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新章 青色の智姫
第14話 五歳児らしくない
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あれからというもの、シアンはケットシーの誘いに乗ることもなく城の中で過ごし続けた。
あの時は今はどうなっているのか知りたいという誘惑にも駆られたためにケットシーの誘いに乗ってしまったが、今ではすっかり後悔していた。聞くだけなら城の中でケットシーから聞けばよかったのだ。
ハイスプライトであるライよりもいたずら好きな猫の幻獣であるケットシー。本当に食えない存在なのである。
「シアン様、考え事をされていては困りますぞ」
「はっ!」
シアンは少しぼーっとしていたようだ。
目の前には自分の得意属性である水の球が浮かんでいる。
(いけない。今は魔法の訓練中でした)
ぐっと力を込めて魔法を制御するシアン。
どうにか水球が肥大する事を止められたようである。
「そうそう、その調子ですぞ。ご両親譲りで魔力が膨大ですからな、ちょっとした油断が魔法の暴走を招きます。しっかりと意識して下さいませ」
「はい、先生!」
シアンはすっかり失ってしまっている魔法を扱う感覚を取り戻すのに四苦八苦である。
十数年使っていなかっただけで、ここまで制御を失うものなのか。魔法が得意なアクアマリン子爵家の者として、そのショックはなんとも計り知れないものだった。
この日のシアンは、どうにか自分の頭くらいの水球を作り出して十分ほど維持することに成功したのだった。
「はあはあ……」
しかし、さすがにまだ五歳の少女には厳しいものである。
維持に成功したのはいいものの、シアンの息は完全に上がっていた。
「本来は十歳までは魔法は使ってはならないというのがありますがね」
ショロクはそう言いながらシアンに近付いてくる。
「不思議でございますね。初めてシアン様が魔法を使われたと聞いてから、なぜか大丈夫な気がしておりました」
ショロクにこう言われて、シアンははっとした。
(そうでした。ペシエラ様という例外がございましたが、十歳まで魔法を使うことは禁忌とされておりました……)
うっかり作者も忘れていた設定である。
シアンがじっとショロクを見ると、顎髭を触りながらものすごくよい笑顔をしている。
「ほっほっほっ。シアン様の魔力は強大ですからな。早めに使えておいた方がいいのです。ただ、城以外で使うことは絶対おやめ下さい。真似されては困りますからな」
「は、はい。分かりました」
ショロクに言われて、ショックを受けたまま素直に頷くシアンだった。
今日の特訓を終えて、シアンは部屋でくつろぐ。
部屋にやってきたスミレは、お菓子と一緒に甘めの紅茶を用意いた。
「はあ、どうして忘れていたのかしら」
シアンがぼそっと呟く。
「なにを、でございますでしょうか」
首を傾げるようにしてスミレがシアンに問い掛けている。
「魔法の使用年齢の事ですよ。お父様たちも失念していたみたいですけれど」
「ああ、そういえばそうでございましたね」
シアンが答えると、スミレは淡々と反応していた。
「この世界では十歳までは魔法を使ってはならないでしたっけか」
「ええ。体への影響を考えての話ですけれどね」
ごくりと紅茶を飲むシアンである。
砂糖が多めに入れてあるとはいえ、紅茶を飲む五歳児である。
「シアン様」
「何かしら、スミレ」
「紅茶をたしなまれる五歳児もそういらっしゃらないかと」
スミレに言われて手が止まるシアンである。地味に痛いところを突かれた感じである。
カップをテーブルに置くと、両肘をついてため息をつく。
「はあ、記憶を取り戻してから、子どもっぽさとは無縁なのですね……」
唇を突き出しながら、足を前後にぶらぶらとさせるシアンである。何気なく出る仕草は実に子どもっぽい。
「まあ、ペシエラ様は八歳でめちゃくちゃ魔法を使われても、何の問題なくいらっしゃいますからね。厄災の暗龍相手に全力の魔法を使われてましたからね」
「比較対象としてはぶっ飛んでいますけれど、私も似たようなものですものですね……」
引き合いに出されるペシエラ・コーラル・アイヴォリーである。
ただ、彼女の場合は一時的にその存在が消えかかった事がある。ただそれは、八歳にして魔法を使った代償というより、戻るべきチェリシアの体を奪われてつじつま合わせで存在することになったがゆえの不安定さからくるものだった。
それがゆえに、ペイルとロゼリアの娘として生まれたシアンに、ペシエラと同じ事が起きるかと言われたら、それはまったく分からない事なのである。
「早く魔力を安定化させて、魔法をしばらく封印しないといけませんね」
「そうでございますね。あっ、紅茶のおかわりはご入用ですか?」
「あなたねぇ……」
子どもは紅茶をたしなまないと言っていたくせに、紅茶を勧めてくるスミレである。まったく、気の知れた間柄とはいえ、シアンは複雑な気持ちになったのだった。
