逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
458 / 731
新章 青色の智姫

第89話 再びプライベートビーチへ

しおりを挟む
 シェリア滞在三日目。
 この日は再びプライベートビーチにやって来た。
 まさか再び水着を着ることになるとは思っていなかったシアンは、複雑な表情で浜辺にくつろいでいる。
 人の目は知れているとはいえ、それでもやはり水着の露出は恥ずかしいのである。
「シアン様ーっ!」
 ゆっくり日陰で休んでいようとすると、ダイアから思いきり大声で呼ばれてしまうシアン。
 シアンが上体を起こして波打ち際を見ると、そこではコーラル家の子どもたちが揃いも揃って水を掛け合って遊んでいる。
 みんなが楽しそうに遊んでいる中、一人だけ日陰で休んでいるのがなんとなく恥ずかしくなってくるシアン。隣で一緒に休んでいるペシエラたちを見て、あちこち視線を泳がしている。
「王妃殿下、私も遊んで参ります」
「ええ、気を付けていってらっしゃいな」
 悩んだ挙句、ペシエラに告げて立ち上がるシアン。ペシエラから許しを得て、ダイアたちのところへとゆっくりと歩いていった。
(みんなは若いからなのか、新しいものも自然と受け入れてしまいますね)
 水着を着てはしゃぐダイアやプルネたちを見て、シアンはそんな事を思っている。
 だが、そう思っているシアンだって今は十三歳の少女である。若いとは何なのか。
 逆行経験に加えて、転生の経験まであるだけに、シアンはどことなく古い考えに囚われている節があるようだ。
 逆行経験をしたペシエラも、サファイア湖の捜索をした時に水着に困惑していた。だが、ロゼリアはそうではなかったので、やはりある程度年のいった経験があると抵抗感を持ってしまうようだった。
(この服、水を思ったより吸わない?)
 初めて海の中に入ってみて、シアンは驚いている。
 普通の服なら水をしっかり吸って重くなってしまうことを、シアンは知っているのだ。さすがは水を操るアクアマリン家の元令嬢である。
 とはいえ、水を操るのだから濡れてしまっても水魔法でどうにでもできてしまう。実は、服がびしょぬれになることは、シアンにとっては大した問題ではなかった。
 しかし、濡れてもそれほど影響の小さな服というのは、シアンにとっては初めての体験だった。
「えーい、シアン様!」
 シアンがぼーっとしていると、ダイアから突然水の塊をお見舞いされる。
 急なことだったのでまったく対応ができず、シアンはその一撃をもろに食らってしまった。
「やりましたね、ダイア様」
 左の眉尻がぴくぴくと動くシアン。どうやらイラッと来たようである。
「うふふ、油断しているのが悪いんですよ。今は遊びに来てるんですから」
 可愛く笑うダイアに、シアンは早速お返しをする。
「隙ありですよ」
 ダイアに向けて、両手で水をすくって放り投げるシアン。
「きゃっ」
 可愛い悲鳴とともに、まともに食らってしまうダイアである。
「先程のお返しですよ」
「やりましたね。でも、そうこなくっちゃです」
 仕返しをされても怒らずににこにこと笑っているダイア。さすが反撃を予想していただけあって、その態度には余裕があった。
 結局、気が付いたらプルネまで巻き込んで三人で水遊びである。
 そのきゃっきゃとして遊ぶ様子を、年下の面倒を見ながらライトが笑いながら見守っている。
「まったく、楽しそうですね」
「ねえ、王子様。僕たちも遊ぶ?」
「そうですね。あまり砂浜から離れてはいけませんよ。急に深くなっているかも知れませんからね」
「うん、分かった」
 小さな子どもたちに言い聞かせるライト。すっかりお兄さんの顔になっている。
 将来的にはシルヴァノの跡を継いで国王になるだろうライトだが、一体どのような国王になるのか。その素質の片鱗が見え隠れしているようである。
 そのライトやキャノルたち使用人たちが見守る中、バシャバシャと遊んでいるシアンたち。
 ところが、シアンやペシエラたちがぴくりと何かに反応する。
「ペシエラ、この気配って」
「どうやら、魔物でもいたみたいですね」
 急に不穏な空気が漂い始める。
「みんな、海から上がって!」
 ペシエラは叫ぶと同時に子どもたちの方へと走っていく。足元に小さな空気の層を作って滑るように走るペシエラ。砂の上だと走りにくいための工夫である。
 子どもたちは急いで海から出て砂浜へと退避していく。キャノルたち使用人たちが実にいい動きをしてくれている。
 徐々に地面が揺れ始め、波打ち際が段々と退行していく。
 やがて沖合で海が渦を巻き出す。警戒を強めるペシエラたちだったが、何かを感じたアイリスがゆっくりと発生した渦へと向けて歩いていく。
「アイリス? 戻りなさい!」
 ペシエラが叫ぶが、アイリスは止まらない。
「大丈夫ですよ、ペシエラ。この気配、あなたもそうなんですね」
 アイリスが呼び掛けると、海面から徐々に何かが姿を見せる。
 姿を見せたのは上半身が美しい女性、下半身は獰猛な犬が連なった魔物のようだった。
「スキュラ?!」
 その姿を見たチェリシアが叫ぶ。
「知っていますの? お姉様」
 ペシエラがチェリシアに振り向くが、チェリシアが答えるよりも先に、目の前の魔物が口を開いた。
「幻獣スキュラ、主の気配を感じて馳せ参じました」
 なんと、目の前に現れた魔物は幻獣と名乗ったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...