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新章 青色の智姫
第116話 チェリシアのよく分からない魔法講座
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後日、王城にチェリシアが遊びに来た。
「あら、お姉様。何の御用ですかしら」
チェリシアは迷いなくペシエラの部屋にやって来る。
この日のペシエラはシルヴァノと仕事を分担しており、書類の束とにらめっこをしていた。
「シアンちゃんに用事があって来たのよ。どこにいるか知ってる?」
「まったく、お姉様は言葉遣いを少し改められては? ここはお姉様が元居た世界とは違うのですよ?」
「分かってるけど、私たちだけじゃないの。堅苦しいこと言わないの」
へらへら笑いながら手をパタパタとさせるチェリシア。その姿にため息が出てしまうペシエラである。
本当に、チェリシアは自由なままだった。貴族としての教養は確かに身につけているが、見ていないところでは前世のどこか自由なところが出てしまうのだ。特にペシエラの前では。
「はぁ、お姉様は相変わらずですわね。それはそれとして、シアンに何の用なのですかしら」
「魔法のことでちょっとアドバイスをね。なんか悩んでるみたいな事を聞いたから、私からもちょっとアドバイスをしてあげようと思うのよ」
チェリシアは一体どこから聞きつけたのか。多分、プルネからアイリスに渡り、そこから耳に入ったのだろう。
とはいえ、チェリシアはさすがに前世の知識があることもあってか、こちらの世界の概念にとらわれない自由な発想を持っている。エアリアルボードにしても写真にしても、この世界の人間であれば思いつかなかったものばかりなのだから。
「分かりましたわよ。今日のこの時間でしたら学園から戻ってきたところですし、部屋にいると思いますわ」
諦めたペシエラが答えると、チェリシアは嬉しそうに反応している。
「そっか。それじゃ部屋まで向かわせてもらおうかしらね」
「お姉様」
部屋を出て行こうとするチェリシアに声を掛けるペシエラ。
「何かな、ペシエラ」
「あまり変なことを吹き込まないで下さいませ」
「もう、なによ。私もそこまで常識なしじゃないんだからね」
チェリシアは抗議をしながらも扉の方へと向かって歩いていく。
「ありがと、ペシエラ。お仕事頑張ってね」
「お姉様もよ。ちゃんと侯爵夫人と商会の副会長の仕事をして下さいませ」
「あはは、本当にペシエラってば厳しいんだから。それじゃあね」
笑顔で手を振りながら、チェリシアは部屋を出て行った。
ペシエラは書類を目の前にため息をつくことしかできなかったのだった。
ペシエラの部屋からシアンの部屋へと移動してきたチェリシアは、外にいる兵士に声を掛ける。
さすがに女王の姉ともなれば信用があるのか、あっさりと顔パスである。
ノックをして部屋の中に入ったチェリシアは、気さくにシアンに声を掛ける。
「はーい、シアンちゃん。元気してるかしら」
「チェリシア様。どうなさったのですか、今日は」
学園帰りでくつろいでいたシアンは、ガタガタと立ち上がってチェリシアを迎える。
「魔法を頑張っているみたいだしね、私からもちょっと面白いことを伝えに来たのよ。少しいいかしらね」
「は、はい。どうぞこちらにお構いなく」
チェリシアの言葉を受けて、シアンは自分の席の隣へと案内する。チェリシアはお言葉に甘えてシアンの隣に座る。
「どうかしら、魔法の練習は」
「はい。複合属性というものを覚えたので、あれこれと練習しているところです」
「ああ、そんなのをやっているのね。ちょっとやってみてもらってもいいかしらね」
「はい、分かりました」
シアンは立ち上がって、土魔法の円盤に風魔法を作用させて宙に浮いてみせた。
「なるほど、分かったわ」
