308 / 731
第十章 乙女ゲーム最終年
第304話 チェリシアの扱いには慣れたもの
しおりを挟む
三年次の学園祭三日目。この日はロゼリアとペシエラも試合が無いために、商会の出店スペースにやって来ていた。久しぶりにマゼンダとコーラルの令嬢四人が勢揃いしていた。
「お兄様、今日はお手伝いします」
「おお、ロゼリアか。正直助かるぞ」
ロゼリアとカーマイルはバックヤードの在庫管理で話し合いを始める。
「お姉様、今日の写真は私が対応しますので、料理でも作っておとなしくしていて下さいませ」
「うっ、分かったわよ」
「私は何をすればいいかしら」
「アイリス姉様は、お姉様を手伝っていて下さい。どうせ張り切って作り過ぎるでしょうから、監視をお願い致しますわ」
「分かりました」
チェリシアもアイリスも、ペシエラの指示に従う。実際、チェリシアだけだと歯止めが効かずに暴走してしまう傾向にある。シアンやキャノルではとても止められなかったのだ。どうしてこうなったのだろうか。
今日のコーラル家の三人の行動は、夜のうちにペシエラが単独で練り上げていた。チェリシアは二日間の行動を見返すに、完全に暴走モード。つい張り切って頑張ってしまう性格が災いしていた。
そこでペシエラは、チェリシアを暴走させないように何かいい案はないかと考えていた。その時に思い付いたのが、作り過ぎた物を収納魔法にしまい込むチェリシアの癖だった。まだあまり表に出していない豆腐やおからが眠っているはずなので、それを消化させようと考えたのだ。それが、この朝の指示というわけである。
「ペシエラ、料理とはいっても材料が……」
「お姉様、私知ってますのよ? 収納魔法に豆腐とかピザとか、過去に調子に乗って作った料理が押し込められている事を。それでも消化して下さいませ」
「うっ……、なんで知ってるのよぉ……」
完全にチェリシアの敗北である。さすがは女王を一度経験したペシエラの洞察力である。チェリシアは渋々、後ろで豆腐を使った冷奴やおからハンバーグを作って試食を行う事にした。午前中だけの特別イベントである。
豆腐の作り方は職員たちに教えているが、なにぶん力の要る作業なので作れる量はそれほど多くはない。しかも保存技術や入れる容器の問題もあり、商会の近くの料理店に卸して使ってもらっている程度である。おからも料理方法がチェリシアの教えたハンバーグと和え物くらいなので、こちらも現状の取り扱いは豆腐と同じ状態である。
豆腐の揚げ物である薄揚げや厚揚げも、絶賛研究中。しかしながら、その定着にはまだまだ遠そうである。
そんなわけで、今日のところは冷奴とおからハンバーグの宣伝だけになった。
この日も記念撮影のために、朝からたくさんのお客が詰めかけていた。しかし、この日は午前午後ともに百人までと人数制限を設けておいたので、中には渋々帰っていく姿も見えた。
記念撮影をした客には、チェリシアが試食も食べてもらうという感じで、この日もマゼンダ商会のブースは大盛況である。試食品はチェリシアが浄化魔法を掛けて、食中毒対策も万全である。それにつられるように調味料の類もそれなりに売れているようだった。
その盛り上がりの中で、とんでもない客がやって来た。
「よお、今日も盛況みたいじゃないか」
「これは悔しいですね。写真魔法なんて特殊技能が羨ましいですよ」
シルヴァノ、ペイルに加えてロイエールがやって来た。
「あら、殿下たちではございませんの。どうでしょう、記念に一枚撮っていかれませんか?」
ペシエラはすかさず写真を勧める。数を絞ったおかげで余裕はあるし、シルヴァノたちがやって来た事で客が一気に周りから引いたのだ。
「そうですね。でも、私たちは今は遠慮しておきますよ。明日は決勝トーナメントで戦いますからね。終わった後にでも頼みましょう」
「ああ、そうだな。明日はお前に勝つからな、ペシエラ」
「ええ、当たる事がありましたら返り討ちにさせて頂きますわ。私も成長をしていますからね。オフライト様相手でも後れを取るつもりはございませんわよ」
「えぇ、殿下たちは写真撮られないのですか?! あっ、僕だけは撮りますからね」
シルヴァノ、ペイル、ペシエラの三人がバチバチしている中、ロイエールだけはマイペースに写真を撮ってもらう事になった。
「この紙、羊皮紙ではないですね。何なんですか?」
「お姉様が作られた、樹皮や草を材料にした紙ですわ。詳しい製法はお姉様やモスグリネの方がご存じですわよ」
ロイエールがちらりとペイルを見るが、すぐに紙に視線を戻した。
「写真は白い枠がありますね。これに意味はあるのですか?」
「お姉様に確認したら、『だって、額に入れるんでしょ?』と仰られてましたわ。額縁保存を前提にしたものという事ですわね」
「なるほど、確かに貴族ならそうしますね」
「まぁ、その辺の話はお姉様の出す豆腐の試食でもしながらお姉様となさって下さいませ。私はまだ写真を撮る商売をしておりますので、それほど暇ではございませんわ」
ペシエラは話を打ち切って、写真撮影を再開していた。
学園祭三日目もこれといった大きな事件は起きる事なく、実に平和なものだった。過去二年間の事を思えば、これだけ平和なのはありがたい事だ。
