逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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最終章 乙女ゲーム後

第339話 故郷の村でお話を

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 チェリシアたちが集落に近付くと、村の外に居た門番と思しき男性が武器を手に身構えた。かなり警戒しているようだ。
 だが、その警戒も、チェリシアたちと一緒に居たある女性を見て解かれる事となった。
「もしかして、アメジスタちゃんかい? いやぁ、懐かしいなぁ」
 そう、アメジスタの姿を見つけて懐かしんだのである。
 今のアイリスの年齢を、いや、その上に兄のヴィオレスが居るのを考えると二十年以上居なかった人物である。そんなに時間が経っていて、果たして認識できるものだろうか。よっぽど特徴がないと無理である。
「そういうあなたは、コバルかしら。やんちゃだったのに門番とはね」
 アメジスタはくすくすと笑っている。
「さすがにこの年になれば俺だって落ち着くさ。それにしても、そっちの子たちはアメジスタちゃんの子どもたちかい? 貴族様にもらわれていってみんな心配してたけど、子だくさんとはめでてえなあ」
 コバルは目頭を押さえて感動しているようである。
「違うわよ。私の子どもはこのアイリスだけよ。あとの子はお世話になっているところの息女様とその侍女よ」
「ほえぇ、その眼鏡の子がアメジスタちゃんの子かい。またべっぴんさんだなぁ」
 コバルが感動しているが、ペシエラが横から出てきて話に割り込んだ。
「感動の再会を楽しんでいるところ申し訳ございませんが、こちらの村の村長様に会わせて頂けませんかしら。申し遅れましたけれど、私、ペシエラ・コーラルと申します」
 ペシエラがコバルを睨むようにしながら話すと、コバルは体を震わせた。明らかにまだ子どもなペシエラだが、そのまとう雰囲気は明らかに周りと違ったのである。
「まあまあ、ペシエラ」
 チェリシアが前に出てくる。
「初めまして、チェリシア・コーラルと申します。今回はアメジスタさんに帰省をさせようというペシエラの心遣いでやって来たのです。突然のご訪問で驚かれるのも無理はございませんが、村長様に面会させて頂けないでしょうか」
 威圧的に話すペシエラとは対照的に、元日本人の丁寧な挨拶を繰り出すチェリシア。これによって、コバルの緊張は少々解れたようである。
「畏まりました。少々お待ち下さい」
 貴族相手となって、コバルは丁寧な言葉遣いになった。
 近くに居た村人に声を掛けると、村長へと伝令に行かせる。こういう融通が利くあたりが村という感じだ。
 そういえば、村が全然騒ぎが起こっていないのには理由がある。というのもフェンリルがこの場に居ないからである。知らない村人を驚かせてはいけないと、フェンリルには村の外で待機してもらっているのだ。後でアイリスの事を説明する上で重要な役割があるがためである。
 しばらく待つと交代の門番がやって来て、コバルと交代する。そして、コバルの案内で村長の家まで向かった。
「村長、コーラル伯爵家の令嬢たちをお連れしました」
「うむ、通せ」
「はっ! どうぞ、お入り下さい」
 村長の家に入ると、目の前にはだいぶ老けた感じの男性が座っていた。その男性を目の前にして、アメジスタがお辞儀をする。
「セリアン村長、お久しゅうございます。アメジスタでございます」
「おお、アメジスタか。元気にしておったか」
「はい。いろいろございましたが、今はコーラル伯爵家にてお世話になっております」
「そうかそうか」
 簡単に話を済ませると、全員に座るように促し、円を描いてラグの上に座った。
 全員が座ったところで、これまでの話を村長にする。その話に村長は驚いたり首を捻ったり、とにかく反応が忙しいようだった。
「そうか……、お前を妻にと言ってきた男は、そんな狂った男であったか」
「はい、あの男は私に毒を盛り、軟禁していました。息子はほとんど構わず、娘にまで汚い事をさせる始末で……、彼女たちが居なければどうなっていたか、本当に恐ろしいものでございました」
 アメジスタは唇をかみしめて、ぎゅっと身を引き締める。相当に怖い思いをしていた事がよく分かる。
「今では、打って変わって幸せです。息子は別の家に引き取られて騎士を目指しておりますし、娘は今ここに同席しております。村のみんなに会わせられるかと思うと、本当に嬉しくて……」
 アメジスタはここまで言って、涙で言葉を詰まらせた。
 さすがにこの話を聞いた村長も、なんと言葉を掛けていいのか分からない。そのくらいに酷い生活の時期が長かったのだ。
 アメジスタが言葉に詰まってしまい、話が続かなくなってしまった。なので、ここからはチェリシアとペシエラの番である。
「ここからは私たちがお話させて頂きます」
 チェリシアが村長に言葉を掛ける。村長は無言で頷いたので、了承と理解した二人が話を始める。
 アイリスはパープリアの手駒として扱われ、王族の抹殺を実行した事を話すと、村長は言葉を失っていた。だが、そのアイリスを助ける気でいたペシエラの妙案によって、今もこうして生きていると伝えると、村長は深くペシエラに頭を下げてきた。
「なんと慈悲深い……、さすがは未来の女王陛下。恐れ入ります」
 さすがはアイヴォリー王国の中、この村にもペシエラの話は伝わっていたようだ。こう言われたペシエラは、咳払いを一つする。
「村長、感動するのはまだ早いですわ。お話はここからですわよ?」
「はい?」
 ペシエラの言葉に顔を上げて目をぱちぱちとする村長。そう、驚いたり感動したりするのはまだ早い。アイリスに関する話はここからが本番なのだ。
 チェリシア、ペシエラ、アイリスは互いの顔を見ると、最後は同時に頷く。そして、本題を切り出した。
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