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最終章 乙女ゲーム後
第347話 白の結婚式
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バルコニーの上に、クリアテス国王とブランシェード女王の二人が姿を現す。ブラウニルに紹介されなかったシルヴァノの姿はそこに無かった。これには会場がざわつき始める。知らされていないロゼリアもその一人だ。
だが、意外にも早くロゼリアは冷静になった。よく思えばペシエラが最初から居ない事もおかしいのだ。何か企んでいると察する事ができたので、ロゼリアは落ち着く事ができたのだ。
会場が騒めく中、国王と女王の二人が階段を降り、一段高い場所までやって来た。
「皆の者、静まれいっ!」
国王の声が響き渡る。この一声で、会場のざわつきが一瞬で静かになった。さすがは国王陛下である。
「本当に皆の者。この寒い中よくぞ集まってくれた。皆の忠義に本当に感謝するぞ」
女王陛下からもお言葉を頂く。会場に居る全員が一斉に敬礼の姿勢をとる。
「せっかくの皆が集まってくれたのだ。今年は我々からも褒美を送ろうと思うてな、ちょっとした演出を用意したのだ」
国王が宰相に合図を送ると、宰相はすくりと直立する。
「シルヴァノ殿下、ペシエラ・コーラル伯爵令嬢の入場でございます」
宰相が大声で読み上げると、会場の面々が一斉にバルコニーを見上げる。そこには、純白の衣装に身を包んだシルヴァノとペシエラが現れた。国王と王妃と同じように左右から分かれて現れ、ゆっくりと中央へ歩み寄っていく。
中央で二人が隣り合った時、その衣装が結婚衣装である事がはっきり見て取れたのである。この姿に、会場からは驚きと感動の声が上がった。
「ああ、それでチェリシアの動きが不自然だったのね」
「えっ?!」
ロゼリアが呟いた言葉に、チェリシアの身が一瞬震えた。どうやらバレバレだったようである。
「ペシエラも言ってましたものね、チェリシアはバレバレだって」
アイリスはその横で呆れながら笑っていた。本当にそれくらい、チェリシアの行動や表情は分かりやすいのである。ヒロインなら結構やりかねない失態である。明朗快活、隠し事のできないタイプである。
「ぐぬぬぬ……」
チェリシアは正直悔しかったようである。だが、これから行われる事になるペシエラの結婚式に水を差したくないので、チェリシアは気持ちを切り替えた。
次の瞬間、アイリスのチャットフォンが濃いピンク色に光る。そして、一瞬で光が消えた。どうやら何かの合図のようである。
「召喚、レイニ」
小声でぼそぼそっと召喚を行うアイリス。
実は光と水の精霊であるレイニを演出で呼ぶように、事前の打ち合わせがされていたのである。結婚衣装を身にまとったシルヴァノとペシエラが階段を降り終えたところで、アイリスの召喚に応えたレイニが現れた。
レイニも事前に相談をされていたのだが、多くの人の前に姿を現す事にちょっと躊躇していたようである。それでも、恩人たるペシエラの晴れ舞台だからと了承してくれたのだ。
さて、そのレイニが姿を現すと、その姿に多くの人が声を上げた。精霊の祝福を授かった聖なる結婚式だとか、何やら大げさな事を言っているのが聞こえてくる。精霊どころか幻獣や神獣まで居るのだから、ロゼリアたちには本当に大げさでしかなかった。
「しばらく見てない間に、すっかり美人になったねえ、ペシエラ」
「お久しぶりですわね、レイニ。ただ、今は結婚式ですわよ。そういう言い回しはご遠慮頂きたいですわね」
ご挨拶なレイニを、しっかり軽くあしらうペシエラ。
「まじめだなあ、相変わらず。みんなに頼まれたから、しっかり役目は果たさせてもらうから安心してよ」
レイニが見守る中、見届け人である神官がやって来る。
「これより、シルヴァノ・アイヴォリー王太子殿下、ペシエラ・コーラル伯爵令嬢の結婚の儀式を執り行う」
神官の宣言によって、会場内が一気に色めき立った。だが、これは王族の結婚式である。騒がしくなったのも一瞬で、すぐにすっと静まり返った。
厳かな空気の中、レイニの放つ光の魔法でとても幻想的な結婚式が行われる。その神秘的な空気が包み込むその様子を、見る者たちすべてが息を飲んで見守っている。
最後はシルヴァノとペシエラがお互いの唇を重ね、会場が一斉に沸き立つ。そして、その感動が冷めやらぬうちに、会場にどでかいケーキが運び込まれてきた。そう、先日チェリシアが作っていたケーキである。
白いケーキをお祝いの席で切るのは、白を基調とするアイヴォリーにとっては不吉なものなのだが、アイヴォリーの祝福をおすそ分けするという意味で押し通せばいいやと言って作っていたケーキなのである。実際、このケーキの材料はアイヴォリー王国内の材料だけで作られている。うん、何も間違ってはいない。
驚くのはこれだけではない。それを切り分けているのがシルヴァノとペシエラの新郎新婦である。これはずいぶんな重労働だ。と思ったら、二人揃って風魔法できれいに切っていく。なんという夫婦初めての共同作業なのだろうか……。
