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第十章 乙女ゲーム最終年
第292話 夏が暮れ行く
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合宿が終われば、残りの夏季休暇を自由に過ごす事ができる。
というわけで、合宿翌日はのんびりする事にしたので、アイリスに各地の状況の確認を取ってもらうようにお願いした。神獣に幻獣、魔物に精霊とたくさん居るが、すべて蒼鱗魚を通じて念話で話をする事ができるのだ。これが神獣使いたるアイリスの能力である。とはいっても、蒼鱗魚が居ないといけないのではあるが。
今現在も、アイヴォリー王国に仇名すパープリアの一派が潜んでいる。しらみつぶしに探しているが、パープリア元男爵とインディの主犯二人が処刑された事が広まってからはなかなか尻尾が掴めないでいたのだ。
そういう時に役に立ったのが、蒼鱗魚による幻獣ネットワークである。
神獣や幻獣などはそういった者への反応が過敏な事がある。つまりその反応を利用すれば、おおよその目星が付けられるという事となるのだ。これはお隣モスグリネ王国にも広がっており、ケットシーが中心となって炙り出している。
マゼンダ領内はインフェルノとファントム、それとタウロス、アクアマリン領内は蒼鱗魚とアックス、コーラル領内はレイニ、神獣使いの民はフェンリルとそれぞれに警戒をしており、その情報は蒼鱗魚を通じてアイリスにすべて集まって来ていた。
「どう、アイリスお姉様」
「うん、今はどこにも見当たらないみたい。でも、貴族領は他にもあるから、そこは王国の騎士団に任せるしかないですね」
「そうですのね」
自分たちの関わりのある場所は危険と判断したのか、アトランティスの末裔は姿を見せていないようだ。唯一その血筋が集まっているカイスの村も、レイニの報告では危険が無いようである。コーラル伯爵家の恩恵が大きいのか、すっかり従順なようである。カイスの村に派遣されている兵士を通じて確認しても、「アトランティス? 何ですかなそれ」といった具合だった。過去の事過ぎて、血族でも忘れてしまっているのだろう。ちなみに奇跡の湖とされている場所がアトランティス帝国の帝都だった事は黙っておいた。
そんなわけで、チェリシアとペシエラは、夏季休暇の残りは父親とアイリスを連れての領地巡りとなった。領地を直に見て確認するのは、領主として当然の仕事である。普段は右腕と言われる人物に任せているが、やはり領主自ら確認してなんぼのものなのだ。
コーラル領を巡る事は、二人の使うエアリアルボードでスピーディーに行う事ができる。何と言ってもカイス方面にある崖すら物ともしない。馬車を使って一か月以上かかる視察が半分弱で終わる。だが、チェリシアもペシエラも嫁いで家を出て行ってしまうので、その後の視察はまた馬車に逆戻りである。実に悩ましいところだった。
視察の結果、灌漑設備にいくらかの損傷が見られたので、修理をするように手配をしておく。壊れてしまえば水の融通に支障が出るので早急にである。
それ以外には、モスグリネからいくらか醤油や味噌を仕入れる事ができるようになったので、それをシェリアに広める事にしたのだ。なにせ、魚の臭み取りとしては優秀な調味料である。酢と塩以外の手段があるのは料理の幅が広がるので、チェリシアは煮付けをシェリアで教えていた。
「料理となるとお姉様は生き生きしますわね」
ペシエラが呆れるくらいには、チェリシアは元気だった。それを聞いていたアイリスや侍女たちは笑っていた。まぁ、料理を教わっていた宿や食堂の人たちは真剣そのものだったのだが。
聞き取りやらチェックやらで、結局チェリシアたちの夏季休暇をすべて使い切るくらいの日数が掛かってしまった。ロゼリアたちと直接顔を合わせる事は無かったものの、チャットフォンを通じて会話をする事はできていた。何度か話してみたのだが、王都からカイスまでの距離でも問題なく使えていた。これならアイヴォリーの王都ハウライトとモスグリネの王都ヴィフレアとの間でも問題なく通じそうである。なにせ、この二都市の間はハウライトとカイスの距離より短いし、崖や森のような障害物の少ない地形をしているのだから。
という感じで領地行脚に時間が掛かってしまったものの、チャットフォンの一件は、これはこれで大きな収穫である。チェリシアは満足げに王都のコーラル伯爵邸に戻ってきたのだった。
「ふぅ、住み慣れた家が一番だわ」
チェリシアはソファーにぼふっと倒れ込みたかったのだが、ペシエラが睨みを利かせていたので我慢して、そっとソファーに座った。それを見ていたペシエラが、目を閉じてうんうんと頷いていた。アイリスはその横で苦笑いをしている。
夏の合宿が終わって、夏季休暇も終わった。これで年末のパーティーまでにある大きなイベントは、学園祭と生徒会の役員選定の二つだけである。
乙女ゲームであれば、生徒会役員の選定が行われてから年末のパーティまでの間に告白イベントがあるものだが、婚約者が決まっているのに突撃をするような命知らずは居ないだろう。ロゼリアたちも決められた婚約者以外に興味を示す事もない。
だが、最後まで油断はできないものである。
ゲーム内の年末パーティーの席で、悪役令嬢であるロゼリア・マゼンダに対して断罪イベントが起こる。この世界線では、ロゼリアどころか家族たちを巡ってもこれといった問題点はない。
