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新章 青色の智姫
第110話 ペシエラによる事情聴取
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「シアン、ちょっといいかしら」
学園祭三日目を終えて、シアンはペシエラから声を掛けられる。
「これは、ペシエラ様。いかがなさいましたでしょうか」
王女としてしっかりと淑女の挨拶をするシアン。長らくメイドをしていたものの、さすが十三年間の王女生活でしっかり仕草を修正されていた。
「ここで立ち話もなんですから、わたくしの部屋においでなさいな」
「はい。では、お邪魔させて頂きます」
シアンはペシエラの呼び掛けに応じて、ペシエラの私室へと移動していく。もちろん、シアンの侍女であるスミレも同行している。
自室に戻ってきたペシエラは、どういうわけか自分の侍女は部屋から退室させている。今、部屋の中にはペシエラ、シアン、スミレの三人がいることになる。
「あの、ペシエラ様。これは一体どういうことでしょうか……」
シアンはペシエラの読みあぐねて、その意図をわざわざ確認している。なにせ、わざわざ自分の侍女を部屋から退出させたのだから。
「人に聞かれるわけにはいけませんもの。この話はシアン王女とその侍女スミレとの間でしかできませんからね」
「それはどういう?」
ますます事情をのみ込めなくなったシアンが、ペシエラにもう一度確認する。
ペシエラは扇で口元を隠しているが、その動きを見れば失望のため息をついているように思える。
「我が息子ライトと娘ダイアが半年もしないうちに学園に通うのですよ? 現状を確認するのは当然ではなくて?」
少々何かの感情が混ざったような声で話をするペシエラ。その雰囲気に、シアンはつい飲み込まれてしまう。
「でしたら、プルネ様やフューシャ様でもよろしくないでしょうか。わざわざ私である必要……、ひっ!」
言い訳がましく話をするシアンが、つい悲鳴を上げてしまう。ペシエラが怒っているのだ。ぎろりとした鋭い視線が、シアンへと注がれる。
「本気で仰いまして?」
ペシエラの声が重苦しく、鋭く響き渡る。
「義理の姉の娘とはいえ、コーラル伯爵家はアイヴォリーの一貴族に過ぎませんわ。ですので、わたくしがわざわざ呼びつけるわけには参りませんの」
シアンの後ろのスミレも、ペシエラの放つオーラに震えている。幻獣すらをも圧倒する気迫の持ち主。それがペシエラ・コーラル・アイヴォリーなのだ。
「学園に通う貴族数名から無作為に選ぶならまだしも、特定の家だけというのはよろしくありませんわ」
扇をぴしゃりと閉めるペシエラ。
「ですので、周りに気を遣う必要のないシアンを呼び立てたわけですわ」
なるほど納得の理由だと、シアンはようやく理由が腑に落ちた。
呼吸を整えて、シアンはペシエラと正面から向かい合う。
前世でロゼリアの後ろでじっと見ていた時とは違い、今回は自分が矢面なのだ。シアンはごくりと息を飲んでしまう。
もう一度深呼吸をしたシアンは、いよいよペシエラとの会話に臨む。
内容としては、ここまでの学園生活の印象の聞き取りという感じだった。
さすがに自分たちの子どもたちが通うとあって、直近の情報は重要とみているのだろう。シアンが話す内容にしっかりと耳を傾けて聞き入っていた。
「ええ、このくらいでよろしいでしょうかね。長々と助かりましたわ、シアン」
「い、いえ。私でお役に立てたのでしたら、幸いでございます」
顔を向けて安心したような笑顔を見せるペシエラ。シアンは深く頭を下げて応えている。
「教師陣を呼んで話を聞くのもよろしいですけれど、現役学生の声を聞けるというのはやはりよろしいですわね」
ペシエラの言葉にほっとするシアンの後ろでは、一体何のために呼ばれて滞在させられていたのか分からないスミレが目を泳がせていた。
「あなたからも何か話があるのかしらね、スミレ」
「い、いえ。私は学園には出向いておりませんので、これといって何も言うことはございません」
ペシエラに話し掛けられたので、内心ドキッとしながら淡々と答えるスミレ。
「そうかしらね。学園から戻ってきた時のシアンの様子などでもよろしいですのよ? 学園帰りの子どもたちのケアの参考にはなるでしょうからね」
「お言葉ではございますが、どう感じられているかは王妃殿下がご自身で体験済みなのでは?」
「本気でいっていますの?」
笑顔だが圧が強い。うっと言葉を詰まらせてしまうスミレである。
「わたくしの場合、ロゼリアがいましたし、なによりあの強烈なお姉様がいましたのよ? 参考になると思いまして?」
「……確かにでございますね」
チェリシアのことを頭に浮かべて、すんなり納得ができてしまうシアンとスミレである。そのくらいにチェリシアというのは型にはまらないとんでも令嬢だったのだ。
あの自由気ままなチェリシアを相手にしていたら、そりゃもうまともに悩んでいる暇がないというか吹き飛んでいきそうだった。
シアンとスミレは顔を見合わせると、やむなく普段の自分たちのやり取りを話すことにしたのだった。もちろん、時戻りや転生に絡んだ話は伏せた上でだ。
「ええ、ありがとう。参考になりそうですわね」
ちゃんと正直に話すと、ペシエラは今度はにこにことした笑顔を向けてきていた。
「シアン」
「はい、ペシエラ様」
「何か問題があれば、すぐに報告なさいね。ペイル様とロゼリアの代わりだと思って、頼って下さいませ」
「ありがとう存じます」
話が終わり、シアンとスミレはペシエラの部屋を去っていく。
