逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第35話 気にかかること

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「いやはや、申し訳ございませんでした。陛下方がいらしているというのに、ろくなおもてなしができませんで」
 マーリンは、別荘で一緒に食事をしながら話している。
「いや、こちらが急に押し掛けたんだ。これくらいは我慢するさ」
 シルヴァノたちも特に気にしている様子はない。
 到着時間の関係で、この日はこのまま別荘で休むだけの日程である。
「そういえば、本邸にはどうして泊まれませんのかしら」
 気になったペシエラが、マーリンに問い掛けている。昔から何度となくアクアマリン領には足を運んでいるが、一度も本邸で泊めてもらった覚えがなかったのだ。
「お話は致しますが、なにぶん魔法に長けた我が家には秘密が多いですからね。門外不出な事も多いために、勝手に歩かれては困るのですよ」
「なるほど、お話は少し聞いたことがありますけれど、家系でのみ引き継ぐような特別なものがありますのね」
「左様でございます、ロゼリア王妃殿下」
 シアンは黙々と食べながら、マーリンたちの会話を聞いている。
(お母様の侍女をしている時はあまり帰りませんでしたものね。わけあって帰った時も滞在時間は短かったですし……)
 アクアマリン子爵家の本邸内の様子を、一生懸命思い出しているシアン。しかし、転生の弊害か、よく思い出せずにいた。それ以外の事はしっかりと覚えているし、思い出せる。ただ、アクアマリン子爵本邸に居た時の頃だけがすっぽりと記憶から抜け落ちている。
「姉様?」
 あまりにも難しい顔をしていたらしく、隣で食べているモーフに心配そうな声を掛けられてしまう。
「モーフ、なんでもありませんよ」
 シアンは笑ってごまかしながら、モーフの頭をそっと撫でた。
「おっと、シアンちゃんだったかな。その髪飾り、よく見ると蒼鱗魚かい?」
「えっ」
 シアンの髪飾りに気が付いたマーリンが、突然声を掛けてくる。本当に急だったので、思わずシアンは驚いてしまっている。
「ええ、そうらしいですよ。うちの知り合いの迷惑な猫がいましてね、彼がシアンのために用意した魔力制御のために作った杖を勝手に作り変えてしまったんですよ」
「ああ、そういえばモスグリネ王国にも幻獣が居たのでしたね。ならばうちの領の幻獣を知っていても当然ですか」
 代わりに答えたロゼリアの答えに納得するマーリン。それ以降、シアンに対して話を振ってくる事はなかった。

 食事の後は軽く体を洗って休む。
 時間が時間だったというのに、短時間で別荘の中はきっちりきれいにされていた。さすがは魔法に長けたアクアマリンの使用人たちである。
 まるで天日干しをしたのかのようなふわふわなお布団が、心地よく眠りを誘ってくる。
「大丈夫ですか、シアン様」
「何がですか、スミレ」
 屋敷に到着以降、ほぼ別行動だったスミレがようやくシアンと一緒に行動している。そのために、シアンを気遣って話し掛けているのだ。
 幻獣だった頃は離れていてもある程度分かる状態にあったのだが、その能力を取り上げられてしまっている以上、直に確認しないといけないのだ。
「ええ、大丈夫ですよ。ちょっと懐かしかっただけです」
「そうでございますか。なら、よかったです」
 シアンの答えに、ちょっと違和感を感じたスミレ。質問をしてから答えるまでの間に、少しばかりの間があったからだ。
 さすがに付き合いの長い二人なだけに、どうやらスミレはなんとなくではあるが感じ取ってしまったようだ。
「それはそれとして、久しぶりの故郷なのです。何かなさるおつもりですか?」
 思い過ごしだと思いたいスミレは、軽く左右に首を振ってシアンに質問を投げかける。
「ええ、サファイア湖に散歩にでも行こうかと。おそらくはお母様が付き添うことになりますでしょうけれどね」
「そうでしょうね。モーフ様もご一緒でしょうかね」
「おそらくはそうなるはず。お父様は今日同様にお兄様とお話でしょうね」
 天井を見上げながら、スミレと会話をするシアンである。
「蒼鱗魚との会話は、難しいでしょうね。スミレに協力をしてもらわないことにはね」
「私ですか?」
 こてんと顔をスミレに向けるシアン。そのシアンの言葉に、スミレは驚いたように反応する。
「ええ、うまく私をお母様たちから引き離してくれると、蒼鱗魚と話をするタイミングが作れると思います。モーフがいる以上、離れられないでしょうからね」
 シアンがこう言うと、複雑な表情をするスミレだった。
「分かりました。王妃様にはうまく言って、私たち二人だけになれるように致します」
 スミレは仕方なく、シアンの目論見通りにいくようにうまく立ち回ることを約束させられたのだった。
「ふぁ……。では、頼みましたよ。さすがに十歳では、起きていられま……せんね」
 夜もだいぶ遅くなっていたこともあって、シアンは耐え切れずに眠ってしまったようだった。
 そのシアンを心配そうに眺めるスミレ。軽く布団を直して頭を撫でると、明日の準備を少しした後、同じように眠りについたのだった。

 蒼鱗魚に会って、シアンは一体何を話すつもりなのだろうか。
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