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新章 青色の智姫
第108話 学園祭をめぐる
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商業組合の出店スペースには、所狭しと物が並べられていた。その商品にはアイヴォリーとモスグリネではないものも混ざっているようだ。
「ここら辺が南のトパゼリアのもので、こっちがモスグリネの北西のムー王国のものだね。交渉にはボクも出ていっているんだよ。なに、最初は驚かれるけど、交渉にはなんの影響もないよ」
ケットシーは相変わらずにこにこした表情で、シアンたちに陳列されている物品について説明を始めている。
アイヴォリー王国は南東から北東にかけてを海、北側には山が連なっているために、諸外国との取引はほとんどが西隣のモスグリネになる。
それに対してモスグリネは、東西南北のどの方向においても別の国と接している。南の大部分をトパゼリア、北西部をムー王国、西部をシトリーゼと南西の小国と合わせれば、実に五国と国境を接している。
そのために、モスグリネはあちこちの国との取引実績があり、商業組合の出店スペースに様々な物品が並べられているというわけだった。
「このあたりのものは見たことありませんね」
シアンがじっと物を見つめている。
「その辺の商品はシトリーゼのものだね。シアンくん、知らないというわけはないだろう?」
ケットシーの目がかすかに開いている。こういう時のケットシーは大体意地悪をする時だ。
この時のケットシーの問い掛けに、シアンが首を縦に振れるわけがなかった。
(知らないなんて言えないですね)
そう、前世がアイヴォリー王国の人間がために、アイヴォリー王国にばかり意識が向いていた。そのために、他の国のことについてまったく興味を持っていなかったのだ。
侍女であるスミレもそれを汲んでかほとんど耳に入れようとしなかったし、両親もほとんど他国の話をしなかった。その結果、シアンはアイヴォリーとモスグリネ以外の国を知らず、トパゼリアすらも最近知ったという始末なのだ。
(王族としてあるまじき失態ですね……)
シアンは頭が痛くて、つい手を当ててしまう。ケットシーはにやにやとした様子でその姿を見ていた。実に趣味の悪い猫である。
「まったく、モスグリネの周りはたくさんの国があるんだ。もう少し、視野は広く持ってもらわないと困るよ、はっはっはっはっ」
ケットシーはそう言いながら、出店の店員に状況を確認している。
こうやって仕事をしている姿を見ると、商業組合の組合長という感じに思えてくる。中身はただの意地の悪い猫なのだが、どうしてこうも頼りがいがあるように見えるのか。シアンは不思議でならなかった。
「そうだ。せっかくお友だち同士で見て回っているところ誘ってしまって悪かったね。これはお詫びにボクからのプレゼントとしてあげよう。受け取ってくれたまえ」
ケットシーはごそごそと何かを取り出して、シアンたちに手渡してきた。
「これは?」
「なに、ボクの出身である精霊の森の石ころだよ。オリジンくんからもちゃんと持ち出しの許可は得ているよ。精霊王と幻獣じゃ、幻獣であるボクの方が上ではあるけど、あそこは出身地だから筋はちゃんと通しておかないとね」
ケットシーは細かく石について説明している。
だが、石という割には不思議な色合いをしている。
「なんだか魔力を感じますね」
「おっ、分かるかい? これは精霊の森の石ころだからね、精霊たちの魔力がしみ込んでいるんだ。きっと役に立ってくれると思うよ」
糸目なくせにウインクをしてくるケットシー。目が細すぎて、したことに気付かれていない。
「それじゃ、ボクは店を手伝うから、ここでお別れだね。初めての学園祭を楽しんでおくれよ、はっはっはっはっ」
ご機嫌に笑うケットシーと別れ、シアンたちは学園内で行われるあちこちの催しを見ていく。
ある程度見終わって、武術大会の行われていない会場へと、ふと足を運んでしまう三人。話ながらだったので、どうやら無意識に向かってしまったようだ。
「あら、ここは訓練場ではありませんか」
「今日は武術大会はお休みですのに、つい足を運んでしまいしたね」
シアンとプルネは無意識の行動にはにかんでいる。
「ねえ、あちらが騒がしいようですよ」
一人付き合わされただけのブランチェスカが指差す方向では、なにやら人だかりができているようだった。
武術大会の行われていない今日は、この辺りに人が集まる要素はないはず。気になるシアンたちは、その人だかりの正体を探りに近付いていく。
「さあさあ、魔物の解体ショーだよ。騎士や冒険者たちがどうやって魔物を捌いているのか、それをじっくり見られるまたとない機会だ。解体された魔物の素材の即売会もあるから、どんどん寄ってらっしゃい見てらっしゃい」
一人の男性が声を張り上げて客を呼び込んでいる。
人だかりをどうにかかき分けて向かった先では、魔物の解体が行われているようだった。
「あっ、お姉様」
解体ショーの様子を見ていたプルネが、その中にフューシャの姿を見つけていた。
