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第十章 乙女ゲーム最終年
第326話 裏にあった駆け引き
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運命のイベントとなる、三年次の冬、アイヴォリー王国の年末パーティーが始まった。始まり自体は去年と変わらない音楽に貴族の歓談。会場にはごった返すほどの人数が集まっていた。
ただ、今年はその席に異様な人影が一つ見えた。
「いやぁ、約束通り今年も参加させてもらっているよ」
ケットシーだった。横にはドレスを着飾ったストロアが立っていた。カイスのただの村娘だった彼女が、ここまで変わるとは驚きである。
「そうそう、今度うちで働く事になったストロアだ。引き抜く事になってすまないね、コーラル家の方々」
チェリシアとロゼリアが驚いている。なぜならこの事情を知っているのはペシエラと両親だけだからだ。ちなみにアイリスにはライ経由で伝わっている。
「はっはっは、誰のせいでうちも忙しくなっていると思っているんだい? 責任は取ってもらわないと困るからね、彼女を譲り受ける事になったんだよ」
ケットシーがこう言っているが、チェリシアは首を傾げるばかりである。だが、ロゼリアの方はすぐに察しがついたようである。
「ああ、そういう事なのね。心中お察し致します」
「ロゼリア?」
ロゼリアはケットシーに同情しているが、やっぱりチェリシアはよく分かっていないようである。
「はっはっは、まるで分っていないって顔だね」
ケットシーは声高らかに笑う。
「一つ助言をしておいてあげるよ。チェリシアくんの元居た世界にはこんな言葉があるそうだね。『好奇心は猫をも殺す』。まぁボクが猫なんだがね、はっはっは!」
ケットシーが自分で言って笑っている。ロゼリアたちは言葉の意味が分からないが、チェリシアはさすがに聞いた事のある言葉なだけに反応が違った。
「ご忠告、ありがとうございます」
「うむ、君が作るものは実に興味深い。だが、ここはあくまでも王族と貴族の世界だ。やりすぎには注意だよ」
ケットシーは相変わらず笑いながらその場を去っていく。ストロアは深々と頭を下げるとケットシーについて行った。残された面々はまるで嵐が去った後のように呆然としていた。
「ところで、ケットシーが言っていた事に関して、兆候でもあるのかしら」
「無いとは言えないな」
ロゼリアが呟いた疑問に答えたのはカーマイルだった。
「そうなんですか、お兄様」
「ああ。ドール商会もオーカー商会も一応懇意にさせてもらっているが、一部貴族からは私たちへの集中を嫌う動きがあるらしい。まあ大体は黙らせてあるけれどな」
カーマイルの証言は、どうにも不穏すぎるものだった。
「黙らせるってお兄様……」
「心配要らないよ。取引の上で便宜を図っただけだ。別にやましい事じゃないよ」
カーマイルをジト目で見るロゼリアだったが、それを宥めたのは父親のヴァミリオだった。
「まあそういう事ですわね。お姉様のおかげで色々マゼンダ領の特産品も利用価値が上がりましたもの。それらの特産品を割安な特別価格で直接売るのですわ。それと同時に、相手の名物を少し色を付けて買う。相手に自分は特別だと思わせる事で不満を和らげる手法ですわね」
「その通りだね」
ペシエラの解説を、ヴァミリオが肯定した。なるほど、非常に分かりやすい。
「その中でもターコイズ子爵領は蜘蛛糸の生産地でね。新しい生地の生産に乗り出しているんだよ。チェリシア嬢にも見てもらったね」
「はい、確認させて頂きました。まるで絹糸のような光沢と肌触りで、さらには伸縮性もあるので大変気に入りました」
チェリシアもどこかうっとりしたように答えていた。よほど気に入ったのだろう。
「まだ量が少なくて数は作れていないのが難点でね。今回は献上品として少し提出させてもらっているよ」
「ドール商会の方も気になっているみたいだったな。そこで、生産量が増えたら提供する約束を交わしてあるんだ。衣料品は元々ドール商会の分野だからな」
「そうでしたのね」
知らない間に行われていた貴族のやり取りに、ロゼリアは驚いていた。だが、穏便に事が進んでいると知ると、とりあえずは安心したようである。
「だが、正直言って私のところよりもコーラル伯爵家の方が心配だったんだ」
「まあ、そうなのですね」
「チェリシア嬢の活躍もあって一気に力を付けてきた田舎子爵だからな。当然ながらあちこちからいろいろ目を付けられていたさ」
ヴァミリオとカーマイルが、そろってチェリシアとペシエラを見る。突然視線を向けられて、チェリシアは驚いたがペシエラはまったく動じていなかった。
「チェリシア嬢の発案で色々発展してきているからな、当然妬まれる要素は多いんだが、全部ペシエラ嬢の活躍で黙らざるを得なくなったんだ」
「学園祭であれだけの強さを見せられたら、それは黙るしかないと思う」
つまるところ、頭脳でも武力でも相手にならないと白旗を上げたという事である。それに、パープリアの一件も絡んで、悪だくみを秘密裏に画策しても潰されるのは目に見えているという諦めもある。うん、大体ペシエラのせいである。
