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第十章 乙女ゲーム最終年
第279話 チャットフォン
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三年次も前期はこれといって大きな出来事はない。あるのは生徒会の引き継ぎを行う、次期生徒会長の任命式くらいだろう。そして、夏にはまた合宿が待っている。
生徒会の任命は、翌年から四年次生以上となる学生が対象となる。つまり、ロゼリアたちも対象となっている。この中で除外されるのは、モスグリネからの留学生であるペイルだけだ。彼は年末のパーティー参加をもって、モスグリネ王国へと帰る事が決まっているからだ。
はてさて三年次になったというのに、チェリシアは今日も商会の一室に閉じ籠もって魔道具の開発に勤しんでいた。
「お姉様、今回は何を作りますの?」
学生の間は王妃教育は緩く設定されているので、この日はペシエラも付き合っていた。
「通信魔道具よ。何かと物騒な世界だから、誰でも使えるようにはしないけれどね」
言ってしまえばスマホのような魔道具を作ろうとしているらしい。ただこれが結構難しいのだ。どうやれば魔道具を持つ者同士で、遠距離の通話を可能にできるのか。とにかく課題が多かった。
前世の知識でこういう感じというのは分かっていても、それを魔法の術式で再現となると難しすぎるのだ。
チェリシアが再現を試みているのは、音声を伝えるのはもちろんだが、できれば姿を背景ごと映し出したい。つまりはテレビ電話である。手紙はこの世界の風情と思えるので、メール機能ははっきり言って除外。リアルタイムに信用のある者同士で通話できれば、いろんな事に革命が起きる。それ故に、機能に制限を持たせねばならないのも、開発を難航させていた。
「つまり、一部の人間同士でしか機能しない物を作るというわけですわね」
「うん、不特定多数が自由に使えると、この世界じゃ悪い事にも使えちゃうでしょ。だから、本人でしか使えないような物にしたいのよ」
魔法がある世界だからこその懸念、そこが最大の難関なのだ。
「でしたら、使用する魔石に血とか染み込ませるのもありですわ。呪術の一つにはなりますけれど、そうする事で本人以外では扱えなくする事が可能だと思いますわ」
「そ、れ、だ!」
ペシエラの案に、チェリシアは大声で叫んだ。
突然の大声にペシエラは目を見開いて固まったが、チェリシアは、
「ペシエラありがとう。よーし、頑張るわよ」
と満面の笑みで作業を再開していた。
翌日。
「できたわよ。その名も”チャットフォン”!」
チェリシアが取り出したのは、魔石が下の方に取り付けられた魔法銀の板だった。裏側は強度を増すための高純度鉄が使われていた。少しずっしりするが、大きさは手の平から少しはみ出るくらいで、とても薄かった。
「こっちは私の血を染み込ませてあるけど、こっちはまだ登録されてないわ。ペシエラ、一滴血を垂らしてみてくれる?」
ドン引きしていたペシエラだったが、あまりの勢いにチェリシアの隣に立つキャノルから暗器を借りて魔石に血を垂らした。すると、魔石は淡いピンクの光を放った。
「うん、これでペシエラが持ち主として認識されたわ。ちょっと使ってみるわね」
そう言って、チェリシアは部屋の中でペシエラから一番離れた位置に立つ。そして、自分の顔が映り込むように構えて、ペシエラの事を思いながら魔力を通す。
すると……。
「わっ、板にお姉様の姿が映りましたわ」
ペシエラの持つ板に、チェリシアの姿と後ろの壁が映し出されたのだ。
「ペシエラ、魔石に触れて魔力を通して」
チェリシアが言うので、ペシエラは言われた通りに魔力を流す。すると、チェリシアの持つ板の方にペシエラの姿が映し出された。チェリシアの持つ板をペシエラの方に向ければ、ペシエラの持つ板にはそれに連動した映像が映し出された。
『「どういう事ですの、お姉様」』
ペシエラの声が、離れたチェリシアの持つ板からも聞こえてくる。
『「ふふっ、成功ね。あとはどのくらいの距離まで離れても大丈夫か試すだけだわ」』
チェリシアのドヤ顔が板に映し出されている。
『「ちなみに切る時は、もう一度魔力を流せばいいわ。そうしたら両方同時に電話の機能が切れるわ」』
『「でん……わ……?」』
『「私の前世の世界にあった通信装置の事よ。どれだけ離れていても電波、こっちで言う魔力のようなものが届きさえすればどこでも話せるのよ」』
チェリシアはペラペラと説明している。ペシエラもなんとなくは分かったようで、
『「も、もういいですわ、お姉様」』
長くなりそうな説明を途中で打ち切った。ついでに通信も切った。
「はぁ、お姉様ってその前世世界の産物の再現に余念がありませんわね。まさかこんな物まで作ってしまわれるなんて」
チャットフォンを見ながら、ペシエラは感心している。
「魔法も便利だけど、やっぱり不便な点は極力解消したいもの。あ、でも、このチャットフォンは売り出さないわよ。さっきも言った通り危険だから、私たちの信用できる人にしか渡さないつもりよ」
「それが賢明ですわね」
実はこのチャットフォン、ロゼリアのために作ったのだが、チェリシアはペシエラにその辺を打ち明けて、当面は秘密という事にしておいたのだった。
生徒会の任命は、翌年から四年次生以上となる学生が対象となる。つまり、ロゼリアたちも対象となっている。この中で除外されるのは、モスグリネからの留学生であるペイルだけだ。彼は年末のパーティー参加をもって、モスグリネ王国へと帰る事が決まっているからだ。
はてさて三年次になったというのに、チェリシアは今日も商会の一室に閉じ籠もって魔道具の開発に勤しんでいた。
「お姉様、今回は何を作りますの?」
学生の間は王妃教育は緩く設定されているので、この日はペシエラも付き合っていた。
「通信魔道具よ。何かと物騒な世界だから、誰でも使えるようにはしないけれどね」
言ってしまえばスマホのような魔道具を作ろうとしているらしい。ただこれが結構難しいのだ。どうやれば魔道具を持つ者同士で、遠距離の通話を可能にできるのか。とにかく課題が多かった。
前世の知識でこういう感じというのは分かっていても、それを魔法の術式で再現となると難しすぎるのだ。
チェリシアが再現を試みているのは、音声を伝えるのはもちろんだが、できれば姿を背景ごと映し出したい。つまりはテレビ電話である。手紙はこの世界の風情と思えるので、メール機能ははっきり言って除外。リアルタイムに信用のある者同士で通話できれば、いろんな事に革命が起きる。それ故に、機能に制限を持たせねばならないのも、開発を難航させていた。
「つまり、一部の人間同士でしか機能しない物を作るというわけですわね」
「うん、不特定多数が自由に使えると、この世界じゃ悪い事にも使えちゃうでしょ。だから、本人でしか使えないような物にしたいのよ」
魔法がある世界だからこその懸念、そこが最大の難関なのだ。
「でしたら、使用する魔石に血とか染み込ませるのもありですわ。呪術の一つにはなりますけれど、そうする事で本人以外では扱えなくする事が可能だと思いますわ」
「そ、れ、だ!」
ペシエラの案に、チェリシアは大声で叫んだ。
突然の大声にペシエラは目を見開いて固まったが、チェリシアは、
「ペシエラありがとう。よーし、頑張るわよ」
と満面の笑みで作業を再開していた。
翌日。
「できたわよ。その名も”チャットフォン”!」
チェリシアが取り出したのは、魔石が下の方に取り付けられた魔法銀の板だった。裏側は強度を増すための高純度鉄が使われていた。少しずっしりするが、大きさは手の平から少しはみ出るくらいで、とても薄かった。
「こっちは私の血を染み込ませてあるけど、こっちはまだ登録されてないわ。ペシエラ、一滴血を垂らしてみてくれる?」
ドン引きしていたペシエラだったが、あまりの勢いにチェリシアの隣に立つキャノルから暗器を借りて魔石に血を垂らした。すると、魔石は淡いピンクの光を放った。
「うん、これでペシエラが持ち主として認識されたわ。ちょっと使ってみるわね」
そう言って、チェリシアは部屋の中でペシエラから一番離れた位置に立つ。そして、自分の顔が映り込むように構えて、ペシエラの事を思いながら魔力を通す。
すると……。
「わっ、板にお姉様の姿が映りましたわ」
ペシエラの持つ板に、チェリシアの姿と後ろの壁が映し出されたのだ。
「ペシエラ、魔石に触れて魔力を通して」
チェリシアが言うので、ペシエラは言われた通りに魔力を流す。すると、チェリシアの持つ板の方にペシエラの姿が映し出された。チェリシアの持つ板をペシエラの方に向ければ、ペシエラの持つ板にはそれに連動した映像が映し出された。
『「どういう事ですの、お姉様」』
ペシエラの声が、離れたチェリシアの持つ板からも聞こえてくる。
『「ふふっ、成功ね。あとはどのくらいの距離まで離れても大丈夫か試すだけだわ」』
チェリシアのドヤ顔が板に映し出されている。
『「ちなみに切る時は、もう一度魔力を流せばいいわ。そうしたら両方同時に電話の機能が切れるわ」』
『「でん……わ……?」』
『「私の前世の世界にあった通信装置の事よ。どれだけ離れていても電波、こっちで言う魔力のようなものが届きさえすればどこでも話せるのよ」』
チェリシアはペラペラと説明している。ペシエラもなんとなくは分かったようで、
『「も、もういいですわ、お姉様」』
長くなりそうな説明を途中で打ち切った。ついでに通信も切った。
「はぁ、お姉様ってその前世世界の産物の再現に余念がありませんわね。まさかこんな物まで作ってしまわれるなんて」
チャットフォンを見ながら、ペシエラは感心している。
「魔法も便利だけど、やっぱり不便な点は極力解消したいもの。あ、でも、このチャットフォンは売り出さないわよ。さっきも言った通り危険だから、私たちの信用できる人にしか渡さないつもりよ」
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実はこのチャットフォン、ロゼリアのために作ったのだが、チェリシアはペシエラにその辺を打ち明けて、当面は秘密という事にしておいたのだった。
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