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第八章 二年次
第221話 不貞腐れ暗龍
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「戻ったぞー」
その日の夜、コーラル伯爵邸にレイニが、ライとパープリア男爵夫人アメジスタを連れてやって来た。ただ、二人ともふらついており、すぐさま客間へと運ばれる事になった。レイニの横には、何やら不機嫌なニーズヘッグが立っている。どうやら、自分に商会の仕事とかが回ってこなかったので、仲間外れにされたと思って不貞腐れているようだ。
「いくらパープリアの監視を申しつけられていたとはいえ、そんな楽しそうな事に誘ってもらえなかったのはさすがに腹が立ったぞ」
本当にニーズヘッグは不機嫌そうだ。
ニーズヘッグがこの一件で合流したのは、パープリアの屋敷にライとアメジスタを、レイニが保護にし行った時である。それまで(作者を含めて)全員からすっかり忘れ去られていたのである。哀れ。
「もういい。俺は主人とアメジスタと一緒に居るからなっ!」
微妙な空気を醸し出している空間にニーズヘッグは激怒して、アメジスタが運び込まれた部屋へと入っていった。
「悪かったとは思っていますけど……」
「うーん、さすがに怒っちゃってるわね」
チェリシアとペシエラはそうは言いつつ、ライを寝かせてある部屋へと移動した。
「失礼します、主人」
ニーズヘッグは、アメジスタの隣に座るアイリスの横に立つ。
「ニーズヘッグ」
アイリスは振り返って反応する。
「アメジスタ様の容態はいかがでしょうか」
「ええ、魔力の消耗だけだから、もうしばらく休んでいれば大丈夫みたい」
ニーズヘッグの問いに、アイリスはレイニの診断をそのまま伝える。それに対して、ニーズヘッグはホッとしたようだった。
アメジスタに視線を戻したアイリスは、心配そうにアメジスタを見ている。母を心配しない子などそう居ない。パープリア男爵家の中に居た時には、父親からかなり抑圧されていただけに、今はただただ心配なのだ。
「呪いや洗脳の類も掛けられてませんね。レイニの診断で間違いないと、俺も思いますよ、主人」
ニーズヘッグはアイリスにそう声を掛けた。
しばらくすると、アメジスタがわずかな声を上げて動いた。それを見たアイリスは、
「お母様っ!」
思わず叫んでいた。
「ん……、アイ……リス?」
アメジスタが目を開けて、アイリスの方を見ている。
「そうです、アイリスです。お母様」
アイリスは顔を近付けている。
「髪の色とかは違うけれど、その顔は確かに、アイリスね。……無事だったのね」
「はい。コーラル伯爵家の温情で、表向きは処刑された事にしたんです。今は、将来女王になられるペシエラ様付きの侍女を目指して勉強中です」
アメジスタからの声に、アイリスは声を震わせながらも事情を説明する。それに対してアメジスタは「そう」とだけ呟いて黙り込んだ。
「お母様は魔力が尽きかけているいましたから、もうしばらく休んでいて下さい。何か消化の良いものを用意します」
アイリスは立ち上がる。
「ニーズヘッグ、お母様をしばらくお願い」
「畏まりました、我が主人」
ニーズヘッグに確認を取って、アイリスは部屋を出ていった。
「お初にお目にかかります、主人の母親どの。俺はニーズヘッグ。いや、厄災の暗龍と言った方が早いか?」
ニーズヘッグは暗い視線でアメジスタを見ている。
「……あの世界を滅ぼすと言われている、厄災の暗龍?」
横になりながらも、分かるくらい首を傾げるアメジスタ。
「そうだ。今はしがない仕える主人を持つ幻獣にすぎないがな」
そう言ったニーズヘッグは、アメジスタを強く睨む。その視線に、アメジスタはぶるっと怯える。
「主人はベル様の生まれ変わりではないかというくらいの方だ。しかし、その大事な血筋をあの下賤な男に汚された事は、到底許せぬ事ではないぞ。ベル様の遺品も悪用しているようだし、あの男はどうやって神獣使いの一族を誑かしたというのだ?」
ニーズヘッグは、どこまでも冷たい視線をアメジスタに送る。その視線の鋭さに、アメジスタは完全に震え上がってしまっていた。
「まあいい。話したくなったら話せ。何かあっては主人の主人に半殺しにされるからな」
ニーズヘッグは盛大にため息をついた。
この光景にアメジスタは、助かったのか助かってないのかよく分からなくなってしまっていた。ただ、死んだと聞かされていた娘が生きていた。この事実だけに生きた心地を感じているのだった。
