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第十章 乙女ゲーム最終年
第291話 帰った後も合宿だった
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未開の森での夏合宿も終わりを迎える。
これといった問題も起きずに、一人の脱落者も出さずに合宿を終えられた事は特筆すべき事だと思う。
武術科たちの学生も、それぞれの指導があって腕前はだいぶ上がっていた。ウルフやコボルトにも怯む事なく落ち着いて立ち回れるようになるくらいである。
シェイディアの剣術もさすがは騎士団副団長の娘とあって、ペシエラには及ばなくても腕前も型もかなりのものだ。黒髪をなびかせる姿は惚れるなと言われても無理である。それくらいに映える。今年は三年次で十五歳だ。すらりと伸びた体躯はペシエラやロゼリアにも劣らない見事なもの。チェリシアと比べてもある一点は大きな違いがあった。
(……今世もぺったんこかぁ)
アイリスと比べても控えめすぎるチェリシアの胸部。「くっ……」という声が漏れてしまいそうだ。とはいえ、ロゼリアの交友関係の中で婚約者が居ないのはアイリスだけである。グレイアにだって居るのだ。知らない間にロイエールの婚約者の座を射止めていたようである。
アイリスもアイリスで、裏家業時代の腕でもって魔物を討伐していた。魔法こそあまり得意ではないが、両手に短剣を持って流れるように戦う様は不思議な魅力を帯びていた。ただ、目つきは暗殺者っぽい冷めた感じの鋭い視線だったのだが、それはそれで惚れた男子学生が居たくらいである。ミステリアスな感じが女子学生にも受けていた。どこに需要があるのかはまったく分からないものである。
アイリスはコーラル伯爵家の養女になったので、血は繋がらないが家督は繋がる。広大な土地に莫大で潤沢な資金となれば、男たちの目の色は変わる。この分では、合宿後に婚約の申し込みが殺到しそうである。チェリシアとペシエラは少し心配になった。せっかくあのパープリアの家から救い出したのだから、結婚相手もしっかりした相手を選んであげたいものである。一回り以上の年齢を重ねた二人は、そこを気に掛けていた。もはや母親の心境である。
合宿では何の事件も起きなかったが、合宿後にはいろいろと起きそうである。これは、父親であるプラウスに相談はしておいた方がよさそうだ。チェリシアとペシエラは、言葉なくても同じ事を思ったらしく、無言で頷き合っていた。
未開の森から道中二泊して王都へと戻って来る。何も事件が起きずに平和だったが、学生たちの実力は確かに上昇していた。それは学生たちの顔にしっかりと現れていた。
学園で解散した後、チェリシア、ペシエラ、アイリスの三人はコーラル邸に戻った。
「ふぅ~、さすがに野宿の疲れは取り切れないわね」
チェリシアは部屋の椅子に勢いよく座った。
「お姉様。それは絶対よそではしないで下さいませ。したら他人のフリをしますわよ?」
令嬢らしからぬ行動に、きっちりペシエラがツッコミを入れる。妹にこう言われては、チェリシアは慌ててちゃんと座り直した。それを見て、アイリスはくすくすと笑っている。チェリシアが突っ込もうとしたその時、
「お帰りなさいませ、お嬢様方」
ライたち使用人たちが入ってきた。入ってきたライ、キャノル、ストロアの三人はそれぞれ違った表情をしている。
ライは優しそうな笑顔、キャノルはやれやれといった顔、ストロアはなぜか泣きそうな顔である。侍女それぞれの特徴がよく出ていた。
「未開の森は庭のようなものだから泣かなくてもいいんですよ、ストロアさん」
「えぐっえぐっ、で、でも……」
ライが落ち着かせようとしているが、ストロアは泣き止まなかった。さすがに幼少期から見てきただけの事はある。
「まあね、油断すれば私たちといえど危険な事はありますものね。見ての通り、全員無事ですわよ、ストロア」
ペシエラはその場で一回転してみせる。アレンジした制服は無事だし、どこにも傷はない。まぁ傷があったとてすぐ治せてしまうので残るわけはないのだが。ペシエラのその様子を見たストロアがやっと泣き止んだ。まったく大げさである。
「さて、帰ってきたところでお父様たちに報告しなければならないのですが、その前にお風呂に入っておきませんとね」
ストロアが落ち着いたところで、ペシエラがそう言うと、
「すでにお湯の準備はしてございます。いつでもお入り頂けますよ」
ライが使用人モードで答える。
「さすが、分かっていますわね」
ペシエラが目を光らせる。すると、ライもお返しのように目を光らせた。
湯あみをしてすっきりしたところで、チェリシアたちはプラウスとサルモアに合宿の様子を報告する。特に問題が起きなかった事に両親は安心していたが、
「アイリスお姉様がうちの養女となった事は周知ですが、今回の合宿でその動きを見た男子学生たちが見惚れてましたので、釣書が送られてくるかも知れませんわ。早く婚約者を決めておいた方がよろしいかも知れませんわね」
ペシエラのこの報告に、プラウスが特に取り乱していた。……アイリスの婚約者選びでは、まだ少し波乱が起きそうである。
