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新章 青色の智姫
第121話 何がそうさせたのか
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「シアンお姉様、私に剣術を教えてください」
学園から戻ったところで、シアンはダイアからこんなお願いをされてしまった。
「それはペシエラ様、あなたのお母様に頼まれることではないのですかね」
あまりにも唐突なダイアからの頼みに、シアンは真顔で返してしまう。
しかも、シアン様だった呼称が、シアンお姉様に変化している。おそらくダイアは意識してはいないだろうが、必死になっているからこそ出てしまった変化なのだろう。
「お母様は忙しいですし、多分教えてもらうにしても厳しいと思います。ですから、シアンお姉様に教えていただきたいんです」
真っすぐな目を向けられて、シアンはなんとなく断れない雰囲気を感じ取っていた。何がここまで彼女を必死にさせるのだろうか。
しばらく、首を捻りながら考えたシアンだったが、結局ダイアの要求を受け入れた。自分も本格的に始めたのは去年からだし、自分より慣れていないダイアを教えていればなにか見えるかもと思ったからだ。
「仕方ありませんね。私もまだまだではありますが、モスグリネの王女としてはそのくらいできませんとね」
「よろしくお願いします」
仕方なく引き受けるシアンに対して、ダイアはしっかりと頭を下げていた。服装もパンツスタイルとやる気は十分のようである。
ドレス姿で剣を振るうのはペシエラだけだろう。ダイアはその辺りを受け継いでいないようで、思わずホッとしてしまうシアンだった。
「それにしても、なぜ急に剣術を?」
剣を教えるにあたって、まずは基本的なことを聞いてみる。
「シアン様が剣を振るっている姿に憧れました。お母様も剣を扱えますし、でしたら私もと思ってしまいまして……」
理由を言いながら少し恥ずかしくなったのか、ダイアは次第にしどろもどろになっていく。
とはいえ、なんとなくとはいえやる気になったことは評価をする。
「訓練場では騎士たちの邪魔になってしまいます。ですので、ここ、庭園で行うこととしましょう。めったに人は来られませんし、いるのはお互いの侍女だけですから外には漏れないと思います」
「はい、よろしくお願いします」
シアンが提案すると、改めてダイアは頭を下げてきた。
「あっ」
頭を上げたダイアが思わず何かを思い出したように声を出す。
「練習するにしても剣がありません」
そう、訓練用に使う木剣がないのである。ダイアはそれを思い出して声を上げてしまったのだ。
「心配ございませんよ。私だって魔法の訓練を積みましたからね」
シアンはそう言いながら土魔法を発動させる。庭園の土の一部が盛り上がり、みるみるその姿を変えていく。
「すごい、土から剣を作ってしまうなんて」
「いろんな方から魔法のやり方を教えていただきましたからね。これくらいならなんとかできるようになりましたわよ」
土から作り出した二振りの剣をぶつけて、シアンはその強度を確認している。いい音が響き渡り、強度は申し分ないようだった。
「形状としては剣というよりは棒切れといった方がよいでしょうけれど、これならぶつけても傷になることはないですね」
そう言いながら、シアンは片方をダイアに手渡す。
「危ないと思ったら止めて下さいね、スミレ」
「承知致しました。ですが、王女であられる以上、お二方とも無理はなさらないで下さい」
「もちろんですよ。それに最初から打ち合うわけではありませんからね」
シアンはダイアから少し離れて立つと、ダイアとは向かい合わず何もない方向を向いていた。
「少し素振りをしてみましょう。まずは慣れなければなりません。いきなり振り回して、すっぽ抜けては危ないでしょう?」
「そうですね」
ダイアはシアンに合わせて一緒に剣を振り始める。
シアンは正直なところ不安ではあったが、さすがは学園の武術大会でいいところまで勝ち進んだペシエラの娘といったところだった。
(さすがはペシエラ様とシルヴァノ陛下の娘ですね。しっかりと背筋を伸ばして鋭く振るえています。これなら、私程度の腕前相手なら、そう時間掛からずに超えられるのでは?)
