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最終章 乙女ゲーム後
第344話 卒業式本番
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「卒業生最後の入場は、この二組です!」
司会の声が響き渡る大講堂。
その声に合わせて登場したのは、ペシエラとシルヴァノ、それとロゼリアと大きな猫だった。さすがにケットシーの異質さに場内が騒めく。
「はっはっはっ、これでもボクはペイル殿下の代理だ。モスグリネ王国商業組合の組合長ケットシーだ。以後、お見知り置きを」
場内の驚きの声をよそに、ケットシーはのんきに自己紹介をしている。本当にマイペースである。
ちょっとした騒ぎはあったが、無事に全員の入場が終わる。
これが終わると在校生からの送辞、卒業生からの答辞が行われ、卒業生たちによるダンスが披露されて終了となる。
ちなみに去年の送辞をしたのはシルヴァノだった。そのシルヴァノは、今年は答辞を述べる事になっている。アイヴォリーの王子なのだから、この役割が回ってくるのは仕方がない事だろう。
普通の場合、こういうのは文官が考えたりするらしいが、シルヴァノは自分で考えて、文章のチェックを文官と一緒にしたそうだ。忙しいだろうに、なかなか殊勝なものである。
送辞を行った学生は、名前は知っているが顔に見覚えのない男子学生だった。しかし、その言葉はなかなかに熱の入ったものであり、シルヴァノたちへの祝福の言葉まで入っていた。熱心な王子のファンなのだろう。その言葉が終わった時、会場からは拍手が起きた。
さて、送辞でこれほどまでの発言をされてしまえば、それへの答辞もそれなりに求められてしまうのは必至である。だが、シルヴァノにもペシエラにも不安の色はなかった。むしろ、余裕と取れる表情で、ペシエラはシルヴァノを送り出した。
シルヴァノが壇上に登ると、大講堂の中が一気に静まり返った。さすがは一国の王子。誰もがその王子の言葉を待っている。
このまさしく厳かな空気の中で紡がれたシルヴァノの言葉は、学生たちの心を打った。涙を堪えて天井を向く者、顔を押さえてしゃがみ込んで嗚咽を漏らす者、非常に感動的だった事が窺える。
『うんうん、さすがは我がライバル、見事な演説だな』
ケットシーの肩のチャットフォンから、ペイルの言葉が聞こえてくる。
さて、シルヴァノの答辞が終わったのだが、シルヴァノは壇上から降りない。どういう事なのかと会場が少し騒ぎ出す。すると、ロゼリアの隣のケットシーが壇上へと歩いていく。
「ちょっと、何をするつもりなの?」
「なに、これは彼らと考えたちょっとしたサプライズなんだ」
ケットシーは笑みを浮かべると、そのまま壇上へと上がっていった。
それと同時に、大講堂の裾から予想外な人物が出てきた。
「国王陛下、女王陛下?!」
そう、クリアテス国王陛下とブランシェード女王陛下の二人である。予想外の人物の登場に、会場のどよめきが大きくなった。
壇上には、国王、女王、王子が揃い、そこに大きな猫が加わるという奇妙な状況が展開されている。これにはロゼリアは言葉を失っているが、隣に居るペシエラの表情は落ち着いていた。
「ペシエラ、知っていたの?」
ロゼリアのこの問いに、
「どうかしらね」
ペシエラは不敵に笑って答えた。
訳が分からないが、とりあえずロゼリアは視線を壇上に戻す。
「諸君、日々学園での学び、まことにご苦労である。本日卒業を迎えた学生諸君は、誠にめでたいものである。祝辞を送ろうぞ」
国王の言葉に、一斉に敬礼する学生たち。実にそろった動きである。
「私からも、実に喜ばしい事と言葉を送らせて頂こう」
国王、女王双方からお言葉を賜るとは思っていなかった学生たちが、感激に打ち震えている。
