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第八章 二年次
第228話 調査団と押収物
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事件から一週間が経った。相変わらずパープリア男爵たちは凍り付いたままで、証言を得られそうになかった。仕方なく、屋敷から押収した男爵の私物などの調査が進められていた。
その中で、アイリスとライの二人は、パープリアの屋敷に居た事を理由に捜査に協力していた。そして、その協力のおかげで、男爵が隠していた秘密の部屋を見つける事ができた。
「いやはや、これはすごいぞ……」
「お父様の性格上、こういう部屋があるとは思ってましたが、確かにこれは想像以上です」
隠し部屋には、見た事もない道具がたくさんある上に、膨大な量の書類がいくつもの山になって置かれていた。おそらく、この部屋の存在が、パープリア男爵の悪事が表に出なかった理由なのだろう。ご丁寧に隠蔽魔法が施されていた。
「私のようないたずら妖精に、隠蔽魔法は効かないのよね」
「なにそれ、便利ですね」
「だったら主人様も身に付けてみます? 神獣使いなんですから習得できると思いますよ」
部屋の中を捜索する騎士たちの後ろで、女同士二人が盛り上がっていた。
「すまないが、少し手伝ってくれ。俺たちでは対処できない物もあるみたいだからな」
「分かりましたー」
捜索の責任者と思われる騎士に怒られ、アイリスとライは部屋の中の物の押収を手伝った。
隠し部屋から押収された物は、そのほとんどがアメジスタを通じて神獣使いベルの代から続く遺産である事が、体調の回復したアメジスタの立ち合いの下で判明した。これには、アイリスの呼びかけに答えた蒼鱗魚とフェンリルの証言も加わった事も大きかった。
「本当に申し訳ございませんでした。私があの男の口車に乗せられて嫁いだがために、王国の方々に多大の迷惑をお掛けしまして……。神獣使いの一族を代表して謝罪致します」
証拠の品々の判定が終わったところで、アメジスタが調査団の面々に深々と頭を下げた。しかし、調査団の面々は、アメジスタを咎めるような事はしなかった。
「いや、あなたも立派な被害者だ。閉じ込められた上に毒まで盛られていたのだろう?」
「うむ、さすがに同情すべき点が多い。我々としては罪に問う事はしない」
調査団の騎士や文官たちは口々にそう言っている。これには、アメジスタは涙が出そうになった。
「だが、アイリス嬢は裁判に掛けられる可能はないとは言えない」
「そうだな。ただ殿下の婚約者であられるペシエラ様付きの従者を任されているので、裁判に掛けられたところで観察処分くらいだろうな」
「うむ、今回の男爵絡みの件では非常に協力的であったし、本人には反省が見受けられるからね」
アイリスが裁判に掛けられると聞いたアメジスタは、一瞬気を失いそうになった。しかし、その後のフォローを聞いて、ほっと安心したようだ。
「私も積極的に加担してましたから、裁判に掛けられると聞いても驚きません。むしろ、コーラル伯爵家の養子の件の方に驚いてます」
対照的に、娘のアイリスは冷静に淡々と話していた。
「ああ、その件か。それなら我々騎士団の中でも噂になっているよ。あのペシエラ様が全幅の信頼を寄せているから、反対する者は誰も居なかったね。もう”パープリア男爵の娘”ではなくて、”コーラル家の娘付きの侍女”という認識の方が強いから」
「それに、ヴィオレス殿も似たような感じになっているな。うかうかしていたら俺たちをあっさり超えていきそうだ」
騎士団の話を聞いていて、アメジスタは涙を浮かべた。自分の子どもたちが知らない間に立派になっていたので、母親として純粋に嬉しかったのだ。
「時にライ殿」
「はい、なんでしょう」
感動の最中、騎士の一人がライに話し掛ける。
「パープリア男爵家が取り潰しとなった事で、あなたの働き先が無くなりましたが、これからはどうするおつもりですか?」
そう、潜入調査していたパープリア男爵家が無くなり、めでたく無職となってしまったのだ。騎士はその事を気にして声を掛けたらしい。
「んー、主人様の意見に従う感じかな。元々魔物だし、自由な生活の方が嬉しいのよね」
ライはそうは言いつつも、アイリスの方をちらりと見る。ライとしては、主人であるアイリスの意見を求めているというわけだ。
「ライ、そのあたりはペシエラ様とチェリシア様にお聞きしましょう。私もまた、一介の侍女でしかないのですから、私だけでは決めかねます」
「ですよね……」
