危険な目に遭わせたのだ。
 この事件を仕組んだのは、間違いなくパープリア男爵だ。今回の学生の事を考えると、おそらく逆行前のペシエラは、パープリア男爵の駒として利用されたのだろうという事は、今のペシエラであれば容易に想像がつく。もはや、ペシエラにとって、パープリア男爵は憎いだけの相手であった。
 積もり積もった恨み、ここで晴らさねばならない。ペシエラは積年の恨みのせいで、まるで鬼神のごとき表情で笑っていた。
「ペ、ペシエラ。とりあえず先にこの場を収めましょう? これだけ魔物の死骸が転がっているのを放置しておくわけにはいかないわよ」
「それもそうですわね」
 チェリシアの提案を、ペシエラはあっさりと受け入れて、いつもの強気な表情に戻る。その姿を見て、ロゼリアとチェリシアはどこかほっとしていた。
「レイニ、居ますかしら」
「ほいほい、ボクに何の用かな?」
 落ち着いたペシエラがレイニを呼ぶと、すっと姿を現した。
「パープリア男爵邸に行って、ライとアイリスの母親の保護を頼みますわ。あのまま屋敷に置いておくと危険ですから」
「了解。コーラル邸に連れて来ればいいかい?」
「ええ、それでいいですわ」
 ペシエラが頼むと、レイニはすっとその場から姿を消した。
 どうやら、すぐにでもパープリア男爵との決着をつける必要がありそうだ。ロゼリア、チェリシア、ペシエラの三人は、そろってそう強く思うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...