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新章 青色の智姫
第90話 幻獣スキュラ
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出現した時はペシエラとチェリシアは構えたものだが、幻獣を名乗ったことでその警戒を解く。
上半身は美しい女性、下半身は犬の群れという幻獣スキュラ。その姿はチェリシアの前世で聞いた通りのものだった。
「いやぁ、神話についてかじっていたけど、本当にその通りの姿なのね」
「お姉様はご存じで?」
「まぁ、軽くかじった程度だから、詳しくは知らないわ」
チェリシアから返ってきた言葉に、ペシエラは呆れてため息をついた。何の解決にもなっていないからだ。
ペシエラとチェリシアのやり取りの後ろで、子どもたちは怯えている。その中ではシアンとフューシャが年長者として前に立って様子を見守っている。
「お姉様、ペシエラ。私、ちょっと話をしてみます」
「ええ。でも、気をつけてね、アイリス」
ペシエラとチェリシアが心配すると、アイリスはこくりと頷いてスキュラへと近付いていく。
スキュラも浜辺に上がり、警戒の原因となる犬の部分をスカートの下に隠す。アイリスとの距離が近くなると、スキュラはすっと跪いていた。
「ああ、やっと来て下さったのですね。我が主。ベル様と別れて以来、ずっとこの地で待ち続けておりました」
まるで涙を流すようにして話すスキュラに、アイリスはどう反応していいのか困っていた。
それというのも、アイリスは今までも何度かこのプライベートビーチには足を運んでいる。それだというのに、今まで気が付くことがなかったというのだから疑問に感じているのだ。
でも、スキュラと自分との間に確かな魔力のつながりのようなものを感じるので、スキュラの言葉に嘘はないように思える。
「本当にお懐かしゅうございます。ベル様と同じ魔力に再び出会えるなんて……」
困ったことにスキュラは涙を流しながら言葉に詰まってしまっていた。
すっと近寄ってスキュラの頬に手を当てるアイリス。
「それは本当につらかったでしょうね」
「はい……」
アイリスの問い掛けに小さく頷くスキュラ。
「でも、不思議ですね。何度かここには来ていますのに、今まで気づかれなかったということが」
「えっ」
アイリスの証言に驚くスキュラ。
「確かにそうですわよ。ここはコーラル領ですから、家を継ぐ事になったアイリスは何度となく来ておりますわ」
「うんうん。まぁ、ニーズヘッグが大体ついて来ていたから、彼のせいかも知れないわよ」
「ににに、ニーズヘッグですって?!」
チェリシアがニーズヘッグの名前を出した途端、スキュラはものすごい勢いで後退っていく。
スキュラの様子を見て、やっぱりかと思うペシエラとチェリシア。どうやらニーズヘッグの魔力が強すぎて、スキュラは気が付けなかったようなのだ。
「あ、あの乱暴者までいるのですか? ベル様に近付こうとして何度追い払われたことか……」
スキュラは拳を握って震えている。当時を思い出して怒りがこみ上げているようだ。
「でも、納得しました。あれがいたのであれば、私は本能的に避けますからね。しかし、微弱ながらにもあの者の魔力を感じるのはなぜでしょうかね」
スキュラはきょろきょろと辺りを見回している。
「多分、私の子どもたちのせいだと思いますよ」
「主様のお子様たちですか?」
ペシエラとチェリシアの後ろに隠れる子どもたちに視線を向けるスキュラ。
「あの紫髪の子たちですか。確かに、かすかににおってきますね」
微妙に険しい表情をするスキュラ。
「実は私の夫なんですよ、ニーズヘッグって」
「そうなんですか、夫……えええっ?!」
再び後退るスキュラ。今度はさっきよりも後退幅が大きい。
「あの黒トカゲめ……。私たちの至宝に手を出しやがったのですね。分かりました、処しましょう」
混乱しているのか物騒なことを言い出すスキュラ。ものすごく目が据わっている。どうやらベルの子孫であるアイリスが、ニーズヘッグに取られて憤っているようなのだ。まったく、どれだけスキュラに嫌われているというのだろうか、ニーズヘッグは。
「ああ、でも、私の力ではとてもあの黒トカゲには敵いません。……私はどうしたらよいのでしょうか」
かと思えば、今度は頭を抱えて騒ぎ始めた。一人で騒がしいものである。
「どうしましょうかね、ペシエラ」
「放っておきましょう。害があるようではないようですからね」
ペシエラとチェリシアも呆れるばかりだった。
その後、アイリスはスキュラと契約を交わしていた。新たな契約の証がアイリスに刻まれたのだが、それは左手の小指の爪についていた。あまりに目立つと迷惑かと思って控えめにしたそうだ。
「ご用命がございましたら、いつでも駆けつけます。どうぞ、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ頼みますよ、スキュラ」
ひと騒動はあったものの、無事に契約を終えたアイリスとスキュラ。
だが、本当の騒ぎはこれからで、スキュラの登場の際に水が引いたことでシェリアの街は大騒ぎとなっていたのだ。その現象の説明をして騒ぎを治めるのために相当の時間を要し、ペシエラたちは相当に疲れ果てたのだった。
まったく、行く先々で騒動に巻き込まれるのは勘弁してほしいと思うシアンなのであった。
上半身は美しい女性、下半身は犬の群れという幻獣スキュラ。その姿はチェリシアの前世で聞いた通りのものだった。
「いやぁ、神話についてかじっていたけど、本当にその通りの姿なのね」
「お姉様はご存じで?」
「まぁ、軽くかじった程度だから、詳しくは知らないわ」
チェリシアから返ってきた言葉に、ペシエラは呆れてため息をついた。何の解決にもなっていないからだ。
ペシエラとチェリシアのやり取りの後ろで、子どもたちは怯えている。その中ではシアンとフューシャが年長者として前に立って様子を見守っている。
「お姉様、ペシエラ。私、ちょっと話をしてみます」
「ええ。でも、気をつけてね、アイリス」
ペシエラとチェリシアが心配すると、アイリスはこくりと頷いてスキュラへと近付いていく。
スキュラも浜辺に上がり、警戒の原因となる犬の部分をスカートの下に隠す。アイリスとの距離が近くなると、スキュラはすっと跪いていた。
「ああ、やっと来て下さったのですね。我が主。ベル様と別れて以来、ずっとこの地で待ち続けておりました」
まるで涙を流すようにして話すスキュラに、アイリスはどう反応していいのか困っていた。
それというのも、アイリスは今までも何度かこのプライベートビーチには足を運んでいる。それだというのに、今まで気が付くことがなかったというのだから疑問に感じているのだ。
でも、スキュラと自分との間に確かな魔力のつながりのようなものを感じるので、スキュラの言葉に嘘はないように思える。
「本当にお懐かしゅうございます。ベル様と同じ魔力に再び出会えるなんて……」
困ったことにスキュラは涙を流しながら言葉に詰まってしまっていた。
すっと近寄ってスキュラの頬に手を当てるアイリス。
「それは本当につらかったでしょうね」
「はい……」
アイリスの問い掛けに小さく頷くスキュラ。
「でも、不思議ですね。何度かここには来ていますのに、今まで気づかれなかったということが」
「えっ」
アイリスの証言に驚くスキュラ。
「確かにそうですわよ。ここはコーラル領ですから、家を継ぐ事になったアイリスは何度となく来ておりますわ」
「うんうん。まぁ、ニーズヘッグが大体ついて来ていたから、彼のせいかも知れないわよ」
「ににに、ニーズヘッグですって?!」
チェリシアがニーズヘッグの名前を出した途端、スキュラはものすごい勢いで後退っていく。
スキュラの様子を見て、やっぱりかと思うペシエラとチェリシア。どうやらニーズヘッグの魔力が強すぎて、スキュラは気が付けなかったようなのだ。
「あ、あの乱暴者までいるのですか? ベル様に近付こうとして何度追い払われたことか……」
スキュラは拳を握って震えている。当時を思い出して怒りがこみ上げているようだ。
「でも、納得しました。あれがいたのであれば、私は本能的に避けますからね。しかし、微弱ながらにもあの者の魔力を感じるのはなぜでしょうかね」
スキュラはきょろきょろと辺りを見回している。
「多分、私の子どもたちのせいだと思いますよ」
「主様のお子様たちですか?」
ペシエラとチェリシアの後ろに隠れる子どもたちに視線を向けるスキュラ。
「あの紫髪の子たちですか。確かに、かすかににおってきますね」
微妙に険しい表情をするスキュラ。
「実は私の夫なんですよ、ニーズヘッグって」
「そうなんですか、夫……えええっ?!」
再び後退るスキュラ。今度はさっきよりも後退幅が大きい。
「あの黒トカゲめ……。私たちの至宝に手を出しやがったのですね。分かりました、処しましょう」
混乱しているのか物騒なことを言い出すスキュラ。ものすごく目が据わっている。どうやらベルの子孫であるアイリスが、ニーズヘッグに取られて憤っているようなのだ。まったく、どれだけスキュラに嫌われているというのだろうか、ニーズヘッグは。
「ああ、でも、私の力ではとてもあの黒トカゲには敵いません。……私はどうしたらよいのでしょうか」
かと思えば、今度は頭を抱えて騒ぎ始めた。一人で騒がしいものである。
「どうしましょうかね、ペシエラ」
「放っておきましょう。害があるようではないようですからね」
ペシエラとチェリシアも呆れるばかりだった。
その後、アイリスはスキュラと契約を交わしていた。新たな契約の証がアイリスに刻まれたのだが、それは左手の小指の爪についていた。あまりに目立つと迷惑かと思って控えめにしたそうだ。
「ご用命がございましたら、いつでも駆けつけます。どうぞ、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ頼みますよ、スキュラ」
ひと騒動はあったものの、無事に契約を終えたアイリスとスキュラ。
だが、本当の騒ぎはこれからで、スキュラの登場の際に水が引いたことでシェリアの街は大騒ぎとなっていたのだ。その現象の説明をして騒ぎを治めるのために相当の時間を要し、ペシエラたちは相当に疲れ果てたのだった。
まったく、行く先々で騒動に巻き込まれるのは勘弁してほしいと思うシアンなのであった。
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