逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第103話 上には上がいる

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 構えて待つガーネットに、シアンの渾身の一撃が放たれる。
 ガーネットは躱して反撃することもできただろう。ところが、シアンの一撃をあえて躱さずに正面から受け止めている。その結果……。

 パキーン……。

 ひゅんひゅんという風切り音を立てながら、模擬剣の一部が宙を舞う。そして、武台にざっくりと突き刺さっていた。
 あまりの衝撃に、会場内が静まり返っている。シアンとガーネットは一体どうなったのだろうか。
「ふん、王女様と思って甘く見ていたようだ。でも、もうちょっと足りなかったね」
「そのようですね。私の負けですね」
 シアンの持っていた模擬剣は根元から折れ、ガーネットの剣はシアンの首元でぴたりと止まっていた。
 力と力のぶつかり合いでは、やはりガーネットに分があったようだった。その結果が、シアンの持っていた剣をへし折るという現実となったのである。
「でも、剣術の腕前はまだまだ未熟。それでいて私とこれだけやりあえた。来年が楽しみというものだ」
 ガーネットは剣を引き、シアンへと手を差し出す。どうやら握手を求めているようだ。
 その様子にちょっと驚きながらも、シアンは手を取って握手をしっかりと交わす。そして、健闘をたたえ合って微笑み合うと、武台から降りていった。
 控室に戻ったシアン。
「なかなかやるなぁ。あのガーネット相手にあそこまでやり合うとは」
「クライ様。見てらしたんですか?」
「ああ、あそこに試合の様子を映し出す魔法鏡があるからな」
「そんなものがあったのですか」
 クライが親指で指し示した方向を見ると、そこには確かに武台の様子が映っている長方形の板が置かれていた。これもチェリシアが開発したものの一つらしい。
「そんなわけで、控室にいながらにして試合を観戦できるってわけだ。チェリシア・コーラル・マゼンダっていったっけか。その人が好意で設置していったらしいぜ」
「チェリシア様ってば……」
「なんだ、知ってるのか?」
 説明を聞いて呆れた反応を見せると、クライが気付いて問い掛けてきた。
「お父様とお母様の同級生だった人だから、こっちでもときどきお世話になっているのですよ」
「そうだったのか」
 しかし、あまり興味なさそうな感じで反応していた。何のために聞いたんだろうか。
「よし、午後にはあのガーネットと戦うからな。勝てばベストエイトだ」
 やる気十分のクライ。シアンはその姿を微笑ましく見ている。
「せいぜい頑張って下さいな。ガーネット様はかなりお強いですからね」
「ああ、全力でいかせてもらうぜ」
 クライと会話を交わしたシアンは、観客席へと向かっていった。

「お疲れ様、シアン様」
 控室の外でスミレと合流したシアンが観客席に向かうと、アイリスたちコーラル一家に出迎えられる。下の弟と妹までやって来ていて、仕事に追われるニーズヘッグ以外が全員揃っていた。
「あら、隠居された伯爵様夫婦もいらしてたのですね」
「うむ。孫が出ると聞いてやって来たのだが、今日は既に敗退済みと聞いてちょっとがっくりだったな。領都からちょっと遠すぎたな」
 現王妃であるペシエラとマゼンダ侯爵夫人であるチェリシアの実の両親であるコーラル元伯爵夫妻。夫がプラウスで妻がサルモアという。コーラル一族の特徴的なピンク色の髪もすっかり白髪混じりとなっていた。
「その代わり、娘に勝ったというシアン王女殿下の立派な戦いを見れて、私は感動をしておるところですぞ。このような方に負けたとあっては、私も胸を張れるというものです」
 急に泣き始めるプラウス。年を取ったせいか、かなり涙もろくなっているようだ。
「シアン様、すごく善戦されてましたよね。ガーネット嬢はここまで三年連続準優勝をされている方なんですよ」
「あら、優勝はなさってないのですね」
 アイリスから聞いた話に、思わず疑問に思ってしまうシアン。
「はい、優勝されているのは男性の方で……。あっ、ちょうど今から出てくるみたいですよ」
 アイリスの言葉に、勢いよく武台へと視線を向けるシアン。プルネやフューシャも同じように武台へと顔を向けていた。
 武台に上がってきたのは、黒っぽい灰色のような髪色の男子学生だった。
「あの方なら私も知っていますね。アッシュ・フォグブルーでしたっけか。確か爵位は侯爵でしたね」
「え、侯爵家ってまだあったのですか」
 フューシャが思い出したように話した内容に、シアンが驚いたように反応をしている。
「はい、フォグブルー侯爵家はアイヴォリー王国内に八つある侯爵家のひとつなんですよ。あまり表立った活躍をしていませんので、知名度は随一に低いですけれどもね」
「なるほど……」
 ペシエラの影響でアイヴォリー王国内の貴族に詳しくなったアイリスが説明する。その内容にシアンはちょっとショックを受けている。なにせ前世は、同じ侯爵家であるマゼンダ家でロゼリアの侍女をしていたからだ。
(なぜ、私が知らなかったのでしょうかね)
 顎に手を当てて考え込むシアン。
「シアン様、試合が始まりますよ」
 プルネに言われて、シアンは顔を上げる。
 今は考え込んでいる時じゃない。そう思ったシアンは、武台の上へと意識を集中させた。
(自分に勝ったガーネットすら敵わないアッシュという男。その実力をたっぷり見させてもらおうではないですか)
 シアンは全身を強張らせたのだった。
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