チェリシアが納得しているので、シアンは魔法を消す。出すのも消すのもだいぶ慣れたようだ。
「なるほど、複合というよりは同時発動ってところかしらね。そっか、そういう発想もあったわね」
腕を組みながらうんうんと頷くチェリシアである。
「そうそう、今日私がやって来たのは、ちょっと面白いことをするためよ。ちょっと見ていてちょうだい」
チェリシアの言葉にシアンはきょとんとした表情を見せる。チェリシアはそれに構わず、土魔法で器を出して、そこに水魔法の水を注ぎこんだ。
「シアンちゃん、これをお湯にすることはできるかしら」
「いえ、無理ですね。火魔法がなければ、温められませんよね?」
チェリシアの質問に、シアンはそう答える。ところが、チェリシアは人差し指を左右に振って舌を鳴らしている。
「温められるんだよねぇ、火魔法がなくても魔力さえあれば」
「え?」
チェリシアはそれを実演してみせる。
しばらくすると、土魔法の器の中の水が小刻みに振動を始める。チェリシアが魔力を加えて震わせているのである。
そこからさらに振動させ続けると、水はぼこぼこと泡立ってお湯へと変わってしまったのだった。
「手をかざしてみて?」
「わぁ、温かいですね」
シアンは驚いた。確かに火魔法が発動した様子はないのに、水が温まってしまったのだ。
「魔力で水分子を激しく振動させて、熱エネルギーを発生させたのよ」
「水分子? 熱エネルギー?」
よく分からない単語に、シアンは首を捻るばかりである。
「まぁ理屈が分からなくても、水に魔力をぶつけてお湯を沸かせるくらいに覚えておけばいいわよ。覚えておけば役に立つ時はあるだろうから」
「は、はぁ……。チェリシア様がそう仰られるのでしたら」
よく分からなくて、気の抜けた返事になるシアンだった。
しばらくの間、チェリシアによるよく分からない講座を聞かされたシアンは、チェリシアが帰る頃にはへとへとになっていた。
「こ、こんな知識、本当に役に立つのかしらね」
チェリシアが帰った後、ぐったりとしたシアンはソファの上に横になって休んだのだった。
「あら、お姉様。何の御用ですかしら」
チェリシアは迷いなくペシエラの部屋にやって来る。
この日のペシエラはシルヴァノと仕事を分担しており、書類の束とにらめっこをしていた。
「シアンちゃんに用事があって来たのよ。どこにいるか知ってる?」
「まったく、お姉様は言葉遣いを少し改められては? ここはお姉様が元居た世界とは違うのですよ?」
「分かってるけど、私たちだけじゃないの。堅苦しいこと言わないの」
へらへら笑いながら手をパタパタとさせるチェリシア。その姿にため息が出てしまうペシエラである。
本当に、チェリシアは自由なままだった。貴族としての教養は確かに身につけているが、見ていないところでは前世のどこか自由なところが出てしまうのだ。特にペシエラの前では。
「はぁ、お姉様は相変わらずですわね。それはそれとして、シアンに何の用なのですかしら」
「魔法のことでちょっとアドバイスをね。なんか悩んでるみたいな事を聞いたから、私からもちょっとアドバイスをしてあげようと思うのよ」
チェリシアは一体どこから聞きつけたのか。多分、プルネからアイリスに渡り、そこから耳に入ったのだろう。
とはいえ、チェリシアはさすがに前世の知識があることもあってか、こちらの世界の概念にとらわれない自由な発想を持っている。エアリアルボードにしても写真にしても、この世界の人間であれば思いつかなかったものばかりなのだから。
「分かりましたわよ。今日のこの時間でしたら学園から戻ってきたところですし、部屋にいると思いますわ」
諦めたペシエラが答えると、チェリシアは嬉しそうに反応している。
「そっか。それじゃ部屋まで向かわせてもらおうかしらね」
「お姉様」
部屋を出て行こうとするチェリシアに声を掛けるペシエラ。
「何かな、ペシエラ」