それが証拠に、マゼンダとコーラルの両家に対して誰も近付いてこない。視線を向けてくるが、目が合うと驚いて視線を逸らしてしまう。これはこれで悲しいものである。
そうした中、不意に音楽が止められる。いよいよ王族たちの登場と相成ったのだ。
ただ、今年はその席に異様な人影が一つ見えた。
「いやぁ、約束通り今年も参加させてもらっているよ」
ケットシーだった。横にはドレスを着飾ったストロアが立っていた。カイスのただの村娘だった彼女が、ここまで変わるとは驚きである。
「そうそう、今度うちで働く事になったストロアだ。引き抜く事になってすまないね、コーラル家の方々」
チェリシアとロゼリアが驚いている。なぜならこの事情を知っているのはペシエラと両親だけだからだ。ちなみにアイリスにはライ経由で伝わっている。
「はっはっは、誰のせいでうちも忙しくなっていると思っているんだい? 責任は取ってもらわないと困るからね、彼女を譲り受ける事になったんだよ」
ケットシーがこう言っているが、チェリシアは首を傾げるばかりである。だが、ロゼリアの方はすぐに察しがついたようである。
「ああ、そういう事なのね。心中お察し致します」
「ロゼリア?」
ロゼリアはケットシーに同情しているが、やっぱりチェリシアはよく分かっていないようである。
「はっはっは、まるで分っていないって顔だね」
ケットシーは声高らかに笑う。
「一つ助言をしておいてあげるよ。チェリシアくんの元居た世界にはこんな言葉があるそうだね。『好奇心は猫をも殺す』。まぁボクが猫なんだがね、はっはっは!」
ケットシーが自分で言って笑っている。ロゼリアたちは言葉の意味が分からないが、チェリシアはさすがに聞いた事のある言葉なだけに反応が違った。
「ご忠告、ありがとうございます」
「うむ、君が作るものは実に興味深い。だが、ここはあくまでも王族と貴族の世界だ。やりすぎには注意だよ」
ケットシーは相変わらず笑いながらその場を去っていく。ストロアは深々と頭を下げるとケットシーについて行った。残された面々はまるで嵐が去った後のように呆然としていた。
「ところで、ケットシーが言っていた事に関して、兆候でもあるのかしら」
「無いとは言えないな」
ロゼリアが呟いた疑問に答えたのはカーマイルだった。
「そうなんですか、お兄様」
「ああ。ドール商会もオーカー商会も一応懇意にさせてもらっているが、一部貴族からは私たちへの集中を嫌う動きがあるらしい。まあ大体は黙らせてあるけれどな」
カーマイルの証言は、どうにも不穏すぎるものだった。
「黙らせるってお兄様……」
「心配要らないよ。取引の上で便宜を図っただけだ。別にやましい事じゃないよ」
カーマイルをジト目で見るロゼリアだったが、それを宥めたのは父親のヴァミリオだった。
「まあそういう事ですわね。お姉様のおかげで色々マゼンダ領の特産品も利用価値が上がりましたもの。それらの特産品を割安な特別価格で直接売るのですわ。それと同時に、相手の名物を少し色を付けて買う。相手に自分は特別だと思わせる事で不満を和らげる手法ですわね」
「その通りだね」
ペシエラの解説を、ヴァミリオが肯定した。なるほど、非常に分かりやすい。
「その中でもターコイズ子爵領は蜘蛛糸の生産地でね。新しい生地の生産に乗り出しているんだよ。チェリシア嬢にも見てもらったね」
「はい、確認させて頂きました。まるで絹糸のような光沢と肌触りで、さらには伸縮性もあるので大変気に入りました」
チェリシアもどこかうっとりしたように答えていた。よほど気に入ったのだろう。
「まだ量が少なくて数は作れていないのが難点でね。今回は献上品として少し提出させてもらっているよ」
「ドール商会の方も気になっているみたいだったな。そこで、生産量が増えたら提供する約束を交わしてあるんだ。衣料品は元々ドール商会の分野だからな」
「そうでしたのね」
知らない間に行われていた貴族のやり取りに、ロゼリアは驚いていた。だが、穏便に事が進んでいると知ると、とりあえずは安心したようである。
「だが、正直言って私のところよりもコーラル伯爵家の方が心配だったんだ」
「まあ、そうなのですね」
「チェリシア嬢の活躍もあって一気に力を付けてきた田舎子爵だからな。当然ながらあちこちからいろいろ目を付けられていたさ」
ヴァミリオとカーマイルが、そろってチェリシアとペシエラを見る。突然視線を向けられて、チェリシアは驚いたがペシエラはまったく動じていなかった。
「チェリシア嬢の発案で色々発展してきているからな、当然妬まれる要素は多いんだが、全部ペシエラ嬢の活躍で黙らざるを得なくなったんだ」
「学園祭であれだけの強さを見せられたら、それは黙るしかないと思う」
つまるところ、頭脳でも武力でも相手にならないと白旗を上げたという事である。それに、パープリアの一件も絡んで、悪だくみを秘密裏に画策しても潰されるのは目に見えているという諦めもある。うん、大体ペシエラのせいである。
それが証拠に、マゼンダとコーラルの両家に対して誰も近付いてこない。視線を向けてくるが、目が合うと驚いて視線を逸らしてしまう。これはこれで悲しいものである。
そうした中、不意に音楽が止められる。いよいよ王族たちの登場と相成ったのだ。
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