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第八章 二年次
第229話 企みの終焉に
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押収物の調査を始めて三日後、ようやくパープリア男爵の罪状の全容が見え始めてきた。まぁとんでもない企みが出るわ出るわで、調査団の面々は一様に頭を抱えていた。
「いや、隣国モスグリネ王国との戦争まで計画していたとは、事前に潰せてよかったですね」
国王たちに報告しに行った文官は、調査団の前で顔を青くしてため息をついていた。調査で分かった事とは言えど、内容が内容だけに国王に話すとどんな反応をされるか分からなかったからだ。報告に行った自分がとばっちりを食わないか、それだけが心配だったらしい。
「まったくだ。ペシエラ嬢たちが居なかったら、一体どうなっていたのか予想がつかなすぎる」
「そうですね。そのペシエラ嬢も大概常識外れなんですがね」
「そうなんだよなぁ……」
神獣使いを侍女に持ち、神獣や幻獣、それに魔物までも使役する。その上で魔法も剣術もけた違いの実力を持つ十一歳の少女、それがペシエラだった。彼女の活躍でほとんど被害を出す事なく、パープリア男爵の企みを潰えてみせたのだから、誰もが尊敬と畏怖どころか、ただの恐怖感しか持てなくなってしまいそうだった。
だが、そんなペシエラをなんとかすごい令嬢として受け入れられているのが、姉であるチェリシアと友人のロゼリアの存在だった。まだ二人が常識人枠にいて、なおかつペシエラが慕っているので、こういう評価に落ち着いているのだ。それがなければ、おそらくペシエラは敵意を向けられて排除されていた事だろう。田舎領主だったコーラル伯爵の娘なのだから、想像に難くない話だ。
そのペシエラは手先も器用で、マゼンダ商会だけではなく、ドール商会の扱う商品にも彼女の施した装飾の商品がある。そして、今ではシルヴァノ王子の正式な婚約者の座まで射止めており、ペシエラは実質アイヴォリー王国にとってなくてはならない存在にまで上り詰めていたのだ。
たった十一歳の少女。それが今のペシエラであるが、逆行前の時間軸では三十歳まで生きていた。女王に即位するにあたって、血の滲むような努力はしたし、そもそも魔力は生まれつきとても多かった。
強くてニューゲーム。その恩恵を一番受けたのがペシエラだったのだ。ロゼリアと比べても、人生経験が豊富なのだ。しかし、これだけの能力があれば自惚れそうなものだが、それを制御しているのがチェリシアとロゼリアだ。チェリシアは異世界からの転生者でペシエラも知らない事をたくさん知っている。ロゼリアもペシエラと同じ時間遡行者で、ロゼリアへの贖罪意識からペシエラに歯止めが掛かっているのだ。
「まぁ何にしても、これで国の中は平和になるだろうな」
「ああ、諸悪の根源のパープリア男爵があの様だ。繋がってた連中も怖くて、迂闊に手は出せんだろうからな」
調査団の面々は、調査からようやく解放された嬉しさを噛みしめていた。
その頃……。
「ぐふっ、うっ、ぐ……」
ペシエラの様子がおかしかった。
「はぁ……はぁ……。やはり、適正年齢以前から魔法を使い過ぎた反動ですかしらね。……お姉様やロゼリアには知られたくはないですが、いつまでも隠していられそうにも、ありませんわね」
この世界では十歳~十二歳くらいで魔法が発露するのが普通である。だが、ペシエラはそれよりも前から魔法を使えるようになっていた。逆行前からの経験があるからこそではあったが、今回の時間軸の体は、どうやら世界の理には逆らえなかったようである。魔法を使い過ぎた代償が、ペシエラの体を蝕み始めていたのだ。
「アイリスを通して、神獣や幻獣たちに相談してみるしかありませんわね」
ベッドで横になりながら、力なく天蓋を眺めている。
「このままでは、以前より長く生きられそうにもありませんわ。私にはまだ果たせていない事がありますのに……」
