逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第125話 二年次の夏が始まる

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 いろいろとあったものの、二年次の前期末試験も無事にクリアしたシアンたち。
 今年もサファイア湖のほとりで行われる合宿に参加する。
 貴族の子女が多く集う催し物だが、よくアクアマリン子爵も引きつけ続けているものである。
 甘味のひとつである砂糖の生産地がアクアマリン子爵領にしかないというのが大きいのだろうか。

 学園から馬車に乗ってアクアマリン子爵領のサファイア湖に到着するシアンたち。
「ふぅ、サファイア湖に来るとやはり落ち着きますね」
 馬車を降りた後に、つい言葉が出てしまうシアンなのである。元はといえば先代のアクアマリン子爵の四女なので、実家に帰ってきた安心感が出てしまうのだろう。モスグリネ王国の王女という立場も忘れて、つい気が抜けてしまうのだった。
「シアン様、開始式がありますから、まだ自由行動ではありませんよ」
「そうでしたね。すぐ参ります」
 シアンはもう少しだけサファイア湖を眺めると、声を掛けてきたブランチェスカと一緒にアクアマリン子爵の別荘へと向かっていった。

 開始式に顔を出すと、そこにはどういうわけか部外者が立っていた。
「今年の夏合宿で特別講師を務めるライです。よろしくお願いします」
「同じくルゼです」
 どういうわけか、ハイスプライトのライとメタルゼリーのルゼが立っていたのだ。
 合宿へ向かう道中ではまったく見ることのなかった二人だが、どうしてこのサファイア湖にいるのだろうか。思わず顔が引きつってしまうシアンである。
「シアン様、どうなさったのですか?」
「いえ、なんでもありませんよ」
 両隣のプルネとブランチェスカから同時に心配されたシアンは、どうにか表情を引き締めて平常心を装って答えていた。
(まったく、ライとルゼを送り込んでくるなんて、これはケットシーの仕業と見て間違いないでしょうね)
 顎を引いて前を見るシアンは、そのようににらんでいる。
 それが正解かどうかは直後、すぐに分かった。
「いやぁ、シアンちゃん、びっくりしたでしょ」
「それはもう。なんでお二人がいらしているんですか」
「ケットシーですよ、ケットシー。取引をしに来たと思ったら、私たちに頼み事をして去っていくんですからね」
「ああ、やっぱり……」
 予感的中でシアンは苦笑いである。
「パープリアと同じ系統の連中が暗躍していると聞いてね。私たちも被害者を受けた者としてやって来たのよ」
「そうですね。私とライは当時のパープリア男爵家の手によってこの地に飛ばされてきましたからね。退屈しのぎにはなりましたけど、急な呼び出しはなんともねぇ……」
 話の内容の割にはずいぶんと落ち着いている二人である。
「そんなわけで、ケットシーから頼まれてきたってわけ。シアン様や学生たちを守るようにってね」
「まあ、シアンちゃんはこれがあれば大丈夫だとは思いますけどね」
 ルゼがシアンの頭につけられた蝶のデザインの髪飾りを指差す。
「私の体の一部から作られた細工品ですからね。いざという時はきっと守ってくれますよ」
 説明をしながらにこにこと微笑んでいるルゼであった。
「さて、私はちょっと周辺を見てくるよ。シアン様のことはお願いね、ルゼ」
「任せて下さい」
 ライは先に部屋から出て行った。
「え……と、シアン様?」
 プルネとブランチェスカがシアンの後ろで驚き戸惑っている。
「あら、そちらはシアンちゃんのお友だちでしたでしょうか」
「ええ。こちらがプルネ・コーラル伯爵令嬢、こちらはブランチェスカ・クロッツ子爵令嬢です」
「は、初めまして」
 プルネとブランチェスカが、ルゼに対して挨拶をしている。
 そういえばそうだったのだ。二人ともライやルゼと会うのは実に初めてだったのである。
「プルネちゃんは私を知らないんでしたっけか。ドール商会まで来ることは、まあ稀ですからね。コーラル伯爵家はマゼンダ商会ですから」
 少し記憶を探ってみルゼだったが、やっぱりプルネと会った記憶はなかった。出てくるのは姉のフューシャばかりである。
「では、覚えておいて下さいね。私はメタルゼリーという魔物で、名前をルゼと申します。ご用命頂ければどんな金属でもご用意できますよ」
 笑顔で営業を始めるルゼである。
「あら、妹へのナンパはお断りしたいですね、ルゼ」
「フューシャちゃん。いいじゃないですか、せっかくなんですから装飾品や武器のひとつやふたつ持たせてもいいと思うんです」
「それはお母様に仰って下さい。今は合宿中ですから、ね?」
 にこにことした笑顔でルゼに圧力をかけるフューシャである。
(あ、これ。睨み合いを続ける感じですかね……)
 シアンは嫌な予感を抱く。
「プルネ、ブランチェスカ、ちょっと湖を見に行きましょう」
「あ、ちょっと」
 シアンは二人の腕をつかんで部屋から立ち去っていく。フューシャはルゼとの睨み合いをしていたせいで反応が遅れてしまった。
「まったく、勝手に行動しちゃって。何かあったらどうするのかしら」
「大丈夫ですよ、フューシャちゃん。シアンちゃんの頭には、私の分体がいますから、ね?」
「……いつの間に」
 ルゼが見せた爪のはがれた指を見て、つい感心してしまうフューシャである。
「ケットシーはもとより、王妃様にも頼まれましたからね。元魔物として、これくらいできなければなりませんよ」
 にこにことした笑顔を浮かべるルゼだった。
 いろいろと驚きをもって始まった二年次の夏の合宿。何も起きないといいのだが、今年はどうなるのだろうか。
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