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第十章 乙女ゲーム最終年
第303話 二日目が暮れ行く
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「惜しかったわね、ロゼリア」
「うーん、くじ引きで負けるだなんて、悔しいわ」
商会のブースで後片付けをしているロゼリアたち。結局ロゼリアはくじ引きで負け、シェイディアが決勝トーナメントへ勝ち上がった。
「上って来てましたら、私がコテンパンにして差し上げましたのに」
ペシエラが残念そうにしている。よっぽど戦いたかったのだろう。
「ペシエラと当たらなかった事は運がよかったとしか言いようがないわね。明らかにペシエラの方が強いもの」
ロゼリアはそう言いながら、使われなかった紙の束を見る。
「チェリシア」
「なあに?」
「この紙は売りませんの?」
「あーうん、相場が分からないのよ、カーマイル様が交渉して下さったんだけれど、モスグリネの方にも値段が付けられないみたいでね」
どうやら昨日も来たモスグリネ王国の商人が交渉していったらしい。どう考えても写真で使い切れないので、売れないかどうかという確認をしたみたいだ。似たような紙であっても、モスグリネの技術では粗悪すぎて、ここまでの質の紙だと程度が違い過ぎて値段が決められなかったのである。なにせ紙は使い切りだし、この紙がどの程度保存に適しているのか分からないからだ。
ちなみに写真にした紙には保護魔法が掛けてあるので、あれなら簡単には朽ちない。魔法自体が向こう百年は余裕で持つはずである。まあ、魔法がなくても雑な保存をしなければ、そうそう簡単にはボロボロにはならないのだが。
しかし、話を聞きながらペシエラが怒り始めた。
「お姉様! あれほど無茶をしないでと言ったではありませんか!」
「ど、どうしたのよ、ペシエラ」
「どうもこうもではありませんわ。残り枚数を見てみたら、今日も七百枚くらい減ってるではありませんか! あれほど魔法を使い過ぎるなと口酸っぱく言っておきましたのに。明日は朝昼共に百枚まででおやめなさい!」
「ひっ、ひえっ!」
完全にお冠なペシエラである。見回りから遅れて戻ってきたアイリスとライは、いきなりの怒り声にびびっていた。
「ど、どうしたの、ペシエラ」
「あ、お帰りなさいませ、アイリスお姉様。どうでしたか?」
戻ってきたアイリスに見回りの成果を尋ねるペシエラ。
「そうね。特に問題は無かったです。ラルクやトルフともその辺の確認をしてきたので、つい遅くなってしまいました」
「うん、そこらの妖精や精霊にも確認したけど、異常はなしだった」
アイリスもライも見回りの結果を報告する。だが、ペシエラの顔は険しいままだった。
「今年こそは無事に終わるとよろしいのですけれど、最後まで気を抜けませんわね」
「まぁそうよね。武器や危険物の持ち込みはできないけれど、体術や魔法は防ぎようがないものね。警戒態勢は今のまま維持するしかないわ」
ペシエラとロゼリアが周りを見る。城内にはまだ警備兵たちがうろうろと警戒に当たっていた。
「とりあえずは残り二日ね。気を抜かずに頑張りましょう」
「ええ、そうね」
チェリシアたちはお互いに再度確認するのだった。
「ペイル、無事に決勝トーナメントに進めたみたいだね」
「まぁな、あの程度でやられるようじゃ一国の王子としては情けないと思うぞ、シルヴァノ」
「ふふっ、そうだね」
王族の馬車で城へと戻るシルヴァノとペイル。こちらは両方とも決勝トーナメントに進めたようである。
「しかし、ロゼリアくんは惜しかったね。まさか抽選で落とされるとはね」
「まぁあれは仕方ない。その組の進出者はオフライトの双子の妹か。試合は見てたが、なかなかな闇魔法の使い手だったな」
「うん、そうだね。将来的には宰相婦人になるだろうけど、騎士団でその腕を振るってもらいたいものだね」
頭の後ろで手を組んで試合を振り返るペイルに、シルヴァノがちょっと突っ掛けてみる。
「……悔しいのかな?」
「何がだよ」
「ロゼリアくんが決勝トーナメントに進めなかった事だよ」
シルヴァノがこう言うと、ペイルの目が一瞬向こうを向いた。
「まぁな。実際に手合わせをしてみたかったと思うぞ。女王教育で頑張ってる姿を見たからな」
ペイルの声の調子を聞くに、本当に残念そうな感じである。
「お前の方はよかったな、ペシエラは順当に圧勝で上がってきたからな」
「そうですね。体力不足は年々解消されてきているみたいですし、あの分じゃ私は負けそうだよ」
「だな。魔法の精度も、あれだけ使えるのにまだ上がってきてる感じだし。あの分じゃ身体強化だけで差を埋められそうだ」
ペイルもペシエラの腕前を警戒している。おととしは体力と体格差でオフライトに敗北していたが、今は体格差はあれど体力面での不安がなくなってきている。それでいて小さい体格を活かした素早い動きがある。まったく油断ならなくなってきていた。オフライトも「今年は勝てるか分からない」なんて言っていたくらいだ。あれでまだ学園には本来通えない年齢なのだから、本当に恐ろしいものである。
「なんにしても、明後日の最終日は楽しみだね」
