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新章 青色の智姫
第15話 親として悩ましい
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モスグリネ王城内のペイルの私室。そこにロゼリアも呼び出されて、ショロクからのシアンについての報告が行われる。
「それでどうなのだ。シアンの魔力というものは」
ペイルが問い掛ける。ショロクはあご髭を触って少し考え込んでいる。
「あれはかなり強力な魔力ですね。十歳という年齢まで待っていては、下手をすると体が耐えきれません」
ショロクは意外と淡々とした様子でペイルに報告している。
「そうだな。魔法は十歳からという暗黙の了解はあるが、先日のやらかし以降、娘の魔力がかなり強いことが分かったからな」
「私たちの魔力を受け継いでいるだけでは、説明がつかない魔力の強さですけれどね」
ペイルの呟きにロゼリアが付け加える。
先日のやらかしというのは、でっかい水球を作って大雨を降らせた一件の事である。あの一件で、シアンには強い魔力があるものの、コントロールがうまくいってないことが分かったのだ。
正直言えば、五歳であの規模の魔法を使ったことは驚きである。それと同時に、その魔力の強さがための懸念も生まれた。
その結果が、ショロクによる魔法の特訓である。
実はシアンみたいなタイプがいなかったわけではない。
魔法を使うには体がしっかりしてくる頃が望ましいのだが、強すぎる魔力は未熟な体を傷付けてしまう。最悪の場合は、魔力をコントロールしきれずに暴走して死に至る可能性すらある。
文献を漁れば実際にそんな記述が出てくるので、ペイルたちは万が一を恐れたのである。
「というわけだ、ショロク。シアンの魔力が安定するまで、しっかりと面倒を見てくれよ」
「はい、もちろんでございますとも」
ショロクはしっかりと了承して部屋を出ていった。
ロゼリアと二人になったペイルは、大きくため息をついている。
「まさか、俺の娘がそんな事になっているとはな……」
頭を抱えるペイルである。ロゼリアはその様子を見て気遣って寄り添う。
「しかし、本当に君の侍女として存在した人物なのか?」
「ええ、ひと目見てすぐ分かりました。ただ、あの人を覚えているのはあまりいませんからね。殿下が忘れてしまっているのも無理はございません。なにせ、そういう魔法でしたから」
くるりとロゼリアを見るペイル。
ペイルの問い掛けに対して、ロゼリアは気持ちをぐっと抑えながら、平静を装って答えている。
「彼女は魔法が得意で魔力量の多いアクアマリン子爵の四女でした。今では存在が消えてしまっていますけれど、ご兄弟の中では最も魔力量が多かったそうですよ」
ロゼリアから聞かされた話に、ペイルはどちらかというと青ざめた。
「……なるほど、そのシアンという人物の要素を引き継いでいるから、娘の魔力量がとんでもないことになっているのか」
「左様でございますね」
顔を手で押さえて落ち込むペイルに、ロゼリアは淡々と答えていた。
「ですが、今は私たちの娘ですよ、ペイル様」
ロゼリアから言われて、ゆっくりと顔を上げるペイル。
「ああ、そうだな」
そして、小さくこくりと頷く。
「でも、そうなりますと、やっぱり魔力を制御できるものが欲しいですね。いくら前世知識があっても、体が違うとそううまくはいかない事があります。私も時戻りの影響で戻った頃は苦戦しましたのでね」
「……何か、方法はあるとでも?」
「ええ、心当たりはあります」
ペイルの疑心暗鬼でいると、ロゼリアは自信たっぷりに笑ってみせた。
「瞬間移動魔法は私も使えますので、ちょっとアイヴォリーに行ってまいります。周りには適当にごまかしておいて下さい」
「分かった、君に任せるよ」
話がまとまったことで、ロゼリアは瞬間移動魔法で城から姿を消した。一体どこに向かったのだろうか。
妻が出かけて一人となったペイル。椅子に深くもたれ掛かって天井を見上げている。
「はあ、こういう時に妻に頼りきりになってしまうとはな……」
大きくため息をつくペイル。
「こういう時、父親として何をしてやるべきなのだろうかな。まったく、どう接してやればいいのか分からぬな」
ペイルは悩みについ気分が沈みこんでしまう。
その時、部屋の扉が叩かれる。
「殿下、本日の書類をお持ち致しました」
「……大臣か。ああ、入っていいぞ」
「はっ、失礼致します」
扉が開くと、視界を遮るくらいの量の書類を持った大臣が姿を見せる。相変わらずとんでもない量の書類だ。
「よくもまぁ、毎日これほどまでの書類が届くものだな」
「まったくわしもそう思いますぞ。領主たちもそれなりに権限を与えられておるのですから、自由裁量でやって頂けると助かるのですがな」
大臣は怒ったように文句を言っている。その姿に、つい笑ってしまうペイルだった。
「とりあえず、この辺りに置いておいてくれ。できる限り処理して送り返そう」
「頼みますぞ、殿下」
大臣は書類を机の上にどさっと音を立てて置くと、やっと軽くなったと言わんばかりにどたばたと足音を立てながらペイルの部屋から出ていった。