なんにしても、当面の間は魔力の安定化のための魔法の特訓が続きそうである。
普通の子どもではないとはいえ、いつまでこの異常な生活が続くのか。シアンはちょっとばかり不安になってしまうのだった。
あの時は今はどうなっているのか知りたいという誘惑にも駆られたためにケットシーの誘いに乗ってしまったが、今ではすっかり後悔していた。聞くだけなら城の中でケットシーから聞けばよかったのだ。
ハイスプライトであるライよりもいたずら好きな猫の幻獣であるケットシー。本当に食えない存在なのである。
「シアン様、考え事をされていては困りますぞ」
「はっ!」
シアンは少しぼーっとしていたようだ。
目の前には自分の得意属性である水の球が浮かんでいる。
(いけない。今は魔法の訓練中でした)
ぐっと力を込めて魔法を制御するシアン。
どうにか水球が肥大する事を止められたようである。
「そうそう、その調子ですぞ。ご両親譲りで魔力が膨大ですからな、ちょっとした油断が魔法の暴走を招きます。しっかりと意識して下さいませ」
「はい、先生!」
シアンはすっかり失ってしまっている魔法を扱う感覚を取り戻すのに四苦八苦である。
十数年使っていなかっただけで、ここまで制御を失うものなのか。魔法が得意なアクアマリン子爵家の者として、そのショックはなんとも計り知れないものだった。
この日のシアンは、どうにか自分の頭くらいの水球を作り出して十分ほど維持することに成功したのだった。
「はあはあ……」
しかし、さすがにまだ五歳の少女には厳しいものである。
維持に成功したのはいいものの、シアンの息は完全に上がっていた。
「本来は十歳までは魔法は使ってはならないというのがありますがね」
ショロクはそう言いながらシアンに近付いてくる。
「不思議でございますね。初めてシアン様が魔法を使われたと聞いてから、なぜか大丈夫な気がしておりました」
ショロクにこう言われて、シアンははっとした。
(そうでした。ペシエラ様という例外がございましたが、十歳まで魔法を使うことは禁忌とされておりました……)
うっかり作者も忘れていた設定である。
シアンがじっとショロクを見ると、顎髭を触りながらものすごくよい笑顔をしている。
「ほっほっほっ。シアン様の魔力は強大ですからな。早めに使えておいた方がいいのです。ただ、城以外で使うことは絶対おやめ下さい。真似されては困りますからな」
「は、はい。分かりました」
ショロクに言われて、ショックを受けたまま素直に頷くシアンだった。
今日の特訓を終えて、シアンは部屋でくつろぐ。
部屋にやってきたスミレは、お菓子と一緒に甘めの紅茶を用意いた。
「はあ、どうして忘れていたのかしら」
シアンがぼそっと呟く。
「なにを、でございますでしょうか」
首を傾げるようにしてスミレがシアンに問い掛けている。
「魔法の使用年齢の事ですよ。お父様たちも失念していたみたいですけれど」
「ああ、そういえばそうでございましたね」
シアンが答えると、スミレは淡々と反応していた。
「この世界では十歳までは魔法を使ってはならないでしたっけか」
「ええ。体への影響を考えての話ですけれどね」
ごくりと紅茶を飲むシアンである。
砂糖が多めに入れてあるとはいえ、紅茶を飲む五歳児である。
「シアン様」
「何かしら、スミレ」
「紅茶をたしなまれる五歳児もそういらっしゃらないかと」
スミレに言われて手が止まるシアンである。地味に痛いところを突かれた感じである。
カップをテーブルに置くと、両肘をついてため息をつく。
「はあ、記憶を取り戻してから、子どもっぽさとは無縁なのですね……」
唇を突き出しながら、足を前後にぶらぶらとさせるシアンである。何気なく出る仕草は実に子どもっぽい。
「まあ、ペシエラ様は八歳でめちゃくちゃ魔法を使われても、何の問題なくいらっしゃいますからね。厄災の暗龍相手に全力の魔法を使われてましたからね」
「比較対象としてはぶっ飛んでいますけれど、私も似たようなものですものですね……」
引き合いに出されるペシエラ・コーラル・アイヴォリーである。
ただ、彼女の場合は一時的にその存在が消えかかった事がある。ただそれは、八歳にして魔法を使った代償というより、戻るべきチェリシアの体を奪われてつじつま合わせで存在することになったがゆえの不安定さからくるものだった。
それがゆえに、ペイルとロゼリアの娘として生まれたシアンに、ペシエラと同じ事が起きるかと言われたら、それはまったく分からない事なのである。
「早く魔力を安定化させて、魔法をしばらく封印しないといけませんね」
「そうでございますね。あっ、紅茶のおかわりはご入用ですか?」
「あなたねぇ……」
子どもは紅茶をたしなまないと言っていたくせに、紅茶を勧めてくるスミレである。まったく、気の知れた間柄とはいえ、シアンは複雑な気持ちになったのだった。
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