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新章 青色の智姫
第126話 サファイア湖のほとりで
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シアンは初日の自由時間にサファイア湖を眺めに来ていた。
「やっぱり湖は落ち着きますね」
「はい、不思議とここは落ち着きます」
シアンが呟くと、プルネが同調したように呟いている。
「私は水属性が一番得意ですから、相性がいいのでしょうかね」
「湖がきれいだからだと思いますよ、単純に」
ブランチェスカはシアンの言い分に思わずツッコミを入れてしまう。
サファイア湖はその青色が本当に澄みきっていてきれいなのである。
三人がのんびり湖畔の岩に腰掛けて湖を眺めていると、ざりっという音が聞こえてくる。
「誰?!」
音に真っ先に反応したのはプルネだった。さすがは元暗殺者が身内にいるだけに、気配と音には敏感なのである。
「おっと、驚かせてしまったかな」
「お兄様、ゆっくっり静かに近付こうとするのが間違っております」
声が聞こえてくるのでくるりと振り返る。そこには黒髪が特徴的な一組の男女が立っていた。
「シアンお姉様、私たちもいますよ」
男女の後ろからライトとダイアが顔を覗かせた。なんでぴったり後ろに隠れているのだろうか。
「びっくりさせて悪かったと思うよ。でも、私たちの護衛である彼らを紹介したかったんだ」
ライトはにこにことした笑顔でシアンに謝罪している。
「護衛、ですか?」
ライトの言葉に、シアンはこてんと首を傾ける。
「はい、俺はシキ・ノワールと申します。ライト殿下の護衛を務めており、学園の一年次生です」
「私はルシウ・ノワールと申します。普段は別行動ではございますが、こうして外部に出る時には護衛としてついております。ちなみにシキの双子の妹でございます」
「お初にお目にかかります、シアン王女殿下」
それぞれ紹介が終わると、最後に揃ってシアンに挨拶をしていた。双子らしく声がぴったり揃っていた。
「二人の父親はオフライト・ノワールだ。今では騎士団長を務めているので、剣の腕前は確かだよ」
「はい、私たちはお父様のように立派な騎士になることを目指しております」
「ただ、魔法が少々からっきしなんで、不安なところはございますけれどね」
ルシウが話す目標に対して、しれっと不安点をばらしてしまうシキ。そんな調子で大丈夫なのかと、思わず口角を引きつらせてしまう。
「初めまして、シキ様、ルシウ様。私、プルネ・コーラルと申します。お言葉ではございますが、苦手な点を大っぴらに話されるのは、控えた方がよいと思います。私たちだけですから大丈夫だとは思われますが、いつどこで誰が聞いているのか分かりませんのでね」
さすがは暗殺者の指導を受けてきたプルネである。シキが漏らした不安点の話に、すぐさま苦言を呈していた。
プルネに指導をしてきたキャノルは、元々凄腕の暗殺者だった。その彼女から教えのひとつが、先程の指摘なのである。
その指摘に、シキとルシウは思わず顔を見合わせてしまう。そして、プルネに対して頭を下げてきた。
「確かに、ご指摘の通りですな。これは失礼致しました。以後気をつけます」
「いえいえ、私の家もなにかと機密の多い家ですからね。コーラル伯爵家はみなさまもご存じ通り、マゼンダ商会とは深い関わりがありますから」
頭を下げるシキとルシウに、慌てたように両手を左右に振るプルネである。ここまでさせるつもりはなかったようだ。
やり取りを見ながら、いろいろとシアンは驚いていた。自分のひとつ下に、前世で知っている人たちの子どもたちが在籍していることに。
自分とここまで関わってきた中で、前世で知らない家の子どもはブランチェスカだけという事実である。
アイヴォリー王国の学園だから、アイヴォリー王国の貴族の子女が入ってくるのは当然だ。だが、自分の周りに前世で仕えていた主の同級生の子どもたちが集まってくるのは、そう高い確率ではないはず。
友人であるアイリスの子どもであるフューシャとプルネ。同じく友人であるペシエラの子ども、ライトとダイア。そして、ここにきてオフライトの子どもであるシキとルシウが加わったのである。知り合い三人で子ども六人というのはちょっと意外ではあるが……。
ゆっくりサファイア湖を眺めているつもりだったのだが、ちょっと人が多くなってきてしまった。落ち着くどころじゃない。
シアンは立ち上がって、お尻の汚れを払う。
「さて、日も傾いてきましたし、そろそろお屋敷に戻りましょうか」
シアンの言葉で全員が空を見る。確かに、少しずつ赤みが増してきているような感じがしていた。
「そうですね。そろそろ戻りましょう」
「ですね。合宿は明日から一週間ですし、先は長いですから、備えてゆっくり休みませんと」
全員の意見が一致したので、シアンたちはサファイア湖を離れて、合宿の宿舎となっているアクアマリン子爵の別荘へと戻っていく。
そんな中、シアンだけがくるりと湖の方へと振り返る。
「今年もよろしくお願いしますよ、蒼鱗魚」
ぽそりとシアンが呟くと、サファイア湖の水面が少し揺れた気がした。
「シアン様、置いていってしまいますよ」
