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最終章 乙女ゲーム後
第349話 あまりにも幸せ
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年が明けてからしばらくすると、マゼンダ侯爵家に衝撃が走る。モスグリネ王家から先触れがやって来たのである。
ペイルもロゼリアも学園を卒業したので、正式に婚約を行い、翌年に結婚式を挙げるという流れが伝えられたのである。覚悟はしていたが、ヴァミリオは衝撃の強さにめまいを起こしたほどだった。いよいよこの時が来てしまったのか……と。
当のロゼリアはまったく動じていなかった。というのもチャットフォンでペイルから話を聞いていたからである。チャットフォン、びっくりネタを消してしまう悲劇を生み出していた。
「お父様、お母様、お兄様。落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられるか! モスグリネ王国の使者が来るのだぞ。それ相応の対応をせねばなるまい」
「そうよ、ロゼリア。落ち着いているあなたが変なのよ」
「まったく、お前もいろいろとんでもない事を引き起こしてくれるな。少しは私たちの事も考えろ」
ロゼリアが必死に落ち着かせようとしても、梨の礫である。まったくもって取り乱した家族を抑える事はなできなかった。仕方ないので、ロゼリアはそのまま放置する事にした。馬車で来るなら十日は掛かるので、先触れが半分程度で来たのなら、まだ五日は猶予があるはず。ロゼリアだけは落ち着いて、モスグリネ王国の使者たちを迎える準備をするのだった。
この間、ロゼリアがチェリシアたちと絡む事はなかった。
それというのも、コーラル伯爵家もペシエラを王家に送り出す事になっててんやわんやになっていたからだ。サプライズだったので、結婚式以前に荷物を出すような真似ができなかったので、年が明けてから大慌てなのである。チェリシアの収納魔法のおかげで馬車の数が節約できるのは嬉しいのだが、それでも送り込む人員とかいろいろ面倒な調整がある。とても落ち着いて話ができる状況ではなかった。ついでに言えばカーマイルとチェリシアの結婚も、その一連の事が落ち着くまで行えそうになかったのである。
「……というわけなんですけれど、ペイル殿下」
『そうか、それは大変だな』
落ち着いてやる事を終えたロゼリアは、チャットフォンを使ってペイルと通話をしている。チェリシアのとんでも発明の一つだが、こればかりは実に役に立っている。制限はあるものの、遠く離れた人物と瞬時に話ができるというのは本当に便利だ。
「ペイル殿下は今どちらにいらっしゃいますのかしら?」
『国境は越えたところで、アイヴォリー王国内の宿場町だ。予定通りなら三日後にはハウライトに到着できるはずだと思う』
「そうですか」
揚々としたペイルの声に、心配して無駄だったかと呆れ混じりにロゼリアは反応している。
『それはそうと、そっちは今どんな感じだ』
ペイルもどうやらロゼリアの事が気になっているようだ。
「どうもこうも、本日先触れが到着しました。家族みんなで大慌てですよ。私は殿下から事前に知らされてましたので落ち着いていられましたけど」
ロゼリアは呆れ顔のままである。
『まあすまなかったな。年明け早々にシルヴァノから結婚式を挙げたとかいう報告が来てな、俺も急いだ方がいいと思ったからだ。その方がこっちの国内事情も安定するだろうからな』
ペイルは言い訳を並べている。シルヴァノに触発されたのも分かる。婚約者を巡って国内貴族が思惑を巡らせて荒れる可能性が出てくるのも分かる。分かるだけにロゼリアはここでもため息を吐いた。
「確かに、それは早い方がいいですね。お父様たちが大慌てで対処に掛かってますので、当日お見苦しいところが内容にはフォロー致します。ペイル殿下がご無事に到着される事をお待ちしています」
『うむ、アイヴォリーの治安はいいだろうからな。念のため、魔物とかには警戒している』
「警戒しているとは言われましても、トルフが居るから安心でしょうね」
『まあそうだな』
ロゼリアとペイルはしばらく会話を楽しんでいたが、
『むっ、すまない。そろそろ寝てくれと言われたのでこれで失礼する。直に会える時を楽しみにしているぞ』
と従者から注意されて通話を終了する事になった。
「そうですね。それではお休みなさいませ」
『ああ、おやすみ』
通話を終了すると、ロゼリアは枕を抱えてベッドにそのまま倒れ込んだ。よく見ると顔が少し赤くなっているように思える。
(今回はあまり意識はしてなかったけれど、いざ婚約者となると不思議と意識してしまうものね。……はぁ、彼に会えるのが待ち遠しいわ)
枕を抱えたまま天蓋を見上げるロゼリア。そして、枕を顔にかぶせて悶えている。強気に振舞う彼女もずいぶんと乙女なのである。
何にしてももう数日もすればペイルに会えるのである。
逆行前の時間軸では婚約者も居ないまま、身に覚えのない罪で断罪処刑されてしまった事を思えば、ずいぶんと幸せな十九歳を迎えた気がする。とはいえ、成り代わった転生者であるチェリシアにだいぶ振り回されはしたのだが。
部屋の外では、一人佇むシアンの姿があった。
(本当によかったでありますよ、ロゼリア様。……これで私に思い残す事はございません)
すっと目を閉じて俯くシアン。そして、休息をとるために自室へと静かに戻っていったのだった。
◇
この更新から、現在公開中の部分が終わるまで日付変わった0時に1話分のみの更新とさせて頂きます。