アイリスの返答に、ライはなよなよと首を垂れた。その様子に、場には笑いが起きていた。
こうして、笑いで落ち着いた調査団は、てきぱきと押収した証拠品の調査を進めていった。
その中で、アイリスとライの二人は、パープリアの屋敷に居た事を理由に捜査に協力していた。そして、その協力のおかげで、男爵が隠していた秘密の部屋を見つける事ができた。
「いやはや、これはすごいぞ……」
「お父様の性格上、こういう部屋があるとは思ってましたが、確かにこれは想像以上です」
隠し部屋には、見た事もない道具がたくさんある上に、膨大な量の書類がいくつもの山になって置かれていた。おそらく、この部屋の存在が、パープリア男爵の悪事が表に出なかった理由なのだろう。ご丁寧に隠蔽魔法が施されていた。
「私のようないたずら妖精に、隠蔽魔法は効かないのよね」
「なにそれ、便利ですね」
「だったら主人様も身に付けてみます? 神獣使いなんですから習得できると思いますよ」
部屋の中を捜索する騎士たちの後ろで、女同士二人が盛り上がっていた。
「すまないが、少し手伝ってくれ。俺たちでは対処できない物もあるみたいだからな」
「分かりましたー」
捜索の責任者と思われる騎士に怒られ、アイリスとライは部屋の中の物の押収を手伝った。
隠し部屋から押収された物は、そのほとんどがアメジスタを通じて神獣使いベルの代から続く遺産である事が、体調の回復したアメジスタの立ち合いの下で判明した。これには、アイリスの呼びかけに答えた蒼鱗魚とフェンリルの証言も加わった事も大きかった。
「本当に申し訳ございませんでした。私があの男の口車に乗せられて嫁いだがために、王国の方々に多大の迷惑をお掛けしまして……。神獣使いの一族を代表して謝罪致します」
証拠の品々の判定が終わったところで、アメジスタが調査団の面々に深々と頭を下げた。しかし、調査団の面々は、アメジスタを咎めるような事はしなかった。
「いや、あなたも立派な被害者だ。閉じ込められた上に毒まで盛られていたのだろう?」
「うむ、さすがに同情すべき点が多い。我々としては罪に問う事はしない」
調査団の騎士や文官たちは口々にそう言っている。これには、アメジスタは涙が出そうになった。
「だが、アイリス嬢は裁判に掛けられる可能はないとは言えない」
「そうだな。ただ殿下の婚約者であられるペシエラ様付きの従者を任されているので、裁判に掛けられたところで観察処分くらいだろうな」
「うむ、今回の男爵絡みの件では非常に協力的であったし、本人には反省が見受けられるからね」
アイリスが裁判に掛けられると聞いたアメジスタは、一瞬気を失いそうになった。しかし、その後のフォローを聞いて、ほっと安心したようだ。
「私も積極的に加担してましたから、裁判に掛けられると聞いても驚きません。むしろ、コーラル伯爵家の養子の件の方に驚いてます」
対照的に、娘のアイリスは冷静に淡々と話していた。
「ああ、その件か。それなら我々騎士団の中でも噂になっているよ。あのペシエラ様が全幅の信頼を寄せているから、反対する者は誰も居なかったね。もう”パープリア男爵の娘”ではなくて、”コーラル家の娘付きの侍女”という認識の方が強いから」
「それに、ヴィオレス殿も似たような感じになっているな。うかうかしていたら俺たちをあっさり超えていきそうだ」
騎士団の話を聞いていて、アメジスタは涙を浮かべた。自分の子どもたちが知らない間に立派になっていたので、母親として純粋に嬉しかったのだ。
「時にライ殿」
「はい、なんでしょう」
感動の最中、騎士の一人がライに話し掛ける。
「パープリア男爵家が取り潰しとなった事で、あなたの働き先が無くなりましたが、これからはどうするおつもりですか?」
そう、潜入調査していたパープリア男爵家が無くなり、めでたく無職となってしまったのだ。騎士はその事を気にして声を掛けたらしい。
「んー、主人様の意見に従う感じかな。元々魔物だし、自由な生活の方が嬉しいのよね」
ライはそうは言いつつも、アイリスの方をちらりと見る。ライとしては、主人であるアイリスの意見を求めているというわけだ。
「ライ、そのあたりはペシエラ様とチェリシア様にお聞きしましょう。私もまた、一介の侍女でしかないのですから、私だけでは決めかねます」
「ですよね……」
アイリスの返答に、ライはなよなよと首を垂れた。その様子に、場には笑いが起きていた。
こうして、笑いで落ち着いた調査団は、てきぱきと押収した証拠品の調査を進めていった。
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