プルネの声に気が付いたのか、フューシャが顔を向けてにこりと微笑んでいる。
どうしてここにフューシャいるのか。状況がいまいちつかめないシアンたちは、最前列まで出てきたところでショーの様子をじっと眺めているのだった。
「ここら辺が南のトパゼリアのもので、こっちがモスグリネの北西のムー王国のものだね。交渉にはボクも出ていっているんだよ。なに、最初は驚かれるけど、交渉にはなんの影響もないよ」
ケットシーは相変わらずにこにこした表情で、シアンたちに陳列されている物品について説明を始めている。
アイヴォリー王国は南東から北東にかけてを海、北側には山が連なっているために、諸外国との取引はほとんどが西隣のモスグリネになる。
それに対してモスグリネは、東西南北のどの方向においても別の国と接している。南の大部分をトパゼリア、北西部をムー王国、西部をシトリーゼと南西の小国と合わせれば、実に五国と国境を接している。
そのために、モスグリネはあちこちの国との取引実績があり、商業組合の出店スペースに様々な物品が並べられているというわけだった。
「このあたりのものは見たことありませんね」
シアンがじっと物を見つめている。
「その辺の商品はシトリーゼのものだね。シアンくん、知らないというわけはないだろう?」
ケットシーの目がかすかに開いている。こういう時のケットシーは大体意地悪をする時だ。
この時のケットシーの問い掛けに、シアンが首を縦に振れるわけがなかった。
(知らないなんて言えないですね)
そう、前世がアイヴォリー王国の人間がために、アイヴォリー王国にばかり意識が向いていた。そのために、他の国のことについてまったく興味を持っていなかったのだ。
侍女であるスミレもそれを汲んでかほとんど耳に入れようとしなかったし、両親もほとんど他国の話をしなかった。その結果、シアンはアイヴォリーとモスグリネ以外の国を知らず、トパゼリアすらも最近知ったという始末なのだ。
(王族としてあるまじき失態ですね……)
シアンは頭が痛くて、つい手を当ててしまう。ケットシーはにやにやとした様子でその姿を見ていた。実に趣味の悪い猫である。
「まったく、モスグリネの周りはたくさんの国があるんだ。もう少し、視野は広く持ってもらわないと困るよ、はっはっはっはっ」
ケットシーはそう言いながら、出店の店員に状況を確認している。
こうやって仕事をしている姿を見ると、商業組合の組合長という感じに思えてくる。中身はただの意地の悪い猫なのだが、どうしてこうも頼りがいがあるように見えるのか。シアンは不思議でならなかった。
「そうだ。せっかくお友だち同士で見て回っているところ誘ってしまって悪かったね。これはお詫びにボクからのプレゼントとしてあげよう。受け取ってくれたまえ」
ケットシーはごそごそと何かを取り出して、シアンたちに手渡してきた。
「これは?」
「なに、ボクの出身である精霊の森の石ころだよ。オリジンくんからもちゃんと持ち出しの許可は得ているよ。精霊王と幻獣じゃ、幻獣であるボクの方が上ではあるけど、あそこは出身地だから筋はちゃんと通しておかないとね」
ケットシーは細かく石について説明している。
だが、石という割には不思議な色合いをしている。
「なんだか魔力を感じますね」
「おっ、分かるかい? これは精霊の森の石ころだからね、精霊たちの魔力がしみ込んでいるんだ。きっと役に立ってくれると思うよ」
糸目なくせにウインクをしてくるケットシー。目が細すぎて、したことに気付かれていない。
「それじゃ、ボクは店を手伝うから、ここでお別れだね。初めての学園祭を楽しんでおくれよ、はっはっはっはっ」
ご機嫌に笑うケットシーと別れ、シアンたちは学園内で行われるあちこちの催しを見ていく。
ある程度見終わって、武術大会の行われていない会場へと、ふと足を運んでしまう三人。話ながらだったので、どうやら無意識に向かってしまったようだ。
「あら、ここは訓練場ではありませんか」
「今日は武術大会はお休みですのに、つい足を運んでしまいしたね」
シアンとプルネは無意識の行動にはにかんでいる。
「ねえ、あちらが騒がしいようですよ」
一人付き合わされただけのブランチェスカが指差す方向では、なにやら人だかりができているようだった。
武術大会の行われていない今日は、この辺りに人が集まる要素はないはず。気になるシアンたちは、その人だかりの正体を探りに近付いていく。
「さあさあ、魔物の解体ショーだよ。騎士や冒険者たちがどうやって魔物を捌いているのか、それをじっくり見られるまたとない機会だ。解体された魔物の素材の即売会もあるから、どんどん寄ってらっしゃい見てらっしゃい」
一人の男性が声を張り上げて客を呼び込んでいる。
人だかりをどうにかかき分けて向かった先では、魔物の解体が行われているようだった。
「あっ、お姉様」
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プルネの声に気が付いたのか、フューシャが顔を向けてにこりと微笑んでいる。
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