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新章 青色の智姫
第33話 ペイルの戴冠式
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緑の木々にあふれる国、モスグリネ。
その王都たるヴィフレアも自然豊かな王都だ。モスグリネ城も当然ながら木々に覆われた緑あふれる城である。
木漏れ日の暖かなその城の中で、ペイルの戴冠式が行われる。
半年前に同じように王位を継承したアイヴォリー王国のシルヴァノとその妻ペシエラも参列しており、会場にはより一層の緊張感が漂っている。
会場に訪れた貴族たちは、かなり緊張している。
それは、王位継承式の厳かさからくるものではない。
王位を継いだ王子たちの妻が原因である。
なにせ、魔物の反乱をことごとく押さえ込んできたという子どもの頃の話が伝わっている。下手な事をすれば潰されてしまうという恐怖感で緊張しているのである。
緊張に包まれる中、モスグリネの国王ダルグと王妃ライムが登場する。
「皆の者、よくぞ本日は集まってくれた」
国王が発言すると、会場は一気にしんと静まり返る。
「王位継承というこの節目を皆の者とともに迎えられたことを、喜ばしく思う」
ここでわずかながらに拍手が起きる。国王が咳払いをすると、拍手はぴたりと止んだ。
「我がモスグリネ王国は精霊に祝福された土地だ。精霊に認められし国王によって、この国はさらに豊かになることだろう」
国王が発言すると、大臣に対して視線を向ける。こくりと頷いた大臣は、背筋とぴしりと伸ばし、腕を後ろで組んで息を大きく吸い込んだ。
「王太子殿下ペイル、並びに王太子妃ロゼリア、ご両名の入場でございます」
大臣が大きな声で発言すると、ラッパの音が響き渡る。
その音が鳴り終わると、ペイルとロゼリアがゆっくりと壇上に姿を現した。それと同時に、二人の子どもであるシアンとモーフも舞台袖に現れる。
両親の晴れ舞台とあって、モーフは緊張した様子で立っている。ところが、シアンの方はさすがに落ち着いてモーフを落ち着かせている。
壇上に上がったペイルとロゼリアは現在の国王と王妃の前で跪いている。
その様子を、シアンたちの反対側からシルヴァノとペシエラ、それとチェリシアがじっと見つめている。中でもチェリシアは既に感動で泣き始めていた。
「王太子ペイルよ」
「はい!」
国王が名前を呼ぶと、ペイルは大きな声で返事をする。元気の良さに思わずにこりと微笑んでしまう国王である。
「精霊の祝福を受けし王子よ、現モスグリネ国王ダルグ・モスグリネの名において、ペイル・モスグリネを新たな国王に任命する」
「はっ、不肖ペイル、先王に恥じぬよう、新たな国王として精進して参ることを誓います」
「うむ」
ペイルの返答を受けると、王冠と王笏、それとマントが運ばれてくる。
国王がマントを羽織らせ、王冠をかぶせ、最後に王笏を渡せば、王位継承は完了となる。
続いて、ロゼリアの方もマント、ティアラ、短い杖を王妃から引き継ぐ。
それが終わると二人揃って立ち上がり、その場に集まった者たちの方を振り向いて一礼をする。
「おお、新国王ペイル様、万歳!」
「新王妃ロゼリア様~」
その場に集まった貴族たちから祝福の声を受けるペイルとロゼリア。
二人はちらりとシルヴァノたちの方を向くと、シルヴァノとペシエラは小さくこくりと頷いていた。
その隣ではチェリシアが大声で泣いていた。鼻水まで流してだらしがない姿なので、ペシエラがハンカチを差し出す。すると、それを奪うように受け取って鼻をかんでいた。
その姿に思わず驚くペシエラたちである。
貴族たちの祝福を受けながら、ペイルとロゼリアは城門の上に移動し、ヴィフレアの住民たちにその姿を見せていた。
集まった民衆からも盛大な祝福を受け、そのお祭り騒ぎは夜まで続いたのだった。
翌日から数日間は、改めて貴族たちからの祝福の挨拶が行われ、継承式から五日後、ようやく旅行に出かけられる状態となった。
「さあ、半年ぶりのアイヴォリー王国ですね」
「ああ、そうだな。行きがけにアクアマリン領に立ち寄れるとはな。確か、学園の夏合宿以来か」
「確かにそうでしたね。あの時はアイリスが事件を起こしてくれましたわね」
「懐かしいな。命を狙われたっていうのに、そんな風に思うのもおかしいかもしれないけれどね」
ついつい昔を思い出して笑い合うペイルたちである。
わくわくとした表情のモーフに対し、シアンの方はなんとも神妙な面持ちになっている。
「シアン、どうしたの? 行きたいって言っていたのにそんな顔をして」
気になったロゼリアが声を掛ける。その声にはっとしたシアンは、慌ててロゼリアの顔を見る。
「何でしょうか、お母様」
にっこりと笑うシアン。
「表情が硬かったからどうしたのかと思ったのだけど、大丈夫?」
「はい、まったく問題ございません。私は元気ですよ。ちょっと楽しみになり過ぎてしまったみたいです」
シアンは笑ってごまかしておく。
「そう。具合が悪くなったらすぐに言ってちょうだいね」
「はい、分かりました」
にこにことしているシアンに、ロゼリアはついつい首を捻っていた。
(ふぅ、危なかったですね。今ならまだお兄様が生きていらっしゃるはずですし、もし会うとなると緊張してしまいますね)
シアンは、前世の家族に会うことに緊張しているようだった。