「……まったくだな」
それぞれに複雑な思いを抱きつつ、学園祭の二日目も無事に終わりを迎えたのだった。
「うーん、くじ引きで負けるだなんて、悔しいわ」
商会のブースで後片付けをしているロゼリアたち。結局ロゼリアはくじ引きで負け、シェイディアが決勝トーナメントへ勝ち上がった。
「上って来てましたら、私がコテンパンにして差し上げましたのに」
ペシエラが残念そうにしている。よっぽど戦いたかったのだろう。
「ペシエラと当たらなかった事は運がよかったとしか言いようがないわね。明らかにペシエラの方が強いもの」
ロゼリアはそう言いながら、使われなかった紙の束を見る。
「チェリシア」
「なあに?」
「この紙は売りませんの?」
「あーうん、相場が分からないのよ、カーマイル様が交渉して下さったんだけれど、モスグリネの方にも値段が付けられないみたいでね」
どうやら昨日も来たモスグリネ王国の商人が交渉していったらしい。どう考えても写真で使い切れないので、売れないかどうかという確認をしたみたいだ。似たような紙であっても、モスグリネの技術では粗悪すぎて、ここまでの質の紙だと程度が違い過ぎて値段が決められなかったのである。なにせ紙は使い切りだし、この紙がどの程度保存に適しているのか分からないからだ。
ちなみに写真にした紙には保護魔法が掛けてあるので、あれなら簡単には朽ちない。魔法自体が向こう百年は余裕で持つはずである。まあ、魔法がなくても雑な保存をしなければ、そうそう簡単にはボロボロにはならないのだが。
しかし、話を聞きながらペシエラが怒り始めた。
「お姉様! あれほど無茶をしないでと言ったではありませんか!」
「ど、どうしたのよ、ペシエラ」
「どうもこうもではありませんわ。残り枚数を見てみたら、今日も七百枚くらい減ってるではありませんか! あれほど魔法を使い過ぎるなと口酸っぱく言っておきましたのに。明日は朝昼共に百枚まででおやめなさい!」
「ひっ、ひえっ!」
完全にお冠なペシエラである。見回りから遅れて戻ってきたアイリスとライは、いきなりの怒り声にびびっていた。
「ど、どうしたの、ペシエラ」
「あ、お帰りなさいませ、アイリスお姉様。どうでしたか?」
戻ってきたアイリスに見回りの成果を尋ねるペシエラ。
「そうね。特に問題は無かったです。ラルクやトルフともその辺の確認をしてきたので、つい遅くなってしまいました」
「うん、そこらの妖精や精霊にも確認したけど、異常はなしだった」
アイリスもライも見回りの結果を報告する。だが、ペシエラの顔は険しいままだった。
「今年こそは無事に終わるとよろしいのですけれど、最後まで気を抜けませんわね」
「まぁそうよね。武器や危険物の持ち込みはできないけれど、体術や魔法は防ぎようがないものね。警戒態勢は今のまま維持するしかないわ」
ペシエラとロゼリアが周りを見る。城内にはまだ警備兵たちがうろうろと警戒に当たっていた。
「とりあえずは残り二日ね。気を抜かずに頑張りましょう」
「ええ、そうね」
チェリシアたちはお互いに再度確認するのだった。
「ペイル、無事に決勝トーナメントに進めたみたいだね」
「まぁな、あの程度でやられるようじゃ一国の王子としては情けないと思うぞ、シルヴァノ」
「ふふっ、そうだね」
王族の馬車で城へと戻るシルヴァノとペイル。こちらは両方とも決勝トーナメントに進めたようである。
「しかし、ロゼリアくんは惜しかったね。まさか抽選で落とされるとはね」
「まぁあれは仕方ない。その組の進出者はオフライトの双子の妹か。試合は見てたが、なかなかな闇魔法の使い手だったな」
「うん、そうだね。将来的には宰相婦人になるだろうけど、騎士団でその腕を振るってもらいたいものだね」
頭の後ろで手を組んで試合を振り返るペイルに、シルヴァノがちょっと突っ掛けてみる。
「……悔しいのかな?」
「何がだよ」
「ロゼリアくんが決勝トーナメントに進めなかった事だよ」
シルヴァノがこう言うと、ペイルの目が一瞬向こうを向いた。
「まぁな。実際に手合わせをしてみたかったと思うぞ。女王教育で頑張ってる姿を見たからな」
ペイルの声の調子を聞くに、本当に残念そうな感じである。
「お前の方はよかったな、ペシエラは順当に圧勝で上がってきたからな」
「そうですね。体力不足は年々解消されてきているみたいですし、あの分じゃ私は負けそうだよ」
「だな。魔法の精度も、あれだけ使えるのにまだ上がってきてる感じだし。あの分じゃ身体強化だけで差を埋められそうだ」
ペイルもペシエラの腕前を警戒している。おととしは体力と体格差でオフライトに敗北していたが、今は体格差はあれど体力面での不安がなくなってきている。それでいて小さい体格を活かした素早い動きがある。まったく油断ならなくなってきていた。オフライトも「今年は勝てるか分からない」なんて言っていたくらいだ。あれでまだ学園には本来通えない年齢なのだから、本当に恐ろしいものである。
「なんにしても、明後日の最終日は楽しみだね」
「……まったくだな」
それぞれに複雑な思いを抱きつつ、学園祭の二日目も無事に終わりを迎えたのだった。
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