「あまり変なことを吹き込まないで下さいませ」
「もう、なによ。私もそこまで常識なしじゃないんだからね」
チェリシアは抗議をしながらも扉の方へと向かって歩いていく。
「ありがと、ペシエラ。お仕事頑張ってね」
「お姉様もよ。ちゃんと侯爵夫人と商会の副会長の仕事をして下さいませ」
「あはは、本当にペシエラってば厳しいんだから。それじゃあね」
笑顔で手を振りながら、チェリシアは部屋を出て行った。
ペシエラは書類を目の前にため息をつくことしかできなかったのだった。
ペシエラの部屋からシアンの部屋へと移動してきたチェリシアは、外にいる兵士に声を掛ける。
さすがに女王の姉ともなれば信用があるのか、あっさりと顔パスである。
ノックをして部屋の中に入ったチェリシアは、気さくにシアンに声を掛ける。
「はーい、シアンちゃん。元気してるかしら」
「チェリシア様。どうなさったのですか、今日は」
学園帰りでくつろいでいたシアンは、ガタガタと立ち上がってチェリシアを迎える。
「魔法を頑張っているみたいだしね、私からもちょっと面白いことを伝えに来たのよ。少しいいかしらね」
「は、はい。どうぞこちらにお構いなく」
チェリシアの言葉を受けて、シアンは自分の席の隣へと案内する。チェリシアはお言葉に甘えてシアンの隣に座る。
「どうかしら、魔法の練習は」
「はい。複合属性というものを覚えたので、あれこれと練習しているところです」
「ああ、そんなのをやっているのね。ちょっとやってみてもらってもいいかしらね」
「はい、分かりました」
シアンは立ち上がって、土魔法の円盤に風魔法を作用させて宙に浮いてみせた。
「なるほど、分かったわ」
チェリシアが納得しているので、シアンは魔法を消す。出すのも消すのもだいぶ慣れたようだ。
「なるほど、複合というよりは同時発動ってところかしらね。そっか、そういう発想もあったわね」
腕を組みながらうんうんと頷くチェリシアである。
「そうそう、今日私がやって来たのは、ちょっと面白いことをするためよ。ちょっと見ていてちょうだい」
チェリシアの言葉にシアンはきょとんとした表情を見せる。チェリシアはそれに構わず、土魔法で器を出して、そこに水魔法の水を注ぎこんだ。
「シアンちゃん、これをお湯にすることはできるかしら」
「いえ、無理ですね。火魔法がなければ、温められませんよね?」
チェリシアの質問に、シアンはそう答える。ところが、チェリシアは人差し指を左右に振って舌を鳴らしている。
「温められるんだよねぇ、火魔法がなくても魔力さえあれば」
「え?」
チェリシアはそれを実演してみせる。
しばらくすると、土魔法の器の中の水が小刻みに振動を始める。チェリシアが魔力を加えて震わせているのである。
そこからさらに振動させ続けると、水はぼこぼこと泡立ってお湯へと変わってしまったのだった。
「手をかざしてみて?」
「わぁ、温かいですね」
シアンは驚いた。確かに火魔法が発動した様子はないのに、水が温まってしまったのだ。
「魔力で水分子を激しく振動させて、熱エネルギーを発生させたのよ」
「水分子? 熱エネルギー?」
よく分からない単語に、シアンは首を捻るばかりである。
「まぁ理屈が分からなくても、水に魔力をぶつけてお湯を沸かせるくらいに覚えておけばいいわよ。覚えておけば役に立つ時はあるだろうから」
「は、はぁ……。チェリシア様がそう仰られるのでしたら」
よく分からなくて、気の抜けた返事になるシアンだった。
しばらくの間、チェリシアによるよく分からない講座を聞かされたシアンは、チェリシアが帰る頃にはへとへとになっていた。
「こ、こんな知識、本当に役に立つのかしらね」
チェリシアが帰った後、ぐったりとしたシアンはソファの上に横になって休んだのだった。
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