264 / 731
第九章 大いなる秘密
第261話 チェリシアはやはり変だった
しおりを挟む
ペシエラの命は救った。マゼンダ商会の国外進出も準備できた。
しかし、チェリシアにはまだもう一つ野望があった。
「ねえ、ケットシーさん。大豆はありますか?」
「大豆かね? あるにはあるよ」
ケットシーからの返答を聞いて、チェリシアはガッツポーズを決める。
「これで、味噌と醤油が作れるわ」
「おや、味噌と醤油を知っているのかい?」
「ケットシーさんは、私の出自を知っているでしょう?」
「あっ、そうだったね。失礼した」
味噌と醤油という単語に反応したチェリシアへ、ケットシーはうっかり失言をしてしまったようだ。チェリシアが世界の渡り子だというのを知っているのだから、前世の世界の事にも少しは知見があるはずだからだ。
「あとは、豆腐と油揚げとおから。ふっふっふっ、料理の幅が広がるわ~」
大豆と聞いて、チェリシアは完全に舞い上がっている。前世日本人であるなら、大体はそうなってしまう傾向にあるようだ。
「ま、まあ、後で大豆を取り扱う工房に連れて行ってあげるよ」
これを聞いたチェリシアは「やったあ!」と声を上げていた。そのあまりの喜びようは、ケットシーがドン引きさせるほどだった。
「やれやれ、チェリシアは相変わらずのようですね」
「おとなしいイメージしかないが、知識に対しては貪欲なところもある感じだよな」
「そうですね。妹のペシエラとの対比のせいでおとなしく見えるけど、結構活動的なんですよね」
内装の家具を選んでいる様子を眺めている二人の王子は、その光景を微笑ましく見ている。
「君は誰を選ぶのかな? とはいっても、ペシエラはあげませんよ。私の婚約者ですからね」
ロゼリアたちを見ているペイルに、シルヴァノはちょっと突っついてみる。すると、
「そうだな。俺もそろそろ婚約者を選ばないといけないからな。だが、国内の令嬢たちはどうもパッとしない。そっちの国でも同じような傾向だ。……ペシエラの周囲を除けばな」
ペイルは影をまとったような表情を見せる。やはり一国の王子が十代の早いうちに婚約者が決まらないのは、問題だという事なのだろう。
「確かに、ペシエラ周りはにぎやかですね。とはいえ、プラティナもシェイディアも婚約者は居ますよ。居ないのはロゼリア、チェリシア、それとアイリスくらいという感じですね」
「そうか。だが、妻にするとなるとなかなか悩むものだな」
「まぁそうですね。君はまだ一年サンフレア学園での生活を残していますし、そこで見極めればいいんじゃないでしょうか。焦ってもろくな事はないものですから」
「ああ、そうだな」
二人は会話を終えると、ロゼリアたちを見る。すると、組合が苦労して運んできた家具を、購入を終えた物から順番に収納魔法にしまい込むチェリシアの姿があった。横ではお金を預かったロゼリアとペシエラが支払いをしており、従者三人はやる事が無くて周囲を警戒するだけという奇妙な光景が展開されていた。
「……まったく、やはり飽きないな、あの面々は」
「そうですね」
その不思議な光景を見つつ、シルヴァノとペイルは笑っていた。
「いやぁ、長年商売をしてますが、これだけのスピード決済というのはなかなかありませんなぁ」
取引が終わってホクホクのケットシーは、少し高笑いをしている。
「夕方まで時間がございますし、どうです、醤油工房だけでも見学しませんかな?」
「えっ、いいの?」
「はい、ヴィフレアの中にありますから近いですよ。大豆関連でヴィフレアにないのは味噌の工房だけですからね」
「行く行く、見せて見せて!」
ケットシーの提案に、チェリシアが乗り気すぎる。ロゼリアとペシエラは、顔に手を当てて首を振って呆れている。従者三人も苦笑い。とはいえ、味噌と醤油はサブメインの目的だと確認し合っていたので、仕方なくケットシーの誘いに乗る事にした。
その夜、醤油工房を見学した上にたくさんの大豆製品を購入して満足げに鼻歌を歌うチェリシアの姿に、モスグリネ城の人間たちがドン引きしていたのは言うまでもなかった。