続編の構想を練り練りしておりますので、そちらの公開が決まったら近況ノートにて報告させて頂きます。
ペイルもロゼリアも学園を卒業したので、正式に婚約を行い、翌年に結婚式を挙げるという流れが伝えられたのである。覚悟はしていたが、ヴァミリオは衝撃の強さにめまいを起こしたほどだった。いよいよこの時が来てしまったのか……と。
当のロゼリアはまったく動じていなかった。というのもチャットフォンでペイルから話を聞いていたからである。チャットフォン、びっくりネタを消してしまう悲劇を生み出していた。
「お父様、お母様、お兄様。落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられるか! モスグリネ王国の使者が来るのだぞ。それ相応の対応をせねばなるまい」
「そうよ、ロゼリア。落ち着いているあなたが変なのよ」
「まったく、お前もいろいろとんでもない事を引き起こしてくれるな。少しは私たちの事も考えろ」
ロゼリアが必死に落ち着かせようとしても、梨の礫である。まったくもって取り乱した家族を抑える事はなできなかった。仕方ないので、ロゼリアはそのまま放置する事にした。馬車で来るなら十日は掛かるので、先触れが半分程度で来たのなら、まだ五日は猶予があるはず。ロゼリアだけは落ち着いて、モスグリネ王国の使者たちを迎える準備をするのだった。
この間、ロゼリアがチェリシアたちと絡む事はなかった。
それというのも、コーラル伯爵家もペシエラを王家に送り出す事になっててんやわんやになっていたからだ。サプライズだったので、結婚式以前に荷物を出すような真似ができなかったので、年が明けてから大慌てなのである。チェリシアの収納魔法のおかげで馬車の数が節約できるのは嬉しいのだが、それでも送り込む人員とかいろいろ面倒な調整がある。とても落ち着いて話ができる状況ではなかった。ついでに言えばカーマイルとチェリシアの結婚も、その一連の事が落ち着くまで行えそうになかったのである。
「……というわけなんですけれど、ペイル殿下」
『そうか、それは大変だな』
落ち着いてやる事を終えたロゼリアは、チャットフォンを使ってペイルと通話をしている。チェリシアのとんでも発明の一つだが、こればかりは実に役に立っている。制限はあるものの、遠く離れた人物と瞬時に話ができるというのは本当に便利だ。
「ペイル殿下は今どちらにいらっしゃいますのかしら?」
『国境は越えたところで、アイヴォリー王国内の宿場町だ。予定通りなら三日後にはハウライトに到着できるはずだと思う』
「そうですか」
揚々としたペイルの声に、心配して無駄だったかと呆れ混じりにロゼリアは反応している。
『それはそうと、そっちは今どんな感じだ』
ペイルもどうやらロゼリアの事が気になっているようだ。
「どうもこうも、本日先触れが到着しました。家族みんなで大慌てですよ。私は殿下から事前に知らされてましたので落ち着いていられましたけど」
ロゼリアは呆れ顔のままである。
『まあすまなかったな。年明け早々にシルヴァノから結婚式を挙げたとかいう報告が来てな、俺も急いだ方がいいと思ったからだ。その方がこっちの国内事情も安定するだろうからな』
ペイルは言い訳を並べている。シルヴァノに触発されたのも分かる。婚約者を巡って国内貴族が思惑を巡らせて荒れる可能性が出てくるのも分かる。分かるだけにロゼリアはここでもため息を吐いた。
「確かに、それは早い方がいいですね。お父様たちが大慌てで対処に掛かってますので、当日お見苦しいところが内容にはフォロー致します。ペイル殿下がご無事に到着される事をお待ちしています」
『うむ、アイヴォリーの治安はいいだろうからな。念のため、魔物とかには警戒している』
「警戒しているとは言われましても、トルフが居るから安心でしょうね」
『まあそうだな』
ロゼリアとペイルはしばらく会話を楽しんでいたが、
『むっ、すまない。そろそろ寝てくれと言われたのでこれで失礼する。直に会える時を楽しみにしているぞ』
と従者から注意されて通話を終了する事になった。
「そうですね。それではお休みなさいませ」
『ああ、おやすみ』
通話を終了すると、ロゼリアは枕を抱えてベッドにそのまま倒れ込んだ。よく見ると顔が少し赤くなっているように思える。
(今回はあまり意識はしてなかったけれど、いざ婚約者となると不思議と意識してしまうものね。……はぁ、彼に会えるのが待ち遠しいわ)
枕を抱えたまま天蓋を見上げるロゼリア。そして、枕を顔にかぶせて悶えている。強気に振舞う彼女もずいぶんと乙女なのである。
何にしてももう数日もすればペイルに会えるのである。
逆行前の時間軸では婚約者も居ないまま、身に覚えのない罪で断罪処刑されてしまった事を思えば、ずいぶんと幸せな十九歳を迎えた気がする。とはいえ、成り代わった転生者であるチェリシアにだいぶ振り回されはしたのだが。
部屋の外では、一人佇むシアンの姿があった。
(本当によかったでありますよ、ロゼリア様。……これで私に思い残す事はございません)
すっと目を閉じて俯くシアン。そして、休息をとるために自室へと静かに戻っていったのだった。
◇
この更新から、現在公開中の部分が終わるまで日付変わった0時に1話分のみの更新とさせて頂きます。
続編の構想を練り練りしておりますので、そちらの公開が決まったら近況ノートにて報告させて頂きます。
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