そう呟きながら、体を落ち着かせるように深呼吸をする。
アイヴォリー王国を脅かす存在は、一つ去ってまた一つやって来ようとしていたのだ。
「いや、隣国モスグリネ王国との戦争まで計画していたとは、事前に潰せてよかったですね」
国王たちに報告しに行った文官は、調査団の前で顔を青くしてため息をついていた。調査で分かった事とは言えど、内容が内容だけに国王に話すとどんな反応をされるか分からなかったからだ。報告に行った自分がとばっちりを食わないか、それだけが心配だったらしい。
「まったくだ。ペシエラ嬢たちが居なかったら、一体どうなっていたのか予想がつかなすぎる」
「そうですね。そのペシエラ嬢も大概常識外れなんですがね」
「そうなんだよなぁ……」
神獣使いを侍女に持ち、神獣や幻獣、それに魔物までも使役する。その上で魔法も剣術もけた違いの実力を持つ十一歳の少女、それがペシエラだった。彼女の活躍でほとんど被害を出す事なく、パープリア男爵の企みを潰えてみせたのだから、誰もが尊敬と畏怖どころか、ただの恐怖感しか持てなくなってしまいそうだった。
だが、そんなペシエラをなんとかすごい令嬢として受け入れられているのが、姉であるチェリシアと友人のロゼリアの存在だった。まだ二人が常識人枠にいて、なおかつペシエラが慕っているので、こういう評価に落ち着いているのだ。それがなければ、おそらくペシエラは敵意を向けられて排除されていた事だろう。田舎領主だったコーラル伯爵の娘なのだから、想像に難くない話だ。
そのペシエラは手先も器用で、マゼンダ商会だけではなく、ドール商会の扱う商品にも彼女の施した装飾の商品がある。そして、今ではシルヴァノ王子の正式な婚約者の座まで射止めており、ペシエラは実質アイヴォリー王国にとってなくてはならない存在にまで上り詰めていたのだ。
たった十一歳の少女。それが今のペシエラであるが、逆行前の時間軸では三十歳まで生きていた。女王に即位するにあたって、血の滲むような努力はしたし、そもそも魔力は生まれつきとても多かった。
強くてニューゲーム。その恩恵を一番受けたのがペシエラだったのだ。ロゼリアと比べても、人生経験が豊富なのだ。しかし、これだけの能力があれば自惚れそうなものだが、それを制御しているのがチェリシアとロゼリアだ。チェリシアは異世界からの転生者でペシエラも知らない事をたくさん知っている。ロゼリアもペシエラと同じ時間遡行者で、ロゼリアへの贖罪意識からペシエラに歯止めが掛かっているのだ。
「まぁ何にしても、これで国の中は平和になるだろうな」
「ああ、諸悪の根源のパープリア男爵があの様だ。繋がってた連中も怖くて、迂闊に手は出せんだろうからな」
調査団の面々は、調査からようやく解放された嬉しさを噛みしめていた。
その頃……。
「ぐふっ、うっ、ぐ……」
ペシエラの様子がおかしかった。
「はぁ……はぁ……。やはり、適正年齢以前から魔法を使い過ぎた反動ですかしらね。……お姉様やロゼリアには知られたくはないですが、いつまでも隠していられそうにも、ありませんわね」
この世界では十歳~十二歳くらいで魔法が発露するのが普通である。だが、ペシエラはそれよりも前から魔法を使えるようになっていた。逆行前からの経験があるからこそではあったが、今回の時間軸の体は、どうやら世界の理には逆らえなかったようである。魔法を使い過ぎた代償が、ペシエラの体を蝕み始めていたのだ。
「アイリスを通して、神獣や幻獣たちに相談してみるしかありませんわね」
ベッドで横になりながら、力なく天蓋を眺めている。
「このままでは、以前より長く生きられそうにもありませんわ。私にはまだ果たせていない事がありますのに……」
そう呟きながら、体を落ち着かせるように深呼吸をする。
アイヴォリー王国を脅かす存在は、一つ去ってまた一つやって来ようとしていたのだ。
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