しかし、チェリシアにはまだもう一つ野望があった。
「ねえ、ケットシーさん。大豆はありますか?」
「大豆かね? あるにはあるよ」
ケットシーからの返答を聞いて、チェリシアはガッツポーズを決める。
「これで、味噌と醤油が作れるわ」
「おや、味噌と醤油を知っているのかい?」
「ケットシーさんは、私の出自を知っているでしょう?」
「あっ、そうだったね。失礼した」
味噌と醤油という単語に反応したチェリシアへ、ケットシーはうっかり失言をしてしまったようだ。チェリシアが世界の渡り子だというのを知っているのだから、前世の世界の事にも少しは知見があるはずだからだ。
「あとは、豆腐と油揚げとおから。ふっふっふっ、料理の幅が広がるわ~」
大豆と聞いて、チェリシアは完全に舞い上がっている。前世日本人であるなら、大体はそうなってしまう傾向にあるようだ。
「ま、まあ、後で大豆を取り扱う工房に連れて行ってあげるよ」
これを聞いたチェリシアは「やったあ!」と声を上げていた。そのあまりの喜びようは、ケットシーがドン引きさせるほどだった。
「やれやれ、チェリシアは相変わらずのようですね」
「おとなしいイメージしかないが、知識に対しては貪欲なところもある感じだよな」
「そうですね。妹のペシエラとの対比のせいでおとなしく見えるけど、結構活動的なんですよね」
内装の家具を選んでいる様子を眺めている二人の王子は、その光景を微笑ましく見ている。
「君は誰を選ぶのかな? とはいっても、ペシエラはあげませんよ。私の婚約者ですからね」
ロゼリアたちを見ているペイルに、シルヴァノはちょっと突っついてみる。すると、
「そうだな。俺もそろそろ婚約者を選ばないといけないからな。だが、国内の令嬢たちはどうもパッとしない。そっちの国でも同じような傾向だ。……ペシエラの周囲を除けばな」
ペイルは影をまとったような表情を見せる。やはり一国の王子が十代の早いうちに婚約者が決まらないのは、問題だという事なのだろう。
「確かに、ペシエラ周りはにぎやかですね。とはいえ、プラティナもシェイディアも婚約者は居ますよ。居ないのはロゼリア、チェリシア、それとアイリスくらいという感じですね」
「そうか。だが、妻にするとなるとなかなか悩むものだな」
「まぁそうですね。君はまだ一年サンフレア学園での生活を残していますし、そこで見極めればいいんじゃないでしょうか。焦ってもろくな事はないものですから」
「ああ、そうだな」
二人は会話を終えると、ロゼリアたちを見る。すると、組合が苦労して運んできた家具を、購入を終えた物から順番に収納魔法にしまい込むチェリシアの姿があった。横ではお金を預かったロゼリアとペシエラが支払いをしており、従者三人はやる事が無くて周囲を警戒するだけという奇妙な光景が展開されていた。
「……まったく、やはり飽きないな、あの面々は」
「そうですね」
その不思議な光景を見つつ、シルヴァノとペイルは笑っていた。
「いやぁ、長年商売をしてますが、これだけのスピード決済というのはなかなかありませんなぁ」
取引が終わってホクホクのケットシーは、少し高笑いをしている。
「夕方まで時間がございますし、どうです、醤油工房だけでも見学しませんかな?」
「えっ、いいの?」
「はい、ヴィフレアの中にありますから近いですよ。大豆関連でヴィフレアにないのは味噌の工房だけですからね」
「行く行く、見せて見せて!」
ケットシーの提案に、チェリシアが乗り気すぎる。ロゼリアとペシエラは、顔に手を当てて首を振って呆れている。従者三人も苦笑い。とはいえ、味噌と醤油はサブメインの目的だと確認し合っていたので、仕方なくケットシーの誘いに乗る事にした。
その夜、醤油工房を見学した上にたくさんの大豆製品を購入して満足げに鼻歌を歌うチェリシアの姿に、モスグリネ城の人間たちがドン引きしていたのは言うまでもなかった。
8
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる