逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第51話 学園二日目の朝

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 翌日、どうにか普通に目覚めたシアンは、スミレに手伝ってもらって身支度を整える。
 制服だと基本的にコルセットをつけないので、体形が出てしまう。そのために令嬢の中にはなにかと困ってしまうものもいるらしい。
 シアンはそんなことを憂慮する必要もまったくなく、実に理想的な体型を維持している。
 今日の髪型は左右の髪を中央に集めてのハーフアップ風の髪型にしている。肩より下、胸辺りまであるサラサラのロングヘアは今日もうっとりするくらいにつややかである。
「侍女時代の髪はもっと長かったと思うのですけれどね」
「このくらいが一番いいのです。短いとお淑やかに見てもらえませんし、かといって長すぎると手間ですからね」
 スミレの言葉に、少々説明口調で返すシアンである。
 準備を終えると、シアンは王家の馬車に乗って学園へと向かっていった。

 学園のカリキュラム自体は、今のシアンの母親であるロゼリアたちが通っていた頃と変わりはない。夏休みには合宿があり、夏休みの後には学園祭がある。
 学園祭といえば、その華はやっぱりなんといっても武術大会。剣だけではなく魔法も飛び交うとあって、毎年かなり盛り上がっている。とはいえ、シアンのような魔法のみの学生は参加できないのだが。
(そうなると、やはり合宿ですよね。近年はアクアマリン領のサファイア湖だと聞いております。まあ、あそこにはアクアマリン子爵家の別荘がありますからね。かなりの大きさがあるので学生たちが寝泊まりするには十分ですからね……)
 学園の行事を今から気にしているシアンである。
 なんといってもモスグリネ王国の王女であるシアンは、学園には前半の三年間しか居られない。残りはモスグリネ王国に戻って勉強しなければならないのだ。
 それが、アイヴォリー王国との間で交わされた留学の条件なのである。
 学園に通うことになる六年間のうち、前半三年間と後半三年間、どちらかで相手国の学園に留学をするという約束事である。
(どういうわけか、モスグリネ王家は前半三年間を留学にあてる選択を選び続けているのよね……。それでいて、アイヴォリー王国は留学させないという選択肢も持っている。よくよく考えればちょっと不平等ですね)
 シアンはため息をついている。
 実際、ロゼリアたちの頃はモスグリネ王国の学園に留学してくるものは皆無だった。王子であるシルヴァノも留学しないという選択肢を取っていたのだ。モスグリネ王国の方は王族は必ず留学という条件なのだから、確かに不平等ではあるのだ。
(モーフはどうするつもりですかね。私がモスグリネに戻る年に入学することになりますからね。あの子の性格上、後半に留学する選択肢を取りそうですね)
 シアンはいろいろと悩ましげに考え込んでいた。
 ため息をついているシアンの姿に、ついつい心配そうに顔を覗き込んでしまうスミレである。
「ねえ、スミレ」
「何でしょうか、シアン様」
 急にシアンが話し掛けてくるものだから、少し慌てたように反応するスミレ。
「モーフは留学でどんな選択を取ると思いますか?」
 突然の質問に、表情をしかめるスミレである。ちょっと意図を理解しかねているようだった。だが、そこは幻獣。すぐさま意図を理解して、咳払いをして姿勢を整える。
「そうでございますね。モーフ様はかなりシアン様に懐かれております。といいますか、頼りにされてらっしゃるように思います。学園に入られる年齢の時にシアン様がモスグリネに戻ることになりますから、おそらくは留学は後半にされると思いますよ」
「でしょうね」
 同じ意見になったので、シアンはため息をつきながら背筋を伸ばす。
「少しは姉離れをしてもらいたいのですけれど、やはり、私が学園を卒業して嫁ぐまでは難しいでしょうか」
「嫁ぐ前提なのですか」
 シアンの言葉に即反応するスミレ。
「女性は嫁ぐものではないのですかね」
「シアン様なら女王という選択肢も取れると思うのですけれどね。モスグリネ王国に国王は男性に限るという文言の規定がなければ、十分可能だとは思いますけれど」
 スミレに言われてすっかり言葉を失うシアンだった。
 そういえばそうである。
 現王ペイルも、先代ダルグも、自然と男性が王位を継承してきたゆえに、男が王位を継ぐものだと思い込んでいたのだ。
「はあ、それなら王室典範を確認してみる必要がありますね。とはいえ、私が王位を継ぐ資格があるかと言われると、疑問はあるのですけれどね」
「シアン様なら十分あると思います。どれだけおそばで見てきたと思っていおられるのですか」
 どんと胸を張るスミレである。その姿がおかしかったのが、シアンはついつい笑ってしまう。
「ちょっと、何がおかしいのですか、シアン様」
 怒るスミレではあるものの、シアンは涙を浮かべるくらいに笑い続けていた。かなりツボに入ったようである。あまりに盛大に笑い続けてくれるので、スミレは止めるのを諦めた。
「いやはや、あれだけ淡々としてきた幻獣クロノアの珍しい表情についつい笑ってしまいました」
「私ってそんな風に思われてたのですね」
 ようやく落ち着いたシアンの言葉に、スミレがすっかりへそを曲げてしまったのである。
 雰囲気が目まぐるしく変わってようやく落ち着くと、馬車が学園へと到着する。
「それでは行ってまいりますね」
「いってらっしゃいませ、シアン様」
 スミレが見送る中、シアンは学園二日目の登校を済ませたのだった。
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