逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
291 / 731
第十章 乙女ゲーム最終年

第287話 ラブコメなんてありまして?

しおりを挟む
 この日の魔法指導が終わって、ロゼリアとペシエラと合流しようとチェリシアが部屋で待機していると、扉がコンコンと叩かれた。
「どちら様ですか?」
 令嬢モードで対応するチェリシア。外から聞こえきたのは、
「チェリシア、ちょっといいか?」
「カーマイル様?」
 なんとカーマイルの声だった。
 何をしに来たのか確認するために、チェリシアは扉を開けて確認する。立っていたのは確かにカーマイルだった。
「すまないな。ちょっと話をしたいんだが、今はいいかな?」
 部屋の中にはチェリシアの侍女であるキャノルしか居ない。だが、このキャノルも今は信用のできる侍女なので、チェリシアはカーマイルを中へと招き入れた。
「もう少しすると、女王教育を終えたロゼリアとペシエラも来るとは思いますが、待たれますか?」
 チェリシアが尋ねると、カーマイルは首を横に振った。
「いや、居た方が都合がいいかも知れないが、すぐに話を始めたい」
 そっかという感じで、チェリシアはテーブルにカーマイルを案内して腰を掛けた。
「話というのは、マゼンダ商会の今後の事なんだ」
 カーマイルの切り出した話題は、確かに重大なものであった。
「えっと、それでしたらなおの事二人を待った方が……」
 チェリシアは少し困惑気味に提案する。
「いや、君個人に確認したい事なんだ」
 カーマイルはチェリシア個人への話だと強調する。
 その内容はマゼンダ商会の商会長の椅子についての話であった。
 現在の商会長であるロゼリアはモスグリネ王国へ嫁ぐ。ペシエラもアイヴォリー王家に入る。カーマイルも父のマゼンダ侯爵の座を引き継いで領主を務める事になる。となると、チェリシアが商会長を務める事になるのは自然な流れなのである。
「あー、確かにそうなりますね。でも、ハイビスさんやリモスさんに色々教えて頂いてますし、学園卒業までにはなんとかしたいですね」
 チェリシアは前向きのようである。ところが、カーマイルは逆に不安そうに頭を抱えた。どうしてそういう反応になるのか、チェリシアは首を傾げた。
「いや、君はどこか素直すぎる。商会長になるという事は多くの人に出会う事になる。もちろん、悪意を持った人も居る事だろう。そういった人物を、君が見極められるかという事が不安なんだ」
 カーマイルは、本気でチェリシアを心配しているようだ。婚約者になったからというのもあるだろうが、ロゼリアの友人というのが大きいのだろう。
 チェリシアには、カーマイルに対してこれといった恋愛感情はない。あくまでもロゼリアのお兄さんだ。婚約者となったから付き合うという、どこか冷めたような感じだ。貴族社会に染まらないくせに、こういうところだけは貴族社会染みた感情を抱くあたり、本当によく分からない令嬢である。
「正直言ってしまうと、私も君には恋愛感情のようなものは抱けない。妹の大切な友人としてしか見れない」
 カーマイルもすっぱり言ってのけた。だが、チェリシアも予想していた事なので、まったく驚く様子はない。
「だが、君をぞんざいに扱えば、妹が悲しむからな。そうならないように、できる限りの援助はしよう」
 そういうカーマイルの顔はどこか照れているように赤くなっていた。これは意外である。
 だが、カーマイルだってマゼンダ商会の一員である。手助けをするのは当然の話なのだが、最近は卒業も近いし、父親の仕事を継ぐための勉強にも勤しんでいる。商会の仕事にまで手が回らないのは仕方のない話なのだ。
「援助をしようって、カーマイル様も商会の一員ですよ? しようだなんて、他人行儀ないい方しないで下さい」
 チェリシアは、意地悪そうに唇に指を当てながら言う。
「したいと思ったらして下さっていいんですよ。私たちに拒む理由なんてありますか?」
 今度は後ろ手に組んで、笑いながらくるりと回る。室内なはずなのに、その姿はどこか輝いて見えた。
 その時だった。ガタンと音が響いた。
「誰だ!」
 カーマイルが部屋の入口を見る。
「あっちゃあ……、見つかってしまいましたわ」
「せっかくいいところだったのに……」
 部屋の扉から、ロゼリアとペシエラが覗き込んでいたのだ。女王教育を終えた二人が部屋にやって来たところ、チェリシアとカーマイルがラブシーンを始めてくれたせいで、中に入れなくて外で様子を窺っていたのである。その最中にうっかり扉のノブに手を掛けてしまって、その音が響いてしまったのだった。
「お前たち、来ていたのなら声を掛ければいいだろう?」
「いや、いいところだったみたいでお邪魔するのはどうかと思いまして……」
「ここは王宮だぞ。そんな怪しい行動を取るのはやめろ!」
 結局、最終的にカーマイルから怒られてこの話は終わった。
 カーマイルの気持ちが確認できたチェリシアは、しばらく顔を赤くしていたのは内緒の話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...