「どれから、この場を借りて我々からひとつ重大な発表をさせてもらおう」
国王の言葉に、何が発表されるのか緊張が高まる。その空気に、国王が大講堂内を見回し、ひとつ咳払いをする。
「隣国モスグリネ王国との間で、留学生制度を正式に始める事となった。来年の後期から行う事になる。今回はその説明のために、このケットシーに来てもらっているのだ。彼は商業を通じてモスグリネ王国に精通しておるからな」
「まっ、そういう事だね。モスグリネに興味があるならできる限りは答えようじゃないか」
国王の紹介に、ケットシーは手をひらひらと振っている。学生の中にはモスグリネへの興味がある者がそれなりに居たようで、ケットシーに視線を注いでいた。
「いかがでしたかな? ペイル殿下」
『うむ、これならば明日のモスグリネの学園の卒業式でも反応は期待できそうだな』
チャットフォン越しに、ペイルも満足そうである。
こうして、盛り上がりの中で卒業式は卒業生たちによる学生最後のダンスで締められる。
この中でロゼリアはケットシーと踊っていたのだが、この猫、意外とダンスがうまくてロゼリアは納得のいかない顔をしていた。
「はっはっはっ、ボクもそれなりに社交界に出ているからね、こういう事は慣れっこなのだよ」
「なんか納得できないわ」
「それを言ったらあっちもじゃないかね?」
ケットシーが指差す先には、アイリスとライの姿があった。ライがうまくアイリスをリードして踊っている。
「いたずら妖精とはいえ、妖精だから当然じゃないの?」
「おいおい、ずいぶんと違う反応だね」
「仕方ないわよ、あなたは猫なんですから」
「うーん、納得いかないね」
口げんかをしながらも、ロゼリアとケットシーはしっかりと踊り切った。
この卒業ダンスでも、シルヴァノとペシエラのペアはひと際注目を集めていた。未来の国王と女王によるダンスである。この和やかな雰囲気に、アイヴォリー王国の確かな未来を見たような気がした。
ケットシーが悪目立ちした以外は、概ね平穏に終わった卒業式だった。
司会の声が響き渡る大講堂。
その声に合わせて登場したのは、ペシエラとシルヴァノ、それとロゼリアと大きな猫だった。さすがにケットシーの異質さに場内が騒めく。
「はっはっはっ、これでもボクはペイル殿下の代理だ。モスグリネ王国商業組合の組合長ケットシーだ。以後、お見知り置きを」
場内の驚きの声をよそに、ケットシーはのんきに自己紹介をしている。本当にマイペースである。
ちょっとした騒ぎはあったが、無事に全員の入場が終わる。
これが終わると在校生からの送辞、卒業生からの答辞が行われ、卒業生たちによるダンスが披露されて終了となる。
ちなみに去年の送辞をしたのはシルヴァノだった。そのシルヴァノは、今年は答辞を述べる事になっている。アイヴォリーの王子なのだから、この役割が回ってくるのは仕方がない事だろう。
普通の場合、こういうのは文官が考えたりするらしいが、シルヴァノは自分で考えて、文章のチェックを文官と一緒にしたそうだ。忙しいだろうに、なかなか殊勝なものである。
送辞を行った学生は、名前は知っているが顔に見覚えのない男子学生だった。しかし、その言葉はなかなかに熱の入ったものであり、シルヴァノたちへの祝福の言葉まで入っていた。熱心な王子のファンなのだろう。その言葉が終わった時、会場からは拍手が起きた。
さて、送辞でこれほどまでの発言をされてしまえば、それへの答辞もそれなりに求められてしまうのは必至である。だが、シルヴァノにもペシエラにも不安の色はなかった。むしろ、余裕と取れる表情で、ペシエラはシルヴァノを送り出した。
シルヴァノが壇上に登ると、大講堂の中が一気に静まり返った。さすがは一国の王子。誰もがその王子の言葉を待っている。
