逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第111話 闇属性の可能性

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 学園祭も無事に終わる。
 結局、武術大会はアッシュとガーネットによる決勝戦。激しい打ち合いを展開するも、今年もアッシュが優勝。この時代の最強学生として名前を刻み、学園を卒業することになりそうだった。
 ガーネットは結局永遠の二番手に甘んじてしまったが、彼女の戦いっぷりは目を見張るものがあった。その戦いっぷりには、あのペシエラも気に入っているようなので、おそらく学園卒業後には騎士団に召し上げられる可能性が高いだろう。

 そんなこんなで学園祭が終わった直後のお休みの日。
 シアンはブランチェスカに誘われて、クロッツ子爵邸をプルネと一緒に訪れていた。
「お待ちしておりました、シアン王女殿下、プルネ様」
 十三歳の乙女らしく、しっかりとした淑女の挨拶をするブランチェスカ。
「ブランチェスカ、そんなに改まらなくてもいいのですよ。私たちの仲ではありませんか」
「いいえ、ここは屋敷の門でございます。誰が見ているのか分かりませんので、堅苦しくても体裁を整えねばならないのです」
 ブランチェスカからまともな言い分を聞かされて、思わずうっとなってしまうシアンである。
 門でのやり取りを終えて、クロッツ子爵邸の庭へと移動していく。
 王都の中の屋敷とはいえども、貴族のものとなれば当然ながら大きい。隣近所には別の貴族の屋敷が建ち並ぶものの、庭園の四阿からは隣の屋敷が見えるような状態ではなかった。
 今日は天気がいいので、そのまま外でのお茶会となった。
「初めての学園祭、実に大成功でしたわ」
 ブランチェスカがようようと話を切り出している。
 話を聞いてみれば、クラスで出していた小物屋さんが大盛況だったようだ。
「シアン様たちがいらした後からはがらりと評判が変わりましたもの。魔法で作った彫刻はそれはとても褒めて頂けましたからね」
 ブランチェスカは手を組んで頬に当てながら、それは陶酔したかのようにぺらぺらと話し込んでいる。よっぽど嬉しかったのだろう。
「魔法で彫刻を作るというのは、私たちにしてみれば真新しい発想でした。それに、ちゃんとした彫刻を作ろうとすれば、魔法を制御しなければいけませんから、いい勉強だといってみんな楽しそうにしていましたよ」
「なるほどですね」
 ブランチェスカの話に、シアンは紅茶を一口含んでいる。
「私の魔法でも彫刻ってできたりするのかな」
 プルネも紅茶を口に含んでから、そんな事をぽつりと呟いている。
「闇魔法は何かと忌み嫌われますけど、自由度では他の属性に比べて負けていないと思いますよ」
 シアンは前世の魔法使い一家の知識と合わせて、プルネにそのように話す。
 実際に闇属性というものはかなり嫌われる傾向にある。
 理由としては、暗殺者のような者たちが使う能力が闇属性の技能である点。次に魔物たちも多くは闇属性を有していること。そしてなによりも、厄災の暗龍の存在が大きかった。
 ロゼリア、チェリシア、ペシエラの手で倒された厄災の暗龍だが、彼が長きにわたって行ってきた破壊行為の数々はいまだに根強い印象を残している。その厄災の暗龍が、今や四児の父親で王国の一貴族をしているなど、誰が想像できようか。
「お母様の使うエアリアルボードのようなものも、闇魔法でも作れると思うのですよね」
「できますでしょうか」
「やってみるといいと思いますよ。風魔法だってそもそも形がありませんから、同じ要領で行けるのではないでしょうか」
 シアンが提案したエアリアルボードの闇属性版。プルネは流れで作ることになってしまった。
 というわけで、元となるエアリアルボードをシアンが頑張って再現してみる。今では一部の兵士たちも作れるエアリアルボードなので、シアンもできないことはないはずだ。
 まずは地面に風を集めていく。集まった風の密度を上げて、人を乗せられる程度の状態に固めていく。
「むむ……、難しいですね」
 シアンの顔に焦りの色が見えてくる。
「なるほど、こうやるんですね」
 その隣で、プルネが魔法を使い始める。使っているのは単純に闇を集めるだけの魔法の『ダークネス』のようだ。
 ところが、プルネはそのダークネスを器用に扱って固めていく。
「あ、できました」
 あっという間に闇の円盤ができてしまっていた。大きさとしては、使用人がよく使うトレイくらいの大きさだった。
「とりあえず何かを乗せてみましょうか」
 自分の魔法を中断したシアンは、紅茶の受け皿を持ってくる。おそるおそる乗せてみると、紅茶のお皿は無事に闇の塊の上に乗ったのだった。
「すごいわ。ちょっと見本を見せただけでできるだなんて。プルネには才能があるんじゃないかしら」
「そ、そうでしょうか」
 闇の円盤を驚きとともに見ているシアンは、プルネの才能に驚いている。
「でも、これは当面秘密かしらね。国王陛下とペシエラ様には報告させてもらうけれど、当面は私たちだけの秘密の方はいいわ」
「分かりました。私も誰にも話しません」
 シアンの言葉を受けて、ブランチェスカは強く頷いていた。
「これを練習するにしても、できるだけ私たちだけの時がいいでしょうね。さっきも言いました通り、闇属性への偏見はまだ根強いですから」
 シアンがそう言いながらプルネを見ると、プルネもこくりと頷いて了承していた。
 思わぬプルネの才能に驚かされたものの、この日のお茶会は楽しく終わることができたのだった。
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