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第十章 乙女ゲーム最終年
第321話 一発屋にはなるまい?
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「うー、終わったぁあああ……」
筆記系の試験が終わって、勢いよく机に突っ伏すチェリシア。
「チェリシア、まだ魔法の実技が残ってますよ」
「そうですわよ、お姉様」
「あと一息です」
ロゼリアたちは容赦がなかった。
「うう、問題の筆記が無事に終わった余韻に浸らせてくれてもいいじゃないの……」
顔を横に向けて、ジト目を向けるチェリシア。その目は実に恨めしそうである。だが、それに動じるようなペシエラたちではなかった。
「さぁさぁ、移動しましょうね、チェリシア」
「ううう……」
身長の関係でロゼリアとアイリスに両脇を抱えられて引き摺られていくチェリシア。その光景は他の学生たちから注目を集めてしまっていた。
(ううう、恥ずかしい……)
そう思っているのなら自分で歩こうチェリシア。結局、引きずられたまま、魔法の実技試験会場に移動してしまったのだった。
その魔法の実試験自体は、チェリシアは無難にこなした。ロゼリアやペシエラは元々の才能もあるので言うまでもない。
使える魔法の属性と種類が乏しいアイリスも問題なくクリアしていた。というのもアイリスは、契約している幻獣や神獣が増えるとそれだけで使用できる魔法や魔力が増えていくのだ。ちなみにアイリス自身が使えるのは、デモンズハートによる精神汚染の影響のある血筋のせいか闇属性の魔法だけである。試験ではフェンリルの得意魔法である氷の魔法を使っていた。
というわけで、無事に年次末試験は終了した。魔法の実技試験の最中に三年次全体の筆記試験の採点結果が出されていたので、学生たちはその結果の発表をドキドキしながら待っていた。
筆記試験のトップはペシエラだった。逆行してからも努力を怠らなかったヒロイン、さすがとしか言いようがない。
ロゼリアとシルヴァノも十位以内にあった。プラティナもさすがは公爵令嬢といった感じに二位に名前が載っていた。
アイリスもやればできる子なので、十一位に名前がある。
さてさて肝心のチェリシアは……という事で上から順番に見ていく。すると、
「あっ、あった」
抜けた感じの声で叫ぶチェリシア。ロゼリアたちがどれどれという感じで確認すると、チェリシアの名前は四十六位にあった。最下位は百二十一位なので、半分よりは上にあった。奇跡である。
「五十位以内なら、頑張った成果は出ましたわね」
ペシエラは腕を組みながら頷いている。
「これがいつもできているなら苦労はしないのだけれどね」
「私なんて去年はメイドしていたのに、どうしてこんなに差ができてるのかしら……」
「ちょっと、少しは褒めてくれてもいいんじゃないの?」
三人の言い分に、チェリシアは怒っている。
「だって、このくらい普通ですもの」
「ええ、普通ね」
「普段の努力の差です」
こう言い返されてしまって、チェリシアは言葉に詰まってしまった。普段から勉強をさぼっていた自覚があるからだ。やりたい事に注力してしまった結果なのだが、同じようにやりたい事もしているペシエラが居る以上、反論の余地は残っていなかった。
「ううう、勉強を頑張ります……」
チェリシアはがっくりと項垂れた。
「ええ、ちゃんと頑張った成果を出していれば、後はいろいろ商会の仕事をしていても怒られませんわよ。一応まだ学生なんですからね、お姉様?」
ペシエラが怖い笑顔で迫ってくる。
「は、はい……」
これに対してチェリシアは、こう返事する事しかできなかった。
「今回の一件はロゼリアのお父様たちにお任せしましょう。あれだけイメージを図案化しているのですから、訳が分からなくてもある程度は理解できるはずですわ」
「そうね。年内は年末のパーティーの方に注力したいところだし、何より今あの辺りは雪が深くて何もできないからね。チェリシアから話を聞かされた後は、人員や予算編成とかを検討しているようだったわ」
落ち込むチェリシアを目の前に、ペシエラとロゼリアがいろいろと話をしている。しかし、チェリシアは完全に涙目になっていて、あまり聞いていないようである。アイリスはその横でどう対応しようか困惑しているようだった。
「まったく、こんなところで何をやってるんだ」
「そうですね。廊下の真ん中でやる事はないと思いますよ」
ペイルとシルヴァノが現れた。
「いえ、あまりに成績が悪かったので、反省会をしていたところですよ」
「チェリシアくんの成績かい? 何位だったのかな」
ロゼリアが話すと、シルヴァノが興味があるようで聞いてきた。
「四十六位ですわよ。私が一位、アイリスが十一位ですから、大きく下ですわね」
ペシエラがガツンとする単語を加えて伝えると、シルヴァノは苦笑いしていた。
「そっか。同じ家族の中でそれだけ差ができてしまうと、それは確かにお説教ものですね。ですが、ペイルよりはましだと思いますよ」
「ペイル殿下は何位で?」
シルヴァノの反応を聞いて、ペイルに話題を振る。
「ろ、六十位だ」
ペイルが詰まりながらも答えると、一瞬空気が凍った気がする。
「ま、まあ、もうしばらくしたら魔法も交えた結果が出ますわよ」
ペシエラが視線を逸らしながら呟く。
確かに、ものの数十分ほどして魔法の実技試験も交えた結果が貼り出された。
魔法を加えてもペシエラは堂々の一位。二位に大きく差をつけての一位である。ロゼリアとシルヴァノ、それとプラティナも十位以内をキープ。アイリスは横ばいの十一位。
「で、私の順位はっと……」
チェリシアが確認すると、総合の成績は十八位だった。魔法の成績はペシエラと差のない二位だというのに、それくらいに筆記の成績が悪いのである。ちなみに中間試験までは筆記が八十位台で、魔法を加えた総合で四十位前後だった。落第ラインは筆記成績の九十位半ばくらいにあるらしいので、まあ何とか回避できていたのだ。頭の悪い魔法使いは要らないという事である。
ちなみにペイルの成績も確認したのだが、まぁあまり聞かないでおこう。
というわけでなんとか落第は回避できたものの、正直ものすごく疲れた年次末試験だった。
筆記系の試験が終わって、勢いよく机に突っ伏すチェリシア。
「チェリシア、まだ魔法の実技が残ってますよ」
「そうですわよ、お姉様」
「あと一息です」
ロゼリアたちは容赦がなかった。
「うう、問題の筆記が無事に終わった余韻に浸らせてくれてもいいじゃないの……」
顔を横に向けて、ジト目を向けるチェリシア。その目は実に恨めしそうである。だが、それに動じるようなペシエラたちではなかった。
「さぁさぁ、移動しましょうね、チェリシア」
「ううう……」
身長の関係でロゼリアとアイリスに両脇を抱えられて引き摺られていくチェリシア。その光景は他の学生たちから注目を集めてしまっていた。
(ううう、恥ずかしい……)
そう思っているのなら自分で歩こうチェリシア。結局、引きずられたまま、魔法の実技試験会場に移動してしまったのだった。
その魔法の実試験自体は、チェリシアは無難にこなした。ロゼリアやペシエラは元々の才能もあるので言うまでもない。
使える魔法の属性と種類が乏しいアイリスも問題なくクリアしていた。というのもアイリスは、契約している幻獣や神獣が増えるとそれだけで使用できる魔法や魔力が増えていくのだ。ちなみにアイリス自身が使えるのは、デモンズハートによる精神汚染の影響のある血筋のせいか闇属性の魔法だけである。試験ではフェンリルの得意魔法である氷の魔法を使っていた。
というわけで、無事に年次末試験は終了した。魔法の実技試験の最中に三年次全体の筆記試験の採点結果が出されていたので、学生たちはその結果の発表をドキドキしながら待っていた。
筆記試験のトップはペシエラだった。逆行してからも努力を怠らなかったヒロイン、さすがとしか言いようがない。
ロゼリアとシルヴァノも十位以内にあった。プラティナもさすがは公爵令嬢といった感じに二位に名前が載っていた。
アイリスもやればできる子なので、十一位に名前がある。
さてさて肝心のチェリシアは……という事で上から順番に見ていく。すると、
「あっ、あった」
抜けた感じの声で叫ぶチェリシア。ロゼリアたちがどれどれという感じで確認すると、チェリシアの名前は四十六位にあった。最下位は百二十一位なので、半分よりは上にあった。奇跡である。
「五十位以内なら、頑張った成果は出ましたわね」
ペシエラは腕を組みながら頷いている。
「これがいつもできているなら苦労はしないのだけれどね」
「私なんて去年はメイドしていたのに、どうしてこんなに差ができてるのかしら……」
「ちょっと、少しは褒めてくれてもいいんじゃないの?」
三人の言い分に、チェリシアは怒っている。
「だって、このくらい普通ですもの」
「ええ、普通ね」
「普段の努力の差です」
こう言い返されてしまって、チェリシアは言葉に詰まってしまった。普段から勉強をさぼっていた自覚があるからだ。やりたい事に注力してしまった結果なのだが、同じようにやりたい事もしているペシエラが居る以上、反論の余地は残っていなかった。
「ううう、勉強を頑張ります……」
チェリシアはがっくりと項垂れた。
「ええ、ちゃんと頑張った成果を出していれば、後はいろいろ商会の仕事をしていても怒られませんわよ。一応まだ学生なんですからね、お姉様?」
ペシエラが怖い笑顔で迫ってくる。
「は、はい……」
これに対してチェリシアは、こう返事する事しかできなかった。
「今回の一件はロゼリアのお父様たちにお任せしましょう。あれだけイメージを図案化しているのですから、訳が分からなくてもある程度は理解できるはずですわ」
「そうね。年内は年末のパーティーの方に注力したいところだし、何より今あの辺りは雪が深くて何もできないからね。チェリシアから話を聞かされた後は、人員や予算編成とかを検討しているようだったわ」
落ち込むチェリシアを目の前に、ペシエラとロゼリアがいろいろと話をしている。しかし、チェリシアは完全に涙目になっていて、あまり聞いていないようである。アイリスはその横でどう対応しようか困惑しているようだった。
「まったく、こんなところで何をやってるんだ」
「そうですね。廊下の真ん中でやる事はないと思いますよ」
ペイルとシルヴァノが現れた。
「いえ、あまりに成績が悪かったので、反省会をしていたところですよ」
「チェリシアくんの成績かい? 何位だったのかな」
ロゼリアが話すと、シルヴァノが興味があるようで聞いてきた。
「四十六位ですわよ。私が一位、アイリスが十一位ですから、大きく下ですわね」
ペシエラがガツンとする単語を加えて伝えると、シルヴァノは苦笑いしていた。
「そっか。同じ家族の中でそれだけ差ができてしまうと、それは確かにお説教ものですね。ですが、ペイルよりはましだと思いますよ」
「ペイル殿下は何位で?」
シルヴァノの反応を聞いて、ペイルに話題を振る。
「ろ、六十位だ」
ペイルが詰まりながらも答えると、一瞬空気が凍った気がする。
「ま、まあ、もうしばらくしたら魔法も交えた結果が出ますわよ」
ペシエラが視線を逸らしながら呟く。
確かに、ものの数十分ほどして魔法の実技試験も交えた結果が貼り出された。
魔法を加えてもペシエラは堂々の一位。二位に大きく差をつけての一位である。ロゼリアとシルヴァノ、それとプラティナも十位以内をキープ。アイリスは横ばいの十一位。
「で、私の順位はっと……」
チェリシアが確認すると、総合の成績は十八位だった。魔法の成績はペシエラと差のない二位だというのに、それくらいに筆記の成績が悪いのである。ちなみに中間試験までは筆記が八十位台で、魔法を加えた総合で四十位前後だった。落第ラインは筆記成績の九十位半ばくらいにあるらしいので、まあ何とか回避できていたのだ。頭の悪い魔法使いは要らないという事である。
ちなみにペイルの成績も確認したのだが、まぁあまり聞かないでおこう。
というわけでなんとか落第は回避できたものの、正直ものすごく疲れた年次末試験だった。
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