逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第九章 大いなる秘密

第245話 祈りの時

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 未来から逆行してきたロゼリアとペシエラ、異世界転生者であるチェリシア、異なる異世界出身者の系譜を持つアイリス、それと瘴気の石であるデーモンハート。奇跡を起こすピースがここに揃った。
 だが、要であるはずのデーモンハートには多くの問題があるので、すぐには実行されなかった。なにせ、奇跡の対象となるペシエラは実体もどきを持つ魂だけの存在であるため、デーモンハートの影響を一番受けやすいからだ。下手に事を急げば、厄災の暗龍以上の厄介な存在を生み出すだけとなる危険性があるのだ。
「デーモンハートの瘴気は、俺が限界まで抑えておく。この中では俺が一番の適役だろう?」
 執事モードをやめたニーズヘッグが、ガレンに確認するように言う。ガレンは黙って頷いて任せる事にした。
 次に配置だ。
 デーモンハートとペシエラが中心になるのだが、その左右にロゼリアとチェリシアが、正面にアイリス、背後にガレンが立つ。他の面々はその様子を見守っている。四人が配置についたところで、最後にペシエラがデーモンハートの位置にやって来た。
「ニーズヘッグ、君は万が一に備えてその場に居てくれ」
「ああ、分かった」
 ニーズヘッグは手に持ったデーモンハートを、ペシエラに手渡した。これで準備が整った。
「それでは始めるぞ。みんな、できる限りの魔力でもって祈ってくれ。ペシエラくんは祈るだけでいいぞ。魔力を残さないと瘴気の汚染に勝てないからな」
 ガレンの声で一斉にロゼリア、チェリシア、アイリスが祈りとともに魔力を放出する。ガレンはそれを取りまとめてデーモンハートに送り付けている。
 ガレンの説明では祈りの力がかなり重要で、これによって瘴気を浄化して、強大な魔力へと昇華させるのだという。その強力で膨大な魔力が、普通ではありえない魔法を発動させるという事なのだそうだ。
 この状況を見守る面々も、ペシエラの無事を祈っている。婚約者であるシルヴァノ、ライバルと見ているペイル、主人の主人としているライ、この三人は特に真剣である。キャノルたち残りの三人は、妖精と精霊しかいない精霊の森とはいえ、周りを警戒していた。
 その緊張の中、ガレンは詠唱を始める。
「万物の根源たる精霊王オリジンが命ず」
 最初の言葉こそ聞き取れたが、そこから後は古代語なのかよく分からない言葉が続く。……ただ一人を除いて。
(あー、これ、日本語だわ……)
 チェリシアだった。しかし、状況的に、聞こえてくる中二病くさい詠唱に笑う事もできず、ひたすらペシエラのために魔力と祈りをデーモンハートへと向けていた。可愛い妹の命が掛かっているのだ。我慢できなくて、何が姉だというのだ。ペシエラの姉という矜持だけで、チェリシアは必死に耐えていた。
 詠唱が進むたびに、デーモンハートから漏れ出る光から禍々しいまでの黒さが消え始めていた。構成する負の魔力が、浄化され始めたのだ。
 ところがだ。
 突如として、ズドーンという擬音が相応しいような大きな物音が響く。これにいち早く反応したのが、ライだった。ニーズヘッグも気付いてはいたが、ペシエラを守るために動けなかったので、実質ライが一番最初に反応したのだ。
「デーモンハートの瘴気が、抵抗を始めたみたいね。ペシエラ様たちを守るわよ!」
 ライは妖精モードに切り替える。服装はメイド服のままだが、背中から妖精の羽が飛び出ていた。ライの羽は相変わらずのハイスプライトのくすんだ色をしているが、気持ちだけはすっかり妖精の時に戻っている。主人であるアイリスとその主人であるペシエラたちを守る気満々である。
 精霊の森の木々の向こうから顔を出したのは、どす黒い色の岩でできたゴーレムだった。しかも巨大な二体。どこから湧いてきたのか分からないが、今はとにかく儀式が完了するまで耐えなければならない。ライたちは決死の覚悟を決める。
 身構えるライの両隣に、シルヴァノとペイルが剣を構えて出てくる。
「私たちも同じ気持ちですよ。それに、ペシエラは私の婚約者です。最愛の人を守れなくては、国王たる資格はないでしょう」
「婚約者の座は譲ってやるが、ペシエラのライバルの座は譲らねえよ。それに、あいつらは誰が欠けても絶対悲しむ。女の笑顔を守れないようじゃ、情けないからな」
 いいところを見せようと出てくる王子たちだが、ここぞとばかりにくさいセリフを吐いてくれる。
「はっ、だったらあたいも頑張らなきゃな。雇い主にはちゃんと報いるのが、あたいのモットーなんでな!」
 儀式を執り行うガレンたちを守るように、ライたちはゴーレムに向かって身構えた。ここで儀式が失敗するような事があれば、ペシエラを救えない。誰もが強い覚悟を決めた戦いが始まる。
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