全員にケーキが行き渡ったところで、シルヴァノが音頭をとって乾杯が行われ、この年の年末パーティーが始まったのである。
この場を盛り上げてくれたレイニにも、ちゃんとケーキは振舞われたのでご安心を。結論から言えばサプライズは大成功ではないのだろうか。年末パーティー初日は、実に和やかな空気の中で過ぎていったのだった。
だが、意外にも早くロゼリアは冷静になった。よく思えばペシエラが最初から居ない事もおかしいのだ。何か企んでいると察する事ができたので、ロゼリアは落ち着く事ができたのだ。
会場が騒めく中、国王と女王の二人が階段を降り、一段高い場所までやって来た。
「皆の者、静まれいっ!」
国王の声が響き渡る。この一声で、会場のざわつきが一瞬で静かになった。さすがは国王陛下である。
「本当に皆の者。この寒い中よくぞ集まってくれた。皆の忠義に本当に感謝するぞ」
女王陛下からもお言葉を頂く。会場に居る全員が一斉に敬礼の姿勢をとる。
「せっかくの皆が集まってくれたのだ。今年は我々からも褒美を送ろうと思うてな、ちょっとした演出を用意したのだ」
国王が宰相に合図を送ると、宰相はすくりと直立する。
「シルヴァノ殿下、ペシエラ・コーラル伯爵令嬢の入場でございます」
宰相が大声で読み上げると、会場の面々が一斉にバルコニーを見上げる。そこには、純白の衣装に身を包んだシルヴァノとペシエラが現れた。国王と王妃と同じように左右から分かれて現れ、ゆっくりと中央へ歩み寄っていく。
中央で二人が隣り合った時、その衣装が結婚衣装である事がはっきり見て取れたのである。この姿に、会場からは驚きと感動の声が上がった。
「ああ、それでチェリシアの動きが不自然だったのね」
「えっ?!」
ロゼリアが呟いた言葉に、チェリシアの身が一瞬震えた。どうやらバレバレだったようである。
「ペシエラも言ってましたものね、チェリシアはバレバレだって」
アイリスはその横で呆れながら笑っていた。本当にそれくらい、チェリシアの行動や表情は分かりやすいのである。ヒロインなら結構やりかねない失態である。明朗快活、隠し事のできないタイプである。
「ぐぬぬぬ……」
チェリシアは正直悔しかったようである。だが、これから行われる事になるペシエラの結婚式に水を差したくないので、チェリシアは気持ちを切り替えた。
次の瞬間、アイリスのチャットフォンが濃いピンク色に光る。そして、一瞬で光が消えた。どうやら何かの合図のようである。
「召喚、レイニ」
小声でぼそぼそっと召喚を行うアイリス。
実は光と水の精霊であるレイニを演出で呼ぶように、事前の打ち合わせがされていたのである。結婚衣装を身にまとったシルヴァノとペシエラが階段を降り終えたところで、アイリスの召喚に応えたレイニが現れた。
レイニも事前に相談をされていたのだが、多くの人の前に姿を現す事にちょっと躊躇していたようである。それでも、恩人たるペシエラの晴れ舞台だからと了承してくれたのだ。
さて、そのレイニが姿を現すと、その姿に多くの人が声を上げた。精霊の祝福を授かった聖なる結婚式だとか、何やら大げさな事を言っているのが聞こえてくる。精霊どころか幻獣や神獣まで居るのだから、ロゼリアたちには本当に大げさでしかなかった。
「しばらく見てない間に、すっかり美人になったねえ、ペシエラ」
「お久しぶりですわね、レイニ。ただ、今は結婚式ですわよ。そういう言い回しはご遠慮頂きたいですわね」
ご挨拶なレイニを、しっかり軽くあしらうペシエラ。
「まじめだなあ、相変わらず。みんなに頼まれたから、しっかり役目は果たさせてもらうから安心してよ」
レイニが見守る中、見届け人である神官がやって来る。
「これより、シルヴァノ・アイヴォリー王太子殿下、ペシエラ・コーラル伯爵令嬢の結婚の儀式を執り行う」
神官の宣言によって、会場内が一気に色めき立った。だが、これは王族の結婚式である。騒がしくなったのも一瞬で、すぐにすっと静まり返った。
厳かな空気の中、レイニの放つ光の魔法でとても幻想的な結婚式が行われる。その神秘的な空気が包み込むその様子を、見る者たちすべてが息を飲んで見守っている。
最後はシルヴァノとペシエラがお互いの唇を重ね、会場が一斉に沸き立つ。そして、その感動が冷めやらぬうちに、会場にどでかいケーキが運び込まれてきた。そう、先日チェリシアが作っていたケーキである。
白いケーキをお祝いの席で切るのは、白を基調とするアイヴォリーにとっては不吉なものなのだが、アイヴォリーの祝福をおすそ分けするという意味で押し通せばいいやと言って作っていたケーキなのである。実際、このケーキの材料はアイヴォリー王国内の材料だけで作られている。うん、何も間違ってはいない。
驚くのはこれだけではない。それを切り分けているのがシルヴァノとペシエラの新郎新婦である。これはずいぶんな重労働だ。と思ったら、二人揃って風魔法できれいに切っていく。なんという夫婦初めての共同作業なのだろうか……。
全員にケーキが行き渡ったところで、シルヴァノが音頭をとって乾杯が行われ、この年の年末パーティーが始まったのである。
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