逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
479 / 731
新章 青色の智姫

第110話 ペシエラによる事情聴取

しおりを挟む
「シアン、ちょっといいかしら」
 学園祭三日目を終えて、シアンはペシエラから声を掛けられる。
「これは、ペシエラ様。いかがなさいましたでしょうか」
 王女としてしっかりと淑女の挨拶をするシアン。長らくメイドをしていたものの、さすが十三年間の王女生活でしっかり仕草を修正されていた。
「ここで立ち話もなんですから、わたくしの部屋においでなさいな」
「はい。では、お邪魔させて頂きます」
 シアンはペシエラの呼び掛けに応じて、ペシエラの私室へと移動していく。もちろん、シアンの侍女であるスミレも同行している。
 自室に戻ってきたペシエラは、どういうわけか自分の侍女は部屋から退室させている。今、部屋の中にはペシエラ、シアン、スミレの三人がいることになる。
「あの、ペシエラ様。これは一体どういうことでしょうか……」
 シアンはペシエラの読みあぐねて、その意図をわざわざ確認している。なにせ、わざわざ自分の侍女を部屋から退出させたのだから。
「人に聞かれるわけにはいけませんもの。この話はシアン王女とその侍女スミレとの間でしかできませんからね」
「それはどういう?」
 ますます事情をのみ込めなくなったシアンが、ペシエラにもう一度確認する。
 ペシエラは扇で口元を隠しているが、その動きを見れば失望のため息をついているように思える。
「我が息子ライトと娘ダイアが半年もしないうちに学園に通うのですよ? 現状を確認するのは当然ではなくて?」
 少々何かの感情が混ざったような声で話をするペシエラ。その雰囲気に、シアンはつい飲み込まれてしまう。
「でしたら、プルネ様やフューシャ様でもよろしくないでしょうか。わざわざ私である必要……、ひっ!」
 言い訳がましく話をするシアンが、つい悲鳴を上げてしまう。ペシエラが怒っているのだ。ぎろりとした鋭い視線が、シアンへと注がれる。
「本気で仰いまして?」
 ペシエラの声が重苦しく、鋭く響き渡る。
「義理の姉の娘とはいえ、コーラル伯爵家はアイヴォリーの一貴族に過ぎませんわ。ですので、わたくしがわざわざ呼びつけるわけには参りませんの」
 シアンの後ろのスミレも、ペシエラの放つオーラに震えている。幻獣すらをも圧倒する気迫の持ち主。それがペシエラ・コーラル・アイヴォリーなのだ。
「学園に通う貴族数名から無作為に選ぶならまだしも、特定の家だけというのはよろしくありませんわ」
 扇をぴしゃりと閉めるペシエラ。
「ですので、周りに気を遣う必要のないシアンを呼び立てたわけですわ」
 なるほど納得の理由だと、シアンはようやく理由が腑に落ちた。
 呼吸を整えて、シアンはペシエラと正面から向かい合う。
 前世でロゼリアの後ろでじっと見ていた時とは違い、今回は自分が矢面なのだ。シアンはごくりと息を飲んでしまう。
 もう一度深呼吸をしたシアンは、いよいよペシエラとの会話に臨む。
 内容としては、ここまでの学園生活の印象の聞き取りという感じだった。
 さすがに自分たちの子どもたちが通うとあって、直近の情報は重要とみているのだろう。シアンが話す内容にしっかりと耳を傾けて聞き入っていた。

「ええ、このくらいでよろしいでしょうかね。長々と助かりましたわ、シアン」
「い、いえ。私でお役に立てたのでしたら、幸いでございます」
 顔を向けて安心したような笑顔を見せるペシエラ。シアンは深く頭を下げて応えている。
「教師陣を呼んで話を聞くのもよろしいですけれど、現役学生の声を聞けるというのはやはりよろしいですわね」
 ペシエラの言葉にほっとするシアンの後ろでは、一体何のために呼ばれて滞在させられていたのか分からないスミレが目を泳がせていた。
「あなたからも何か話があるのかしらね、スミレ」
「い、いえ。私は学園には出向いておりませんので、これといって何も言うことはございません」
 ペシエラに話し掛けられたので、内心ドキッとしながら淡々と答えるスミレ。
「そうかしらね。学園から戻ってきた時のシアンの様子などでもよろしいですのよ? 学園帰りの子どもたちのケアの参考にはなるでしょうからね」
「お言葉ではございますが、どう感じられているかは王妃殿下がご自身で体験済みなのでは?」
「本気でいっていますの?」
 笑顔だが圧が強い。うっと言葉を詰まらせてしまうスミレである。
「わたくしの場合、ロゼリアがいましたし、なによりあの強烈なお姉様がいましたのよ? 参考になると思いまして?」
「……確かにでございますね」
 チェリシアのことを頭に浮かべて、すんなり納得ができてしまうシアンとスミレである。そのくらいにチェリシアというのは型にはまらないとんでも令嬢だったのだ。
 あの自由気ままなチェリシアを相手にしていたら、そりゃもうまともに悩んでいる暇がないというか吹き飛んでいきそうだった。
 シアンとスミレは顔を見合わせると、やむなく普段の自分たちのやり取りを話すことにしたのだった。もちろん、時戻りや転生に絡んだ話は伏せた上でだ。
「ええ、ありがとう。参考になりそうですわね」
 ちゃんと正直に話すと、ペシエラは今度はにこにことした笑顔を向けてきていた。
「シアン」
「はい、ペシエラ様」
「何か問題があれば、すぐに報告なさいね。ペイル様とロゼリアの代わりだと思って、頼って下さいませ」
「ありがとう存じます」
 話が終わり、シアンとスミレはペシエラの部屋を去っていく。
 そして、自室に戻った二人は、一気に気が抜けたように机に突っ伏してしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...