そして、自室に戻った二人は、一気に気が抜けたように机に突っ伏してしまったのだった。
学園祭三日目を終えて、シアンはペシエラから声を掛けられる。
「これは、ペシエラ様。いかがなさいましたでしょうか」
王女としてしっかりと淑女の挨拶をするシアン。長らくメイドをしていたものの、さすが十三年間の王女生活でしっかり仕草を修正されていた。
「ここで立ち話もなんですから、わたくしの部屋においでなさいな」
「はい。では、お邪魔させて頂きます」
シアンはペシエラの呼び掛けに応じて、ペシエラの私室へと移動していく。もちろん、シアンの侍女であるスミレも同行している。
自室に戻ってきたペシエラは、どういうわけか自分の侍女は部屋から退室させている。今、部屋の中にはペシエラ、シアン、スミレの三人がいることになる。
「あの、ペシエラ様。これは一体どういうことでしょうか……」
シアンはペシエラの読みあぐねて、その意図をわざわざ確認している。なにせ、わざわざ自分の侍女を部屋から退出させたのだから。
「人に聞かれるわけにはいけませんもの。この話はシアン王女とその侍女スミレとの間でしかできませんからね」
「それはどういう?」
ますます事情をのみ込めなくなったシアンが、ペシエラにもう一度確認する。
ペシエラは扇で口元を隠しているが、その動きを見れば失望のため息をついているように思える。
「我が息子ライトと娘ダイアが半年もしないうちに学園に通うのですよ? 現状を確認するのは当然ではなくて?」
少々何かの感情が混ざったような声で話をするペシエラ。その雰囲気に、シアンはつい飲み込まれてしまう。
「でしたら、プルネ様やフューシャ様でもよろしくないでしょうか。わざわざ私である必要……、ひっ!」
言い訳がましく話をするシアンが、つい悲鳴を上げてしまう。ペシエラが怒っているのだ。ぎろりとした鋭い視線が、シアンへと注がれる。
「本気で仰いまして?」
ペシエラの声が重苦しく、鋭く響き渡る。
「義理の姉の娘とはいえ、コーラル伯爵家はアイヴォリーの一貴族に過ぎませんわ。ですので、わたくしがわざわざ呼びつけるわけには参りませんの」
シアンの後ろのスミレも、ペシエラの放つオーラに震えている。幻獣すらをも圧倒する気迫の持ち主。それがペシエラ・コーラル・アイヴォリーなのだ。
「学園に通う貴族数名から無作為に選ぶならまだしも、特定の家だけというのはよろしくありませんわ」
扇をぴしゃりと閉めるペシエラ。
「ですので、周りに気を遣う必要のないシアンを呼び立てたわけですわ」
なるほど納得の理由だと、シアンはようやく理由が腑に落ちた。
呼吸を整えて、シアンはペシエラと正面から向かい合う。
前世でロゼリアの後ろでじっと見ていた時とは違い、今回は自分が矢面なのだ。シアンはごくりと息を飲んでしまう。
もう一度深呼吸をしたシアンは、いよいよペシエラとの会話に臨む。
内容としては、ここまでの学園生活の印象の聞き取りという感じだった。
さすがに自分たちの子どもたちが通うとあって、直近の情報は重要とみているのだろう。シアンが話す内容にしっかりと耳を傾けて聞き入っていた。
「ええ、このくらいでよろしいでしょうかね。長々と助かりましたわ、シアン」
「い、いえ。私でお役に立てたのでしたら、幸いでございます」
顔を向けて安心したような笑顔を見せるペシエラ。シアンは深く頭を下げて応えている。
「教師陣を呼んで話を聞くのもよろしいですけれど、現役学生の声を聞けるというのはやはりよろしいですわね」
ペシエラの言葉にほっとするシアンの後ろでは、一体何のために呼ばれて滞在させられていたのか分からないスミレが目を泳がせていた。
「あなたからも何か話があるのかしらね、スミレ」
「い、いえ。私は学園には出向いておりませんので、これといって何も言うことはございません」
ペシエラに話し掛けられたので、内心ドキッとしながら淡々と答えるスミレ。
「そうかしらね。学園から戻ってきた時のシアンの様子などでもよろしいですのよ? 学園帰りの子どもたちのケアの参考にはなるでしょうからね」
「お言葉ではございますが、どう感じられているかは王妃殿下がご自身で体験済みなのでは?」
「本気でいっていますの?」
笑顔だが圧が強い。うっと言葉を詰まらせてしまうスミレである。
「わたくしの場合、ロゼリアがいましたし、なによりあの強烈なお姉様がいましたのよ? 参考になると思いまして?」
「……確かにでございますね」
チェリシアのことを頭に浮かべて、すんなり納得ができてしまうシアンとスミレである。そのくらいにチェリシアというのは型にはまらないとんでも令嬢だったのだ。
あの自由気ままなチェリシアを相手にしていたら、そりゃもうまともに悩んでいる暇がないというか吹き飛んでいきそうだった。
シアンとスミレは顔を見合わせると、やむなく普段の自分たちのやり取りを話すことにしたのだった。もちろん、時戻りや転生に絡んだ話は伏せた上でだ。
「ええ、ありがとう。参考になりそうですわね」
ちゃんと正直に話すと、ペシエラは今度はにこにことした笑顔を向けてきていた。
「シアン」
「はい、ペシエラ様」
「何か問題があれば、すぐに報告なさいね。ペイル様とロゼリアの代わりだと思って、頼って下さいませ」
「ありがとう存じます」
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そして、自室に戻った二人は、一気に気が抜けたように机に突っ伏してしまったのだった。
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