というわけで、ちょっとした心配要素を抱えていたが、本当に平和なうちに三年次の夏の合宿は過ぎていったのである。
これといった問題も起きずに、一人の脱落者も出さずに合宿を終えられた事は特筆すべき事だと思う。
武術科たちの学生も、それぞれの指導があって腕前はだいぶ上がっていた。ウルフやコボルトにも怯む事なく落ち着いて立ち回れるようになるくらいである。
シェイディアの剣術もさすがは騎士団副団長の娘とあって、ペシエラには及ばなくても腕前も型もかなりのものだ。黒髪をなびかせる姿は惚れるなと言われても無理である。それくらいに映える。今年は三年次で十五歳だ。すらりと伸びた体躯はペシエラやロゼリアにも劣らない見事なもの。チェリシアと比べてもある一点は大きな違いがあった。
(……今世もぺったんこかぁ)
アイリスと比べても控えめすぎるチェリシアの胸部。「くっ……」という声が漏れてしまいそうだ。とはいえ、ロゼリアの交友関係の中で婚約者が居ないのはアイリスだけである。グレイアにだって居るのだ。知らない間にロイエールの婚約者の座を射止めていたようである。
アイリスもアイリスで、裏家業時代の腕でもって魔物を討伐していた。魔法こそあまり得意ではないが、両手に短剣を持って流れるように戦う様は不思議な魅力を帯びていた。ただ、目つきは暗殺者っぽい冷めた感じの鋭い視線だったのだが、それはそれで惚れた男子学生が居たくらいである。ミステリアスな感じが女子学生にも受けていた。どこに需要があるのかはまったく分からないものである。
アイリスはコーラル伯爵家の養女になったので、血は繋がらないが家督は繋がる。広大な土地に莫大で潤沢な資金となれば、男たちの目の色は変わる。この分では、合宿後に婚約の申し込みが殺到しそうである。チェリシアとペシエラは少し心配になった。せっかくあのパープリアの家から救い出したのだから、結婚相手もしっかりした相手を選んであげたいものである。一回り以上の年齢を重ねた二人は、そこを気に掛けていた。もはや母親の心境である。
合宿では何の事件も起きなかったが、合宿後にはいろいろと起きそうである。これは、父親であるプラウスに相談はしておいた方がよさそうだ。チェリシアとペシエラは、言葉なくても同じ事を思ったらしく、無言で頷き合っていた。
未開の森から道中二泊して王都へと戻って来る。何も事件が起きずに平和だったが、学生たちの実力は確かに上昇していた。それは学生たちの顔にしっかりと現れていた。
学園で解散した後、チェリシア、ペシエラ、アイリスの三人はコーラル邸に戻った。
「ふぅ~、さすがに野宿の疲れは取り切れないわね」
チェリシアは部屋の椅子に勢いよく座った。
「お姉様。それは絶対よそではしないで下さいませ。したら他人のフリをしますわよ?」
令嬢らしからぬ行動に、きっちりペシエラがツッコミを入れる。妹にこう言われては、チェリシアは慌ててちゃんと座り直した。それを見て、アイリスはくすくすと笑っている。チェリシアが突っ込もうとしたその時、
「お帰りなさいませ、お嬢様方」
ライたち使用人たちが入ってきた。入ってきたライ、キャノル、ストロアの三人はそれぞれ違った表情をしている。
ライは優しそうな笑顔、キャノルはやれやれといった顔、ストロアはなぜか泣きそうな顔である。侍女それぞれの特徴がよく出ていた。
「未開の森は庭のようなものだから泣かなくてもいいんですよ、ストロアさん」
「えぐっえぐっ、で、でも……」
ライが落ち着かせようとしているが、ストロアは泣き止まなかった。さすがに幼少期から見てきただけの事はある。
「まあね、油断すれば私たちといえど危険な事はありますものね。見ての通り、全員無事ですわよ、ストロア」
ペシエラはその場で一回転してみせる。アレンジした制服は無事だし、どこにも傷はない。まぁ傷があったとてすぐ治せてしまうので残るわけはないのだが。ペシエラのその様子を見たストロアがやっと泣き止んだ。まったく大げさである。
「さて、帰ってきたところでお父様たちに報告しなければならないのですが、その前にお風呂に入っておきませんとね」
ストロアが落ち着いたところで、ペシエラがそう言うと、
「すでにお湯の準備はしてございます。いつでもお入り頂けますよ」
ライが使用人モードで答える。
「さすが、分かっていますわね」
ペシエラが目を光らせる。すると、ライもお返しのように目を光らせた。
湯あみをしてすっきりしたところで、チェリシアたちはプラウスとサルモアに合宿の様子を報告する。特に問題が起きなかった事に両親は安心していたが、
「アイリスお姉様がうちの養女となった事は周知ですが、今回の合宿でその動きを見た男子学生たちが見惚れてましたので、釣書が送られてくるかも知れませんわ。早く婚約者を決めておいた方がよろしいかも知れませんわね」
ペシエラのこの報告に、プラウスが特に取り乱していた。……アイリスの婚約者選びでは、まだ少し波乱が起きそうである。
というわけで、ちょっとした心配要素を抱えていたが、本当に平和なうちに三年次の夏の合宿は過ぎていったのである。
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