その日の夜、コーラル伯爵邸にレイニが、ライとパープリア男爵夫人アメジスタを連れてやって来た。ただ、二人ともふらついており、すぐさま客間へと運ばれる事になった。レイニの横には、何やら不機嫌なニーズヘッグが立っている。どうやら、自分に商会の仕事とかが回ってこなかったので、仲間外れにされたと思って不貞腐れているようだ。
「いくらパープリアの監視を申しつけられていたとはいえ、そんな楽しそうな事に誘ってもらえなかったのはさすがに腹が立ったぞ」
本当にニーズヘッグは不機嫌そうだ。
ニーズヘッグがこの一件で合流したのは、パープリアの屋敷にライとアメジスタを、レイニが保護にし行った時である。それまで(作者を含めて)全員からすっかり忘れ去られていたのである。哀れ。
「もういい。俺は主人とアメジスタと一緒に居るからなっ!」
微妙な空気を醸し出している空間にニーズヘッグは激怒して、アメジスタが運び込まれた部屋へと入っていった。
「悪かったとは思っていますけど……」
「うーん、さすがに怒っちゃってるわね」
チェリシアとペシエラはそうは言いつつ、ライを寝かせてある部屋へと移動した。
「失礼します、主人」
ニーズヘッグは、アメジスタの隣に座るアイリスの横に立つ。
「ニーズヘッグ」
アイリスは振り返って反応する。
「アメジスタ様の容態はいかがでしょうか」
「ええ、魔力の消耗だけだから、もうしばらく休んでいれば大丈夫みたい」
ニーズヘッグの問いに、アイリスはレイニの診断をそのまま伝える。それに対して、ニーズヘッグはホッとしたようだった。
アメジスタに視線を戻したアイリスは、心配そうにアメジスタを見ている。母を心配しない子などそう居ない。パープリア男爵家の中に居た時には、父親からかなり抑圧されていただけに、今はただただ心配なのだ。
「呪いや洗脳の類も掛けられてませんね。レイニの診断で間違いないと、俺も思いますよ、主人」
ニーズヘッグはアイリスにそう声を掛けた。
しばらくすると、アメジスタがわずかな声を上げて動いた。それを見たアイリスは、
「お母様っ!」
思わず叫んでいた。
「ん……、アイ……リス?」
アメジスタが目を開けて、アイリスの方を見ている。
「そうです、アイリスです。お母様」
アイリスは顔を近付けている。
「髪の色とかは違うけれど、その顔は確かに、アイリスね。……無事だったのね」
「はい。コーラル伯爵家の温情で、表向きは処刑された事にしたんです。今は、将来女王になられるペシエラ様付きの侍女を目指して勉強中です」
アメジスタからの声に、アイリスは声を震わせながらも事情を説明する。それに対してアメジスタは「そう」とだけ呟いて黙り込んだ。
「お母様は魔力が尽きかけているいましたから、もうしばらく休んでいて下さい。何か消化の良いものを用意します」
アイリスは立ち上がる。
「ニーズヘッグ、お母様をしばらくお願い」
「畏まりました、我が主人」
ニーズヘッグに確認を取って、アイリスは部屋を出ていった。
「お初にお目にかかります、主人の母親どの。俺はニーズヘッグ。いや、厄災の暗龍と言った方が早いか?」
ニーズヘッグは暗い視線でアメジスタを見ている。
「……あの世界を滅ぼすと言われている、厄災の暗龍?」
横になりながらも、分かるくらい首を傾げるアメジスタ。
「そうだ。今はしがない仕える主人を持つ幻獣にすぎないがな」
そう言ったニーズヘッグは、アメジスタを強く睨む。その視線に、アメジスタはぶるっと怯える。
「主人はベル様の生まれ変わりではないかというくらいの方だ。しかし、その大事な血筋をあの下賤な男に汚された事は、到底許せぬ事ではないぞ。ベル様の遺品も悪用しているようだし、あの男はどうやって神獣使いの一族を誑かしたというのだ?」
ニーズヘッグは、どこまでも冷たい視線をアメジスタに送る。その視線の鋭さに、アメジスタは完全に震え上がってしまっていた。
「まあいい。話したくなったら話せ。何かあっては主人の主人に半殺しにされるからな」
ニーズヘッグは盛大にため息をついた。
この光景にアメジスタは、助かったのか助かってないのかよく分からなくなってしまっていた。ただ、死んだと聞かされていた娘が生きていた。この事実だけに生きた心地を感じているのだった。
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