「すぐ参りますわ」
プルネに呼ばれて、シアンは小走りで追いかける。
夏の合宿二年目の初日は、静かに暮れていったのだ。
「やっぱり湖は落ち着きますね」
「はい、不思議とここは落ち着きます」
シアンが呟くと、プルネが同調したように呟いている。
「私は水属性が一番得意ですから、相性がいいのでしょうかね」
「湖がきれいだからだと思いますよ、単純に」
ブランチェスカはシアンの言い分に思わずツッコミを入れてしまう。
サファイア湖はその青色が本当に澄みきっていてきれいなのである。
三人がのんびり湖畔の岩に腰掛けて湖を眺めていると、ざりっという音が聞こえてくる。
「誰?!」
音に真っ先に反応したのはプルネだった。さすがは元暗殺者が身内にいるだけに、気配と音には敏感なのである。
「おっと、驚かせてしまったかな」
「お兄様、ゆっくっり静かに近付こうとするのが間違っております」
声が聞こえてくるのでくるりと振り返る。そこには黒髪が特徴的な一組の男女が立っていた。
「シアンお姉様、私たちもいますよ」
男女の後ろからライトとダイアが顔を覗かせた。なんでぴったり後ろに隠れているのだろうか。
「びっくりさせて悪かったと思うよ。でも、私たちの護衛である彼らを紹介したかったんだ」
ライトはにこにことした笑顔でシアンに謝罪している。
「護衛、ですか?」
ライトの言葉に、シアンはこてんと首を傾ける。
「はい、俺はシキ・ノワールと申します。ライト殿下の護衛を務めており、学園の一年次生です」
「私はルシウ・ノワールと申します。普段は別行動ではございますが、こうして外部に出る時には護衛としてついております。ちなみにシキの双子の妹でございます」
「お初にお目にかかります、シアン王女殿下」
それぞれ紹介が終わると、最後に揃ってシアンに挨拶をしていた。双子らしく声がぴったり揃っていた。
「二人の父親はオフライト・ノワールだ。今では騎士団長を務めているので、剣の腕前は確かだよ」
「はい、私たちはお父様のように立派な騎士になることを目指しております」
「ただ、魔法が少々からっきしなんで、不安なところはございますけれどね」
ルシウが話す目標に対して、しれっと不安点をばらしてしまうシキ。そんな調子で大丈夫なのかと、思わず口角を引きつらせてしまう。
「初めまして、シキ様、ルシウ様。私、プルネ・コーラルと申します。お言葉ではございますが、苦手な点を大っぴらに話されるのは、控えた方がよいと思います。私たちだけですから大丈夫だとは思われますが、いつどこで誰が聞いているのか分かりませんのでね」
さすがは暗殺者の指導を受けてきたプルネである。シキが漏らした不安点の話に、すぐさま苦言を呈していた。
プルネに指導をしてきたキャノルは、元々凄腕の暗殺者だった。その彼女から教えのひとつが、先程の指摘なのである。
その指摘に、シキとルシウは思わず顔を見合わせてしまう。そして、プルネに対して頭を下げてきた。
「確かに、ご指摘の通りですな。これは失礼致しました。以後気をつけます」
「いえいえ、私の家もなにかと機密の多い家ですからね。コーラル伯爵家はみなさまもご存じ通り、マゼンダ商会とは深い関わりがありますから」
頭を下げるシキとルシウに、慌てたように両手を左右に振るプルネである。ここまでさせるつもりはなかったようだ。
やり取りを見ながら、いろいろとシアンは驚いていた。自分のひとつ下に、前世で知っている人たちの子どもたちが在籍していることに。
自分とここまで関わってきた中で、前世で知らない家の子どもはブランチェスカだけという事実である。
アイヴォリー王国の学園だから、アイヴォリー王国の貴族の子女が入ってくるのは当然だ。だが、自分の周りに前世で仕えていた主の同級生の子どもたちが集まってくるのは、そう高い確率ではないはず。
友人であるアイリスの子どもであるフューシャとプルネ。同じく友人であるペシエラの子ども、ライトとダイア。そして、ここにきてオフライトの子どもであるシキとルシウが加わったのである。知り合い三人で子ども六人というのはちょっと意外ではあるが……。
ゆっくりサファイア湖を眺めているつもりだったのだが、ちょっと人が多くなってきてしまった。落ち着くどころじゃない。
シアンは立ち上がって、お尻の汚れを払う。
「さて、日も傾いてきましたし、そろそろお屋敷に戻りましょうか」
シアンの言葉で全員が空を見る。確かに、少しずつ赤みが増してきているような感じがしていた。
「そうですね。そろそろ戻りましょう」
「ですね。合宿は明日から一週間ですし、先は長いですから、備えてゆっくり休みませんと」
全員の意見が一致したので、シアンたちはサファイア湖を離れて、合宿の宿舎となっているアクアマリン子爵の別荘へと戻っていく。
そんな中、シアンだけがくるりと湖の方へと振り返る。
「今年もよろしくお願いしますよ、蒼鱗魚」
ぽそりとシアンが呟くと、サファイア湖の水面が少し揺れた気がした。
「シアン様、置いていってしまいますよ」
「すぐ参りますわ」
プルネに呼ばれて、シアンは小走りで追いかける。
夏の合宿二年目の初日は、静かに暮れていったのだ。
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