シアンのちょっとした希望で実現したアイヴォリー王国への旅行。その緊張の旅が、今始まるのだった。
その王都たるヴィフレアも自然豊かな王都だ。モスグリネ城も当然ながら木々に覆われた緑あふれる城である。
木漏れ日の暖かなその城の中で、ペイルの戴冠式が行われる。
半年前に同じように王位を継承したアイヴォリー王国のシルヴァノとその妻ペシエラも参列しており、会場にはより一層の緊張感が漂っている。
会場に訪れた貴族たちは、かなり緊張している。
それは、王位継承式の厳かさからくるものではない。
王位を継いだ王子たちの妻が原因である。
なにせ、魔物の反乱をことごとく押さえ込んできたという子どもの頃の話が伝わっている。下手な事をすれば潰されてしまうという恐怖感で緊張しているのである。
緊張に包まれる中、モスグリネの国王ダルグと王妃ライムが登場する。
「皆の者、よくぞ本日は集まってくれた」
国王が発言すると、会場は一気にしんと静まり返る。
「王位継承というこの節目を皆の者とともに迎えられたことを、喜ばしく思う」
ここでわずかながらに拍手が起きる。国王が咳払いをすると、拍手はぴたりと止んだ。
「我がモスグリネ王国は精霊に祝福された土地だ。精霊に認められし国王によって、この国はさらに豊かになることだろう」
国王が発言すると、大臣に対して視線を向ける。こくりと頷いた大臣は、背筋とぴしりと伸ばし、腕を後ろで組んで息を大きく吸い込んだ。
「王太子殿下ペイル、並びに王太子妃ロゼリア、ご両名の入場でございます」
大臣が大きな声で発言すると、ラッパの音が響き渡る。
その音が鳴り終わると、ペイルとロゼリアがゆっくりと壇上に姿を現した。それと同時に、二人の子どもであるシアンとモーフも舞台袖に現れる。
両親の晴れ舞台とあって、モーフは緊張した様子で立っている。ところが、シアンの方はさすがに落ち着いてモーフを落ち着かせている。
壇上に上がったペイルとロゼリアは現在の国王と王妃の前で跪いている。
その様子を、シアンたちの反対側からシルヴァノとペシエラ、それとチェリシアがじっと見つめている。中でもチェリシアは既に感動で泣き始めていた。
「王太子ペイルよ」
「はい!」
国王が名前を呼ぶと、ペイルは大きな声で返事をする。元気の良さに思わずにこりと微笑んでしまう国王である。
「精霊の祝福を受けし王子よ、現モスグリネ国王ダルグ・モスグリネの名において、ペイル・モスグリネを新たな国王に任命する」
「はっ、不肖ペイル、先王に恥じぬよう、新たな国王として精進して参ることを誓います」
「うむ」
ペイルの返答を受けると、王冠と王笏、それとマントが運ばれてくる。
国王がマントを羽織らせ、王冠をかぶせ、最後に王笏を渡せば、王位継承は完了となる。
続いて、ロゼリアの方もマント、ティアラ、短い杖を王妃から引き継ぐ。
それが終わると二人揃って立ち上がり、その場に集まった者たちの方を振り向いて一礼をする。
「おお、新国王ペイル様、万歳!」
「新王妃ロゼリア様~」
その場に集まった貴族たちから祝福の声を受けるペイルとロゼリア。
二人はちらりとシルヴァノたちの方を向くと、シルヴァノとペシエラは小さくこくりと頷いていた。
その隣ではチェリシアが大声で泣いていた。鼻水まで流してだらしがない姿なので、ペシエラがハンカチを差し出す。すると、それを奪うように受け取って鼻をかんでいた。
その姿に思わず驚くペシエラたちである。
貴族たちの祝福を受けながら、ペイルとロゼリアは城門の上に移動し、ヴィフレアの住民たちにその姿を見せていた。
集まった民衆からも盛大な祝福を受け、そのお祭り騒ぎは夜まで続いたのだった。
翌日から数日間は、改めて貴族たちからの祝福の挨拶が行われ、継承式から五日後、ようやく旅行に出かけられる状態となった。
「さあ、半年ぶりのアイヴォリー王国ですね」
「ああ、そうだな。行きがけにアクアマリン領に立ち寄れるとはな。確か、学園の夏合宿以来か」
「確かにそうでしたね。あの時はアイリスが事件を起こしてくれましたわね」
「懐かしいな。命を狙われたっていうのに、そんな風に思うのもおかしいかもしれないけれどね」
ついつい昔を思い出して笑い合うペイルたちである。
わくわくとした表情のモーフに対し、シアンの方はなんとも神妙な面持ちになっている。
「シアン、どうしたの? 行きたいって言っていたのにそんな顔をして」
気になったロゼリアが声を掛ける。その声にはっとしたシアンは、慌ててロゼリアの顔を見る。
「何でしょうか、お母様」
にっこりと笑うシアン。
「表情が硬かったからどうしたのかと思ったのだけど、大丈夫?」
「はい、まったく問題ございません。私は元気ですよ。ちょっと楽しみになり過ぎてしまったみたいです」
シアンは笑ってごまかしておく。
「そう。具合が悪くなったらすぐに言ってちょうだいね」
「はい、分かりました」
にこにことしているシアンに、ロゼリアはついつい首を捻っていた。
(ふぅ、危なかったですね。今ならまだお兄様が生きていらっしゃるはずですし、もし会うとなると緊張してしまいますね)
シアンは、前世の家族に会うことに緊張しているようだった。
シアンのちょっとした希望で実現したアイヴォリー王国への旅行。その緊張の旅が、今始まるのだった。
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