このまさしく厳かな空気の中で紡がれたシルヴァノの言葉は、学生たちの心を打った。涙を堪えて天井を向く者、顔を押さえてしゃがみ込んで嗚咽を漏らす者、非常に感動的だった事が窺える。
『うんうん、さすがは我がライバル、見事な演説だな』
ケットシーの肩のチャットフォンから、ペイルの言葉が聞こえてくる。
さて、シルヴァノの答辞が終わったのだが、シルヴァノは壇上から降りない。どういう事なのかと会場が少し騒ぎ出す。すると、ロゼリアの隣のケットシーが壇上へと歩いていく。
「ちょっと、何をするつもりなの?」
「なに、これは彼らと考えたちょっとしたサプライズなんだ」
ケットシーは笑みを浮かべると、そのまま壇上へと上がっていった。
それと同時に、大講堂の裾から予想外な人物が出てきた。
「国王陛下、女王陛下?!」
そう、クリアテス国王陛下とブランシェード女王陛下の二人である。予想外の人物の登場に、会場のどよめきが大きくなった。
壇上には、国王、女王、王子が揃い、そこに大きな猫が加わるという奇妙な状況が展開されている。これにはロゼリアは言葉を失っているが、隣に居るペシエラの表情は落ち着いていた。
「ペシエラ、知っていたの?」
ロゼリアのこの問いに、
「どうかしらね」
ペシエラは不敵に笑って答えた。
訳が分からないが、とりあえずロゼリアは視線を壇上に戻す。
「諸君、日々学園での学び、まことにご苦労である。本日卒業を迎えた学生諸君は、誠にめでたいものである。祝辞を送ろうぞ」
国王の言葉に、一斉に敬礼する学生たち。実にそろった動きである。
「私からも、実に喜ばしい事と言葉を送らせて頂こう」
国王、女王双方からお言葉を賜るとは思っていなかった学生たちが、感激に打ち震えている。
「どれから、この場を借りて我々からひとつ重大な発表をさせてもらおう」
国王の言葉に、何が発表されるのか緊張が高まる。その空気に、国王が大講堂内を見回し、ひとつ咳払いをする。
「隣国モスグリネ王国との間で、留学生制度を正式に始める事となった。来年の後期から行う事になる。今回はその説明のために、このケットシーに来てもらっているのだ。彼は商業を通じてモスグリネ王国に精通しておるからな」
「まっ、そういう事だね。モスグリネに興味があるならできる限りは答えようじゃないか」
国王の紹介に、ケットシーは手をひらひらと振っている。学生の中にはモスグリネへの興味がある者がそれなりに居たようで、ケットシーに視線を注いでいた。
「いかがでしたかな? ペイル殿下」
『うむ、これならば明日のモスグリネの学園の卒業式でも反応は期待できそうだな』
チャットフォン越しに、ペイルも満足そうである。
こうして、盛り上がりの中で卒業式は卒業生たちによる学生最後のダンスで締められる。
この中でロゼリアはケットシーと踊っていたのだが、この猫、意外とダンスがうまくてロゼリアは納得のいかない顔をしていた。
「はっはっはっ、ボクもそれなりに社交界に出ているからね、こういう事は慣れっこなのだよ」
「なんか納得できないわ」
「それを言ったらあっちもじゃないかね?」
ケットシーが指差す先には、アイリスとライの姿があった。ライがうまくアイリスをリードして踊っている。
「いたずら妖精とはいえ、妖精だから当然じゃないの?」
「おいおい、ずいぶんと違う反応だね」
「仕方ないわよ、あなたは猫なんですから」
「うーん、納得いかないね」
口げんかをしながらも、ロゼリアとケットシーはしっかりと踊り切った。
この卒業ダンスでも、シルヴァノとペシエラのペアはひと際注目を集めていた。未来の国王と女王によるダンスである。この和やかな雰囲気に、アイヴォリー王国の確かな未来を見たような気がした。
ケットシーが悪目立ちした以外は、概ね平穏に終わった卒業式だった。
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