ともかく、チェリシアとしては、問題が起こる事なくペイルが自国に戻れる事を祈るばかりであった。
というわけで、合宿翌日はのんびりする事にしたので、アイリスに各地の状況の確認を取ってもらうようにお願いした。神獣に幻獣、魔物に精霊とたくさん居るが、すべて蒼鱗魚を通じて念話で話をする事ができるのだ。これが神獣使いたるアイリスの能力である。とはいっても、蒼鱗魚が居ないといけないのではあるが。
今現在も、アイヴォリー王国に仇名すパープリアの一派が潜んでいる。しらみつぶしに探しているが、パープリア元男爵とインディの主犯二人が処刑された事が広まってからはなかなか尻尾が掴めないでいたのだ。
そういう時に役に立ったのが、蒼鱗魚による幻獣ネットワークである。
神獣や幻獣などはそういった者への反応が過敏な事がある。つまりその反応を利用すれば、おおよその目星が付けられるという事となるのだ。これはお隣モスグリネ王国にも広がっており、ケットシーが中心となって炙り出している。
マゼンダ領内はインフェルノとファントム、それとタウロス、アクアマリン領内は蒼鱗魚とアックス、コーラル領内はレイニ、神獣使いの民はフェンリルとそれぞれに警戒をしており、その情報は蒼鱗魚を通じてアイリスにすべて集まって来ていた。
「どう、アイリスお姉様」
「うん、今はどこにも見当たらないみたい。でも、貴族領は他にもあるから、そこは王国の騎士団に任せるしかないですね」
「そうですのね」
自分たちの関わりのある場所は危険と判断したのか、アトランティスの末裔は姿を見せていないようだ。唯一その血筋が集まっているカイスの村も、レイニの報告では危険が無いようである。コーラル伯爵家の恩恵が大きいのか、すっかり従順なようである。カイスの村に派遣されている兵士を通じて確認しても、「アトランティス? 何ですかなそれ」といった具合だった。過去の事過ぎて、血族でも忘れてしまっているのだろう。ちなみに奇跡の湖とされている場所がアトランティス帝国の帝都だった事は黙っておいた。
そんなわけで、チェリシアとペシエラは、夏季休暇の残りは父親とアイリスを連れての領地巡りとなった。領地を直に見て確認するのは、領主として当然の仕事である。普段は右腕と言われる人物に任せているが、やはり領主自ら確認してなんぼのものなのだ。
コーラル領を巡る事は、二人の使うエアリアルボードでスピーディーに行う事ができる。何と言ってもカイス方面にある崖すら物ともしない。馬車を使って一か月以上かかる視察が半分弱で終わる。だが、チェリシアもペシエラも嫁いで家を出て行ってしまうので、その後の視察はまた馬車に逆戻りである。実に悩ましいところだった。
視察の結果、灌漑設備にいくらかの損傷が見られたので、修理をするように手配をしておく。壊れてしまえば水の融通に支障が出るので早急にである。
それ以外には、モスグリネからいくらか醤油や味噌を仕入れる事ができるようになったので、それをシェリアに広める事にしたのだ。なにせ、魚の臭み取りとしては優秀な調味料である。酢と塩以外の手段があるのは料理の幅が広がるので、チェリシアは煮付けをシェリアで教えていた。
「料理となるとお姉様は生き生きしますわね」
ペシエラが呆れるくらいには、チェリシアは元気だった。それを聞いていたアイリスや侍女たちは笑っていた。まぁ、料理を教わっていた宿や食堂の人たちは真剣そのものだったのだが。
聞き取りやらチェックやらで、結局チェリシアたちの夏季休暇をすべて使い切るくらいの日数が掛かってしまった。ロゼリアたちと直接顔を合わせる事は無かったものの、チャットフォンを通じて会話をする事はできていた。何度か話してみたのだが、王都からカイスまでの距離でも問題なく使えていた。これならアイヴォリーの王都ハウライトとモスグリネの王都ヴィフレアとの間でも問題なく通じそうである。なにせ、この二都市の間はハウライトとカイスの距離より短いし、崖や森のような障害物の少ない地形をしているのだから。
という感じで領地行脚に時間が掛かってしまったものの、チャットフォンの一件は、これはこれで大きな収穫である。チェリシアは満足げに王都のコーラル伯爵邸に戻ってきたのだった。
「ふぅ、住み慣れた家が一番だわ」
チェリシアはソファーにぼふっと倒れ込みたかったのだが、ペシエラが睨みを利かせていたので我慢して、そっとソファーに座った。それを見ていたペシエラが、目を閉じてうんうんと頷いていた。アイリスはその横で苦笑いをしている。
夏の合宿が終わって、夏季休暇も終わった。これで年末のパーティーまでにある大きなイベントは、学園祭と生徒会の役員選定の二つだけである。
乙女ゲームであれば、生徒会役員の選定が行われてから年末のパーティまでの間に告白イベントがあるものだが、婚約者が決まっているのに突撃をするような命知らずは居ないだろう。ロゼリアたちも決められた婚約者以外に興味を示す事もない。
だが、最後まで油断はできないものである。
ゲーム内の年末パーティーの席で、悪役令嬢であるロゼリア・マゼンダに対して断罪イベントが起こる。この世界線では、ロゼリアどころか家族たちを巡ってもこれといった問題点はない。
ともかく、チェリシアとしては、問題が起こる事なくペイルが自国に戻れる事を祈るばかりであった。
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