一緒に剣の素振りを行いながら、シアンはダイアに才能を見出していた。
王女というと基本的に剣を振るうことはないために分かりにくかったが、実際にやらせてみると違った結果が見えてくるというものである。
しかし、さすがに慣れというものは必要なようで、数十回振っていただけでダイアは限界を迎えてしまったようだった。
「う、腕が痺れてきました」
剣の重量はそれほど重くしたつもりはなかったシアンだが、そう話すダイアの腕は、確かに小刻みに震えていた。
「仕方ありませんね、今日はここまでにしましょう。あまり無理をなさると、筋肉痛を起こして日常生活に影響が出てしまいます」
「ええ……、そんなことになってしまうのですね」
「そうでございます。紅茶を飲むのにすらひと苦労となりかねませんからね」
「わ、分かりました。今日のところはここで終わりにいたしましょう」
さすがに王女としての品位に関わりそうだと、ダイアはシアンの忠告を受け入れて、剣の練習の初日は終わったのだった。
ダイアを見送りながら、シアンはスミレに問い掛ける。
「ダイア様は、どうして急に剣の稽古をなさる気になられたのでしょうね」
「シアン様の影響だと思われますよ。学園祭の武術大会のことは耳に入っていらっしゃるでしょうし、学園に入学なさいましたたのでいい機会だと思われたのでしょう」
「そういうものなのでしょうか」
シアンの心境はなんとも複雑なものだった。
こうして、当面の間はシアンがダイアの剣術を見るという日常が続くことになったのである。
学園から戻ったところで、シアンはダイアからこんなお願いをされてしまった。
「それはペシエラ様、あなたのお母様に頼まれることではないのですかね」
あまりにも唐突なダイアからの頼みに、シアンは真顔で返してしまう。
しかも、シアン様だった呼称が、シアンお姉様に変化している。おそらくダイアは意識してはいないだろうが、必死になっているからこそ出てしまった変化なのだろう。
「お母様は忙しいですし、多分教えてもらうにしても厳しいと思います。ですから、シアンお姉様に教えていただきたいんです」
真っすぐな目を向けられて、シアンはなんとなく断れない雰囲気を感じ取っていた。何がここまで彼女を必死にさせるのだろうか。
しばらく、首を捻りながら考えたシアンだったが、結局ダイアの要求を受け入れた。自分も本格的に始めたのは去年からだし、自分より慣れていないダイアを教えていればなにか見えるかもと思ったからだ。
「仕方ありませんね。私もまだまだではありますが、モスグリネの王女としてはそのくらいできませんとね」
「よろしくお願いします」
仕方なく引き受けるシアンに対して、ダイアはしっかりと頭を下げていた。服装もパンツスタイルとやる気は十分のようである。
ドレス姿で剣を振るうのはペシエラだけだろう。ダイアはその辺りを受け継いでいないようで、思わずホッとしてしまうシアンだった。
「それにしても、なぜ急に剣術を?」
剣を教えるにあたって、まずは基本的なことを聞いてみる。
「シアン様が剣を振るっている姿に憧れました。お母様も剣を扱えますし、でしたら私もと思ってしまいまして……」
理由を言いながら少し恥ずかしくなったのか、ダイアは次第にしどろもどろになっていく。
とはいえ、なんとなくとはいえやる気になったことは評価をする。
「訓練場では騎士たちの邪魔になってしまいます。ですので、ここ、庭園で行うこととしましょう。めったに人は来られませんし、いるのはお互いの侍女だけですから外には漏れないと思います」
「はい、よろしくお願いします」
シアンが提案すると、改めてダイアは頭を下げてきた。
「あっ」
頭を上げたダイアが思わず何かを思い出したように声を出す。
「練習するにしても剣がありません」
そう、訓練用に使う木剣がないのである。ダイアはそれを思い出して声を上げてしまったのだ。
「心配ございませんよ。私だって魔法の訓練を積みましたからね」
シアンはそう言いながら土魔法を発動させる。庭園の土の一部が盛り上がり、みるみるその姿を変えていく。
「すごい、土から剣を作ってしまうなんて」
「いろんな方から魔法のやり方を教えていただきましたからね。これくらいならなんとかできるようになりましたわよ」
土から作り出した二振りの剣をぶつけて、シアンはその強度を確認している。いい音が響き渡り、強度は申し分ないようだった。
「形状としては剣というよりは棒切れといった方がよいでしょうけれど、これならぶつけても傷になることはないですね」
そう言いながら、シアンは片方をダイアに手渡す。
「危ないと思ったら止めて下さいね、スミレ」
「承知致しました。ですが、王女であられる以上、お二方とも無理はなさらないで下さい」
「もちろんですよ。それに最初から打ち合うわけではありませんからね」
シアンはダイアから少し離れて立つと、ダイアとは向かい合わず何もない方向を向いていた。
「少し素振りをしてみましょう。まずは慣れなければなりません。いきなり振り回して、すっぽ抜けては危ないでしょう?」
「そうですね」
ダイアはシアンに合わせて一緒に剣を振り始める。
シアンは正直なところ不安ではあったが、さすがは学園の武術大会でいいところまで勝ち進んだペシエラの娘といったところだった。
(さすがはペシエラ様とシルヴァノ陛下の娘ですね。しっかりと背筋を伸ばして鋭く振るえています。これなら、私程度の腕前相手なら、そう時間掛からずに超えられるのでは?)
一緒に剣の素振りを行いながら、シアンはダイアに才能を見出していた。
王女というと基本的に剣を振るうことはないために分かりにくかったが、実際にやらせてみると違った結果が見えてくるというものである。
しかし、さすがに慣れというものは必要なようで、数十回振っていただけでダイアは限界を迎えてしまったようだった。
「う、腕が痺れてきました」
剣の重量はそれほど重くしたつもりはなかったシアンだが、そう話すダイアの腕は、確かに小刻みに震えていた。
「仕方ありませんね、今日はここまでにしましょう。あまり無理をなさると、筋肉痛を起こして日常生活に影響が出てしまいます」
「ええ……、そんなことになってしまうのですね」
「そうでございます。紅茶を飲むのにすらひと苦労となりかねませんからね」
「わ、分かりました。今日のところはここで終わりにいたしましょう」
さすがに王女としての品位に関わりそうだと、ダイアはシアンの忠告を受け入れて、剣の練習の初日は終わったのだった。
ダイアを見送りながら、シアンはスミレに問い掛ける。
「ダイア様は、どうして急に剣の稽古をなさる気になられたのでしょうね」
「シアン様の影響だと思われますよ。学園祭の武術大会のことは耳に入っていらっしゃるでしょうし、学園に入学なさいましたたのでいい機会だと思われたのでしょう」
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こうして、当面の間はシアンがダイアの剣術を見るという日常が続くことになったのである。
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