「いつもは億劫な仕事だが、今ばかりはいい気分転換になる。……さて、とっととやってしまおうか」
苦笑いを浮かべて、ペイルは吹っ切らんばかりに仕事に取り掛かったのだった。
「それでどうなのだ。シアンの魔力というものは」
ペイルが問い掛ける。ショロクはあご髭を触って少し考え込んでいる。
「あれはかなり強力な魔力ですね。十歳という年齢まで待っていては、下手をすると体が耐えきれません」
ショロクは意外と淡々とした様子でペイルに報告している。
「そうだな。魔法は十歳からという暗黙の了解はあるが、先日のやらかし以降、娘の魔力がかなり強いことが分かったからな」
「私たちの魔力を受け継いでいるだけでは、説明がつかない魔力の強さですけれどね」
ペイルの呟きにロゼリアが付け加える。
先日のやらかしというのは、でっかい水球を作って大雨を降らせた一件の事である。あの一件で、シアンには強い魔力があるものの、コントロールがうまくいってないことが分かったのだ。
正直言えば、五歳であの規模の魔法を使ったことは驚きである。それと同時に、その魔力の強さがための懸念も生まれた。
その結果が、ショロクによる魔法の特訓である。
実はシアンみたいなタイプがいなかったわけではない。
魔法を使うには体がしっかりしてくる頃が望ましいのだが、強すぎる魔力は未熟な体を傷付けてしまう。最悪の場合は、魔力をコントロールしきれずに暴走して死に至る可能性すらある。
文献を漁れば実際にそんな記述が出てくるので、ペイルたちは万が一を恐れたのである。
「というわけだ、ショロク。シアンの魔力が安定するまで、しっかりと面倒を見てくれよ」
「はい、もちろんでございますとも」
ショロクはしっかりと了承して部屋を出ていった。
ロゼリアと二人になったペイルは、大きくため息をついている。
「まさか、俺の娘がそんな事になっているとはな……」
頭を抱えるペイルである。ロゼリアはその様子を見て気遣って寄り添う。
「しかし、本当に君の侍女として存在した人物なのか?」
「ええ、ひと目見てすぐ分かりました。ただ、あの人を覚えているのはあまりいませんからね。殿下が忘れてしまっているのも無理はございません。なにせ、そういう魔法でしたから」
くるりとロゼリアを見るペイル。
ペイルの問い掛けに対して、ロゼリアは気持ちをぐっと抑えながら、平静を装って答えている。
「彼女は魔法が得意で魔力量の多いアクアマリン子爵の四女でした。今では存在が消えてしまっていますけれど、ご兄弟の中では最も魔力量が多かったそうですよ」
ロゼリアから聞かされた話に、ペイルはどちらかというと青ざめた。
「……なるほど、そのシアンという人物の要素を引き継いでいるから、娘の魔力量がとんでもないことになっているのか」
「左様でございますね」
顔を手で押さえて落ち込むペイルに、ロゼリアは淡々と答えていた。
「ですが、今は私たちの娘ですよ、ペイル様」
ロゼリアから言われて、ゆっくりと顔を上げるペイル。
「ああ、そうだな」
そして、小さくこくりと頷く。
「でも、そうなりますと、やっぱり魔力を制御できるものが欲しいですね。いくら前世知識があっても、体が違うとそううまくはいかない事があります。私も時戻りの影響で戻った頃は苦戦しましたのでね」
「……何か、方法はあるとでも?」
「ええ、心当たりはあります」
ペイルの疑心暗鬼でいると、ロゼリアは自信たっぷりに笑ってみせた。
「瞬間移動魔法は私も使えますので、ちょっとアイヴォリーに行ってまいります。周りには適当にごまかしておいて下さい」
「分かった、君に任せるよ」
話がまとまったことで、ロゼリアは瞬間移動魔法で城から姿を消した。一体どこに向かったのだろうか。
妻が出かけて一人となったペイル。椅子に深くもたれ掛かって天井を見上げている。
「はあ、こういう時に妻に頼りきりになってしまうとはな……」
大きくため息をつくペイル。
「こういう時、父親として何をしてやるべきなのだろうかな。まったく、どう接してやればいいのか分からぬな」
ペイルは悩みについ気分が沈みこんでしまう。
その時、部屋の扉が叩かれる。
「殿下、本日の書類をお持ち致しました」
「……大臣か。ああ、入っていいぞ」
「はっ、失礼致します」
扉が開くと、視界を遮るくらいの量の書類を持った大臣が姿を見せる。相変わらずとんでもない量の書類だ。
「よくもまぁ、毎日これほどまでの書類が届くものだな」
「まったくわしもそう思いますぞ。領主たちもそれなりに権限を与えられておるのですから、自由裁量でやって頂けると助かるのですがな」
大臣は怒ったように文句を言っている。その姿に、つい笑ってしまうペイルだった。
「とりあえず、この辺りに置いておいてくれ。できる限り処理して送り返そう」
「頼みますぞ、殿下」
大臣は書類を机の上にどさっと音を立てて置くと、やっと軽くなったと言わんばかりにどたばたと足音を立てながらペイルの部屋から出ていった。
「いつもは億劫な仕事だが、今ばかりはいい気分転換になる。……さて、とっととやってしまおうか」
苦笑いを浮かべて、ペイルは吹っ切らんばかりに仕事に取り掛かったのだった。
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