403 / 731
新章 青色の智姫
第34話 懐かしのアクアマリン子爵領
しおりを挟む
モスグリネを発ち、あっという間にアクアマリン領へとやって来た。シルヴァノやペシエラたちも付き合っての訪問である。
アクアマリン領への移動は相変わらず面倒な道で、複雑な経路をたどってようやくアクアマリン子爵邸へとたどり着いた。
「アクアマリン子爵と話がしたい。いいだろうか」
「はっ、しばしお待ち下さいませ」
アクアマリンの私兵が屋敷の中へと駆け込んでいく。
しばらくして私兵が戻ってくると、シアンたちは中へと招き入れられた。
シルヴァノやペイルたちは堂々としているものの、シアンだけは久しぶりの前世での実家だ。不安そうに胸の前で手を握っている。
すると、急に誰かに抱き寄せられる。
シアンが顔を上げると、そこにロゼリアの顔があった。安心させようとにっこりと優しい笑顔を向けていた。そのおかげか、シアンは少し落ち着きを取り戻した。
「子爵様、失礼致します」
「うむ、案内ご苦労だった。中へお通ししなさい」
「はっ」
やり取りを終えた私兵は扉を開けて中へとシアンたちを通す。
扉を開けた先には、ずいぶんと老け込んだ男性が立っていた。
(お兄……様……!)
その姿を見て、懐かしさのあまり思わず声を上げそうになるシアン。
だが、今下手に行動を起こしても周りを驚かせてしまうだけだ。シアンはぐっと堪える。
その理由は、ここにやって来た人間のうち、ロゼリア、ペシエラ、それとチェリシア以外、シアン・アクアマリンの事を忘れてしまっているからだ。
禁法が望みを叶え、その代償にシアン・アクアマリンは一部の面々を除いてその記憶から存在と名前のすべてが消えてしまったのである。
つまり、シルヴァノやペイルやおろか、実兄であるマーリンですらシアンの事を覚えていないのである。
「お久しぶりでございます、アクアマリン子爵」
挨拶をするシルヴァノ。
先程まで座っていたアクアマリン子爵は、立ち上がってシルヴァノたちの前に跪く。
「わざわざのご訪問、誠にありがとうございます。まさか、我がアクアマリン領にお越し頂けるとは光栄の限りでございます」
深々と頭を下げているマーリンである。
「しかしでございます。なにゆえこのアクアマリン領へとお越しになられたのですか?」
当然ながら抱く疑問だ。
その質問にはペイルが答える。
「我が娘であるシアンがここに来たがってな。それで即位後の家族旅行としてやって来たのだ」
「なにゆえに、でございますでしょうか」
マーリンが再び問うと、ペイルは首を左右に振っている。
「理由は分からない。だが、シアンのところにはケットシーが何度となく足を運んでいる。おそらくは彼の入れ知恵のせいだろう」
「なるほど、でございますな」
ケットシーのせいにするのは都合がよすぎる。マーリンはあっさりと納得してしまっていた。
「シアンも十三歳になるとアイヴォリーの学園へと通うことになりますから、その話をした事も大きいでしょうね。このアクアマリン領は合宿の定番の地なのですから」
ロゼリアは笑いながら付け加えている。マーリンはこれにも納得したようだった。
「そうだ。サファイア湖のほとりの別荘に泊めさせてもらっても構わないかな?」
「ええ、構いませんとも。すぐに使用人を派遣させて頂きます。合宿の後、手を入れ損ねておりますゆえ」
「おや、珍しいな。一体どうしたんだい?」
マーリンが気になることを言うものだから、シルヴァノが問い掛けている。
すると、マーリンはちょっと言いづらそうにしている。いくら相手が新しい国王とはいえ、言ってもいいのかと迷っているようだ。
「別に言わなくてもよろしいですのよ。魔法に長けたアクアマリン子爵家なら、秘密のひとつやふたつあっても不思議ではございませんからね」
そこに口を挟んだのはペシエラだった。表情を見る限り、何かに気が付いたような感じだった。
「いやはや、王妃殿下には敵いませんな。お心遣い、痛み入ります」
マーリンはそう言うと、別荘へと魔法の使える使用人を派遣し、ひとまずはシルヴァノたちを本邸でもてなすことにした。
すぐさま応接間に移動しようとするマーリンたちだったが、その時にシアンが何かを感じて足を止める。
「シアン、どうかしましたか?」
急に立ち止まったシアンにロゼリアが気が付く。声を掛けられたシアンは、
「ううん、なんでもない」
ごまかしてロゼリアへと駆け寄っていく。しかし、歩きながらちらりとそちらへと視線を向けている。
(間違いありませんね。あそこは前世の私が使っていた部屋です)
そう、何かを感じた部屋は、まだアクアマリン子爵四女だった自分が使っていた部屋だった。
しかし、シアン・アクアマリンの存在が消えた今となっては、ただの空き部屋に過ぎないはず。だというのに、なぜこんなに気になるのだろうか。
(隙をみて調べてみる必要がありますね。ただ、お母様やペシエラ様を欺きながら向かうことなんてできるのかしら……)
ロゼリアに手を引かれながら考え込んでしまうシアン。
かつての自分の部屋だった場所。奇跡の転生を果たしたシアンにとっては、その中身が気になって仕方ないのであった。
アクアマリン領への移動は相変わらず面倒な道で、複雑な経路をたどってようやくアクアマリン子爵邸へとたどり着いた。
「アクアマリン子爵と話がしたい。いいだろうか」
「はっ、しばしお待ち下さいませ」
アクアマリンの私兵が屋敷の中へと駆け込んでいく。
しばらくして私兵が戻ってくると、シアンたちは中へと招き入れられた。
シルヴァノやペイルたちは堂々としているものの、シアンだけは久しぶりの前世での実家だ。不安そうに胸の前で手を握っている。
すると、急に誰かに抱き寄せられる。
シアンが顔を上げると、そこにロゼリアの顔があった。安心させようとにっこりと優しい笑顔を向けていた。そのおかげか、シアンは少し落ち着きを取り戻した。
「子爵様、失礼致します」
「うむ、案内ご苦労だった。中へお通ししなさい」
「はっ」
やり取りを終えた私兵は扉を開けて中へとシアンたちを通す。
扉を開けた先には、ずいぶんと老け込んだ男性が立っていた。
(お兄……様……!)
その姿を見て、懐かしさのあまり思わず声を上げそうになるシアン。
だが、今下手に行動を起こしても周りを驚かせてしまうだけだ。シアンはぐっと堪える。
その理由は、ここにやって来た人間のうち、ロゼリア、ペシエラ、それとチェリシア以外、シアン・アクアマリンの事を忘れてしまっているからだ。
禁法が望みを叶え、その代償にシアン・アクアマリンは一部の面々を除いてその記憶から存在と名前のすべてが消えてしまったのである。
つまり、シルヴァノやペイルやおろか、実兄であるマーリンですらシアンの事を覚えていないのである。
「お久しぶりでございます、アクアマリン子爵」
挨拶をするシルヴァノ。
先程まで座っていたアクアマリン子爵は、立ち上がってシルヴァノたちの前に跪く。
「わざわざのご訪問、誠にありがとうございます。まさか、我がアクアマリン領にお越し頂けるとは光栄の限りでございます」
深々と頭を下げているマーリンである。
「しかしでございます。なにゆえこのアクアマリン領へとお越しになられたのですか?」
当然ながら抱く疑問だ。
その質問にはペイルが答える。
「我が娘であるシアンがここに来たがってな。それで即位後の家族旅行としてやって来たのだ」
「なにゆえに、でございますでしょうか」
マーリンが再び問うと、ペイルは首を左右に振っている。
「理由は分からない。だが、シアンのところにはケットシーが何度となく足を運んでいる。おそらくは彼の入れ知恵のせいだろう」
「なるほど、でございますな」
ケットシーのせいにするのは都合がよすぎる。マーリンはあっさりと納得してしまっていた。
「シアンも十三歳になるとアイヴォリーの学園へと通うことになりますから、その話をした事も大きいでしょうね。このアクアマリン領は合宿の定番の地なのですから」
ロゼリアは笑いながら付け加えている。マーリンはこれにも納得したようだった。
「そうだ。サファイア湖のほとりの別荘に泊めさせてもらっても構わないかな?」
「ええ、構いませんとも。すぐに使用人を派遣させて頂きます。合宿の後、手を入れ損ねておりますゆえ」
「おや、珍しいな。一体どうしたんだい?」
マーリンが気になることを言うものだから、シルヴァノが問い掛けている。
すると、マーリンはちょっと言いづらそうにしている。いくら相手が新しい国王とはいえ、言ってもいいのかと迷っているようだ。
「別に言わなくてもよろしいですのよ。魔法に長けたアクアマリン子爵家なら、秘密のひとつやふたつあっても不思議ではございませんからね」
そこに口を挟んだのはペシエラだった。表情を見る限り、何かに気が付いたような感じだった。
「いやはや、王妃殿下には敵いませんな。お心遣い、痛み入ります」
マーリンはそう言うと、別荘へと魔法の使える使用人を派遣し、ひとまずはシルヴァノたちを本邸でもてなすことにした。
すぐさま応接間に移動しようとするマーリンたちだったが、その時にシアンが何かを感じて足を止める。
「シアン、どうかしましたか?」
急に立ち止まったシアンにロゼリアが気が付く。声を掛けられたシアンは、
「ううん、なんでもない」
ごまかしてロゼリアへと駆け寄っていく。しかし、歩きながらちらりとそちらへと視線を向けている。
(間違いありませんね。あそこは前世の私が使っていた部屋です)
そう、何かを感じた部屋は、まだアクアマリン子爵四女だった自分が使っていた部屋だった。
しかし、シアン・アクアマリンの存在が消えた今となっては、ただの空き部屋に過ぎないはず。だというのに、なぜこんなに気になるのだろうか。
(隙をみて調べてみる必要がありますね。ただ、お母様やペシエラ様を欺きながら向かうことなんてできるのかしら……)
ロゼリアに手を引かれながら考え込んでしまうシアン。
かつての自分の部屋だった場所。奇跡の転生を果たしたシアンにとっては、その中身が気になって仕方ないのであった。
1
あなたにおすすめの小説
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる