逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
481 / 731
新章 青色の智姫

第112話 魔法の可能性

しおりを挟む
 学園祭後のお茶会から数日後のこと……。
「あは、あははは!」
 プルネが楽しそうに笑っていた。
「驚いたわ。私よりに先に乗り物の魔法を使いこなしてしまいますとは……」
「楽しいですね、シアン様」
 そう、先日のお茶会で話題に出たエアリアルボードのような乗り物を、闇魔法で作り上げてしまったのだ。もしかしたら、プルネは天才かもしれない。
 今はブランチェスカの家にやって来て、そこで闇の乗り物のお披露目をしているところなのだ。
 ただ、大きさとしては人一人が乗れる程度の大きさで、全員で移動するというにはまったく足りなかった。
「シャドウボードと名付けましょうかね、シアン様」
「え、ええ。それでいいと思いますよ」
 安直なネーミングではあるものの、風属性のエアリアルボードもほぼそのままなので問題ないと思われる。
「現状はプルネ様だけの魔法ですのね。素晴らしいですわ」
「えへへへ……」
 ブランチェスカが褒めると、プルネはものすごく照れて恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「むぅぅ……、風魔法の使い手としては、私も負けていられませんね。お母様たち同様にエアリアルボードをマスターしませんと」
「ファイト、です」
 プルンとブランチェスカに励まされるシアンだった。
 庭に移って練習をするものの、シアンが最も得意とするのは水魔法。なかなかうまくいくことはなかった。
「はぁ、風魔法のモスグリネの生まれですのに、どうしてできませんのかしら……」
 風は集められるものの、それが形になることはなかった。ただ風が渦巻いているだけで、とても上に物を乗せられるような状態ではなかった。
「だ、大丈夫ですよ、シアン様。きっといつかできるようになりますって」
 プルネが拳を握りながらシアンを励ましている。
 その様子を困った顔で見ているブランチェスカである。
「いっそのこと、シアン様の得意な属性で作られてみてはどうでしょうかね。一つできてしまえば応用が利くかもしれませんし」
「それよ、ブランチェスカ様!」
 苦言を呈すブランチェスカに、プルネが大声で食いついてくる。思わずびびって身を引いてしまうブランチェスカだった。
「水属性がお得意なのでしたら、水属性でやればいいんです。早速やっちゃいましょう」
「そんな軽いノリでいいのですかね……」
 顔をずいっと近付けてくるプルネに、シアンが珍しくたじろいでいる。自分ができたということもあって、そこそこ調子に乗っているようだった。
 とはいえ、試してみる価値はありそうだ。
 チェリシアの受け売りではないが、自分たちの周りに存在している空気の中には、水蒸気という形で水分が存在している。
 言ってしまえば水も宙に浮けるという話になる。ならば、水を集めたものでも宙に浮けるのではないか、そういう考えに至ったのだ。
 シアンは集中して、目の前に自分の魔力を集めていく。最も得意な属性である水の魔法。それをトレイのような形に固めるようにイメージするのだ。
 やがて、水の塊となったシアンの魔力が、その目の前でぐにゃぐにゃと形を変えていく。
(もう少し……。意識を集中させるのですよ)
 今のままではただの水のクッションでしかない。しかも、そのまま中に入りこめてしまいそうな感じの柔軟性だ。乗り物にしてもクッションにしても、中に潜れてしまっては意味がない。シアンはさらに意識を集中させていく。
 結局、この日のシアンは水の乗り物を完成させることはできなかった。どうしても中に落ち込まないための膜が作れなかったのだ。
 プルネに後れを取ってしまったことに地味にショックを受けながら、シアンは城へと戻っていった。

 食事の際にちらりとその話をペシエラにすると、夕食の後にペシエラの部屋に呼ばれた。一体何の話なのだろうか。
「よく来ましたね、シアン」
「ペシエラ様、一体どのようなご用件なのでしょうか」
 ペシエラに呼ばれたシアンは、緊張した面持ちでペシエラを見ている。
 質問に答えることなくペシエラはシアンとの間に距離を取っていく。そして、すぐさまなにやら魔法を発動させていた。
 ペシエラの目の前にエアリアルボードが出現する。
「こういうものを作ろうというわけですわよね?」
 ペシエラの質問に、黙ったままこくりと頷くシアン。
 次の瞬間、ペシエラの目の前のエアリアルボードは消え、続けて水の円盤が出現した。
「さしずめ、アクアボードといったところでしょうかね。さすがのわたくしでも、水魔法で乗り物を作るのは少し厳しいですわね」
 そうは言うものの、ペシエラはいとも簡単に水魔法で乗り物を作ってしまっていた。これが才能の差なのか。
「触ってごらんなさい」
「はい、お言葉に甘えさせて頂きます」
 ペシエラの作り出した水の塊を、おそるおそる触るシアン。ぷにぷにとした感触と、ひんやりとした心地よさを兼ね備えた、とんでもないものだった。
「冷たくて気持ちいい……」
「ふむ、冷たいのであれば冬にはちょっと不向きかもしれませんわね。そこは要改善といったところですわね」
 シアンの感想を聞いて、ペシエラはちょっと考え込んでいた。
「ペシエラ様、ありがとうございました。私、頑張ってみます」
「ええ、参考になったのであるならよかったですわ」
 シアンは一礼して自分の部屋へと戻っていった。
 シアンを見送ったペシエラは、楽しそうにくすくすと笑いながらしばらくたたずんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...