逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
292 / 731
第十章 乙女ゲーム最終年

第288話 夏合宿・三年次

しおりを挟む
 なんだかんだで、三年次も無事に夏の合宿の時期を迎えた。
 この頃には、風属性の扱える学生たちは、エアリアルボードを二人が乗れるほどの大きさまで生成させる事ができるようになっていた。しかし、その持続時間は二時間にも満たないので、まだまだ先は長いようである。魔力性疲労を引き起こす事もしばしばあったので、しばらくは無茶をさせる事は出来ないという方針になってしまったのは残念である。
 他の属性の学生たちも魔法の扱いがかなり上達していた。これは誇っていいと思う
 そんなこんなで、三年次の夏合宿始まりである。
 三年次の合宿はいつものサファイア湖ではなく、コーラル領に存在する未開の森である。こちらも一応水場があるので問題はない。さすがに二年連続で問題が起きた事が、今年の場所が変更になった原因である。ちなみにアクエリア子爵は、未だにその対応に追われている。
 ちなみに、その犯人であるキャノルは、チェリシアに侍女として仕えており、もう問題が起こる心配はないはずである。アメジスタやライと一緒にマゼンダ商会の仕事をしているので、物理的にも無理なはずだ。
 未開の森への移動手段は馬車である。未開の森までは四日弱で着く。その途中には、エアリアルボードでの移動ではしょっちゅう無視されるシクラメアの街もある。
 特に問題もなく未開の森に到着したが、ここにはサファイア湖の時のような建物は存在しない。つまり、ずっと野営で過ごすという厳しいものである。その代わり、期間は五日間と少し短くなっている。
「ここ未開の森は、私たちコーラル伯爵家の治める土地ですが、実質支配権は及んでおりませんので好きに過ごして下さいませ」
 挨拶をしたのはペシエラである。後ろにはチェリシアと養女となったアイリスが立っている。ちなみにアイリスは変装後の薄紫色の髪に眼鏡といういでたちである。これはパープリアとの決別という本人の強い意志があって継続しているのだ。
 ペシエラの説明で、未開の森の魔物の種類や中の地形などが細かく説明されていく。過去のカイスへの訪問で何度も通っただけに、すっかり地形が頭に入っているのだ。だが、周りは教師陣も含めて誰も知らない情報なだけに、それはドン引きレベルで驚かれたものである。
 挨拶が終わると、学生はそれぞれに野営の準備に入る。それを見送ったチェリシアは呟く。
「もうシナリオが破綻し切ってて、固定イベントしか発生してくれないわね……」
「面倒なイベントがないのはいいではありませんの。変なイレギュラーは気を揉むだけですわよ」
 そのチェリシアのぼやきに、ペシエラは腰に手を当てて、呆れたように返していた。アイリスはよく分からないので、どう反応していいのか戸惑っていた。
「ほら、三人とも。合宿始まってるんだから、野営を設置しましょう」
 ロゼリアが大きな声で呼び掛けてくる。
「そうね、準備しましょうか、お姉様」
「了解」
 チェリシアはロゼリアが指定した場所に立つ。そして、収納魔法から野営セットを引っ張り出して、魔法で次々と設置していった。ちなみにこの野営セットは、いつも使っている野営セットである。
 このチェリシアの野営の設置の仕方に、周りの学生たちは目を丸くして手を止めてしまった。収納魔法もそうだし、自動的に設置した魔法にもである。収納魔法だけでも、持っている人物がごく少数の希少な魔法である。そんな魔法を目の前で披露されてしまえば、驚かない方が無理だというものである。
 その一方で、この四人が身軽でやって来た理由にも合点がいった。荷物はすべて、チェリシアが収納魔法にしまっていたからである。全員が「ええ……」って感じで眺めていた。
 さて、まだ明るく活動ができる状態である。この夜からは、用意してきた食事は尽きてしまっている自力で用意しなければならない。こうなると、森に入るなりして食事を用意しなければならない。戸惑っている学生に、ペシエラが声を掛ける。
「それでは、私が自ら案内してあげますわ。最初ですから、知識を持った者が導くのは当然ですものね」
「それだったら、私も手伝います」
 こう言って、ロゼリアも探索に参加する事になった。
「チェリシア、アイリス。ここの事は頼みます」
「了解。任せておいて」
「頼まれました」
 こうして、ペシエラとロゼリアによる、未開の森探索の講義が始まった。
 探索から戻ってきた学生たちは、一様に疲れ切っていた。魔物はコボルトやフォレストバードだから、そう苦戦する事はないと思ったのだが、貴族は思ったより強くなかったようである。
 こうして、夏の合宿の野営一日目の日が暮れていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...