こうして、三年次の学園祭も最終日を残すのみ。武術大会を優勝するのは一体誰なのか。すべての注目がそこに注がれる事となった。
「お兄様、今日はお手伝いします」
「おお、ロゼリアか。正直助かるぞ」
ロゼリアとカーマイルはバックヤードの在庫管理で話し合いを始める。
「お姉様、今日の写真は私が対応しますので、料理でも作っておとなしくしていて下さいませ」
「うっ、分かったわよ」
「私は何をすればいいかしら」
「アイリス姉様は、お姉様を手伝っていて下さい。どうせ張り切って作り過ぎるでしょうから、監視をお願い致しますわ」
「分かりました」
チェリシアもアイリスも、ペシエラの指示に従う。実際、チェリシアだけだと歯止めが効かずに暴走してしまう傾向にある。シアンやキャノルではとても止められなかったのだ。どうしてこうなったのだろうか。
今日のコーラル家の三人の行動は、夜のうちにペシエラが単独で練り上げていた。チェリシアは二日間の行動を見返すに、完全に暴走モード。つい張り切って頑張ってしまう性格が災いしていた。
そこでペシエラは、チェリシアを暴走させないように何かいい案はないかと考えていた。その時に思い付いたのが、作り過ぎた物を収納魔法にしまい込むチェリシアの癖だった。まだあまり表に出していない豆腐やおからが眠っているはずなので、それを消化させようと考えたのだ。それが、この朝の指示というわけである。
「ペシエラ、料理とはいっても材料が……」
「お姉様、私知ってますのよ? 収納魔法に豆腐とかピザとか、過去に調子に乗って作った料理が押し込められている事を。それでも消化して下さいませ」
「うっ……、なんで知ってるのよぉ……」
完全にチェリシアの敗北である。さすがは女王を一度経験したペシエラの洞察力である。チェリシアは渋々、後ろで豆腐を使った冷奴やおからハンバーグを作って試食を行う事にした。午前中だけの特別イベントである。
豆腐の作り方は職員たちに教えているが、なにぶん力の要る作業なので作れる量はそれほど多くはない。しかも保存技術や入れる容器の問題もあり、商会の近くの料理店に卸して使ってもらっている程度である。おからも料理方法がチェリシアの教えたハンバーグと和え物くらいなので、こちらも現状の取り扱いは豆腐と同じ状態である。
豆腐の揚げ物である薄揚げや厚揚げも、絶賛研究中。しかしながら、その定着にはまだまだ遠そうである。
そんなわけで、今日のところは冷奴とおからハンバーグの宣伝だけになった。
この日も記念撮影のために、朝からたくさんのお客が詰めかけていた。しかし、この日は午前午後ともに百人までと人数制限を設けておいたので、中には渋々帰っていく姿も見えた。
記念撮影をした客には、チェリシアが試食も食べてもらうという感じで、この日もマゼンダ商会のブースは大盛況である。試食品はチェリシアが浄化魔法を掛けて、食中毒対策も万全である。それにつられるように調味料の類もそれなりに売れているようだった。
その盛り上がりの中で、とんでもない客がやって来た。
「よお、今日も盛況みたいじゃないか」
「これは悔しいですね。写真魔法なんて特殊技能が羨ましいですよ」
シルヴァノ、ペイルに加えてロイエールがやって来た。
「あら、殿下たちではございませんの。どうでしょう、記念に一枚撮っていかれませんか?」
ペシエラはすかさず写真を勧める。数を絞ったおかげで余裕はあるし、シルヴァノたちがやって来た事で客が一気に周りから引いたのだ。
「そうですね。でも、私たちは今は遠慮しておきますよ。明日は決勝トーナメントで戦いますからね。終わった後にでも頼みましょう」
「ああ、そうだな。明日はお前に勝つからな、ペシエラ」
「ええ、当たる事がありましたら返り討ちにさせて頂きますわ。私も成長をしていますからね。オフライト様相手でも後れを取るつもりはございませんわよ」
「えぇ、殿下たちは写真撮られないのですか?! あっ、僕だけは撮りますからね」
シルヴァノ、ペイル、ペシエラの三人がバチバチしている中、ロイエールだけはマイペースに写真を撮ってもらう事になった。
「この紙、羊皮紙ではないですね。何なんですか?」
「お姉様が作られた、樹皮や草を材料にした紙ですわ。詳しい製法はお姉様やモスグリネの方がご存じですわよ」
ロイエールがちらりとペイルを見るが、すぐに紙に視線を戻した。
「写真は白い枠がありますね。これに意味はあるのですか?」
「お姉様に確認したら、『だって、額に入れるんでしょ?』と仰られてましたわ。額縁保存を前提にしたものという事ですわね」
「なるほど、確かに貴族ならそうしますね」
「まぁ、その辺の話はお姉様の出す豆腐の試食でもしながらお姉様となさって下さいませ。私はまだ写真を撮る商売をしておりますので、それほど暇ではございませんわ」
ペシエラは話を打ち切って、写真撮影を再開していた。
学園祭三日目もこれといった大きな事件は起きる事なく、実に平和なものだった。過去二年間の事を思えば、これだけ平和なのはありがたい事だ。
こうして、三年次の学園祭も最終日を残すのみ。武術大会を優勝するのは一体誰なのか。すべての注目がそこに注がれる事となった。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる