逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第十章 乙女ゲーム最終年

第325話 運命の交錯

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 結局、特に問題が起きる事なく、年末パーティーの初日を迎える事になった。ロゼリアたちマゼンダ侯爵一家、チェリシアたちコーラル伯爵一家ともども、この日のための晴れ着に身を包んでいた。
 この三年次ではペシエラは十二歳、カーマイルは十八歳、それ以外は十五歳と、それぞれにいい年となっていた。
 カーマイルは無事に学園を卒業して、いよいよ父親の跡を継ぐべく勉強が本格化する事になる。そのためか、確かな美形な上に面構えもすごくピシッとしていた。
 ペシエラも成長期著しい時期とあって、チェリシアの同じ年齢の時くらいの体形にはなってきていた。しかし、逆行後では姉となったチェリシアの体形を見ていると、自分の将来に不安を覚えてくる。逆行前よりも貧相なのである。異世界人の魂の影響なのだろうが、どうにも割り切れないペシエラ。首回りがない肩出しドレスなので、どうしてもその辺りが目立ってしまうのだ。どう見たところでアイリスの方が発育はいいようである。
「ペシエラったら、チェリシアの胸あたりを見過ぎよ。気になるのは分かるんだけど、ペシエラならああはならないと思うわ」
「慰めならよして下さいませ、ロゼリア」
 気にしている事をもろに指摘されて、ペシエラは頬を膨らませた。
 さて、いち早く会場入りをしたマゼンダとコーラルの二家は、同じように早くから会場入りしている宰相のブラウニルや王国騎士団の団長、副団長たちと挨拶をしている。そうこうしている間に、続々と他の貴族たちも会場へと入ってきていた。広いはずの王家のパーティーホールも、あっという間に隙間が埋められていく。
「アイリスお姉様、確認取れるかしら」
 頃合いを見計らって、ペシエラは各所の状況を確認する。ラルクとトルフ、それにニーズヘッグの三体で都の警備に当たらせているのだ。
「怪しい動きはないようです」
「そう、ありがとう」
 アイリスからの報告に、ペシエラはひとまず安心する。
 ここまで警戒するのも、チェリシアの言う乙女ゲームの最終局面だからである。逆行前のロゼリアとペシエラの時には、特に何もなく終わった三年次のパーティー。だが、今回のパーティーはモスグリネの王族までもが参加するゆえに、そんな事には関係なく警戒をせざるを得ないのである。
「私たちが事前にできる事はできる限りしましたしね。とにかく無事に終われるように祈るばかりだわ」
 ロゼリアもちょっと緊張しているようだった。
 ロゼリアたちの居るパーティー会場には、ペシエラが浄化の魔法を施した装置がシルヴァノの監督の下に取り付けられている。来客用出入口三か所に、関係者用出入口二か所、それと王族用の出入り口の二か所、全部の七か所に仕掛けられている。ここを通る際に毒物などの害ある物を持ち込もうとすれば、装置が白く光って無害な物へと変化させてしまうのだ。
 ちなみに半屋外となるバルコニーは会場の来客用の出入口から出た廊下の更に外にあるので、戻るにはどのみち来客用の出入口を通る事になるので、装置を増設する意味はないのである。
 さて、ロゼリアたちの使用人は、シアンとキャノル、それとライの三人は会場入りしているが、ストロアだけは残念ながら別の場所に出向いていた。
「やあ、また会ったね。ここに来たという事は、組合に所属してくれる覚悟ができたんだね、嬉しいよ」
 ストロアが居る場所は、城の客間の一つ、ケットシーが滞在する部屋だった。
 先日の一件でストロアはコーラル家の使用人をこの日付で正式に退職となり、このケットシーがトップを務めるモスグリネの商業組合に就職する事になったのだ。ストロアがケットシーの部屋に居るのはそのためである。
 しかし、ケットシーが幻獣である上にとてもうさんくさいので、ストロアは恐怖のあまりに身を震わせていた。
「はっはっはっ、そんなに怖がらないでくれ。せっかく用意したドレスを着てもらったんだし、もう少し笑顔になってくれないかな?」
 ケットシーが笑っているが、ストロアにはそんな勇気はなかった。まあ、貴族が着るような服装を、カイスの村出身の平民である自分が着ているなんて、そりゃ恐れ多くもなるものである。
「自分が平民というのを気にしているのかい? それとも毒を盛った反逆者だからかな? そんなに気にしなくていいよ。君はボクの片腕になる予定なんだから、これくらい着飾ってもらわなきゃね」
 ケットシーはこれでもかと笑っている。だが、ストロアの表情はまったく変わらなかった。
「そんなに怖い顔をしていちゃだめだよ。これでしばらくアイヴォリーは見納めになるんだからね。思うところはあるだろうが、笑顔でお別れしようじゃないか」
 妙に気遣いをするケットシー。だが、それがかえって怖がられる事になるとは思っていないようだ。
「やれやれだね」
 ケットシーはひげを触っている。
「しかしながら、そろそろパーティーが始まる。会場に移動しようじゃないか」
「は、はい……」
 ケットシーはストロアを連れて、パーティー会場へと向かった。
「はてさて、此度はどんな未来を引き当ててくれるんだろうかね、ロゼリア嬢、ペシエラ嬢?」
 ケットシーは周りに聞こえないように小さく呟くと、にまっと不気味に微笑んだ。
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