逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第124話 お勉強会(二年次)

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 翌日、座学の勉強会が行われる。場所は王都のクロッツ子爵邸だったのだが、そこには予想外のお客様の姿があった。
「えと……、シアン様?」
 ブランチェスカはおろか、屋敷の使用人たちも全員がびびりまくっている。
「本日はシアンお姉様ともどもよろしくお願い致します」
 美しい所作で挨拶をするのは、ダイア・アイヴォリー王女である。
 そう、シアンにくっついてひとつ下のダイアもやって来てしまっていたのだ。
「シアン王女殿下。私たち二年次生とダイア王女殿下たち一年次生は、試験の内容が違いますよ?」
「それでしたら問題ありません。私は既に三年次生の勉強まで頭に入っていますから。はい、教える側としてやって来たのですよ」
 ブランチェスカが確認するように行ったか質問に、胸を張ってドヤ顔を決めて応えるダイア。当時のペシエラ同様につつましい体形だが、立派な態度である。まあもっとも、一年次生の時のペシエラは十歳だったのだが。
 顔を見合わせたプルネとブランチェスカは、シアンの方へと顔を向ける。
「大丈夫ですよ。私も確認させて頂きましたが、私よりも頭がいいです」
 シアンからこう評価されたことで、ようやく二人は納得したようだった。
 しかしながら、王族を二人も屋敷に招き入れているという状況には変わりはなく、ブランチェスカは微妙に胃が痛そうにしていた。
「ブランチェスカ、今日は学園の時と同じように、私たちは王族ではなく学友としてみて下さいな」
「は、はい。お気遣いありがとう存じます、シアン様」
 にこりと笑うブランチェスカだったが、顔色がどうもよろしくない。
 本人のわがままではあったが、ダイアを連れてきたのは失敗だったかもしれない。シアンは今さらながらに後悔していた。

 だが、いざ勉強会が始まると始まるまでに抱えた懸念や印象はどこへやら。
 わがままを言ってついてきたダイアの実力に、シアンさえも度肝を抜かれていた。
 二年次の勉強だというのにすらすらと解いている。途中であえて一年次生の問題も解かせてみたけど、やっぱり問題はなかった。さすがはあのペシエラの子である。
「すごいです、ダイア王女殿下」
 ブランチェスカの目がキラキラと輝いていた。普通に尊敬のまなざしになっているのだ。
「私のお父様やお母様は剣も勉強もできましたから、私たちにもそれなりに求められちゃうんですよね。お兄様も私も必死に応えましたよ。その結果がこれなんです」
「掛けられる期待が大きいと、精神的に参ったりされないのですか?」
「それは確かに重圧です。でも、私たちには幸い応えられるだけの能力がありました。それに、参りそうになった時にはお母様やチェリシアおば様が優しくして下さいましたので、心が折れることはなかったですよ」
 柔らかな表情で、それまでの経緯を話しているダイアである。やはり、ダイアもそれなりに強いプレッシャーを感じ続けていたようだった。
「あれ、お母様の名前が出てこない……」
「アイリスおば様はお子様が多いではございませんか。お母様が気遣って、呼ばない限り登城させないようにしていたそうです」
「そ、そうなんですね……」
 プルネは少々複雑な表情を浮かべていた。
 実際、コーラル伯爵家の子どもたちは多かった。
 長女フューシャ、次女プルネ、下には三女と長男と子どもが四人もいる。お父母や使用人たちがたくさんいるとはいえども、さすがにその人数では大変なのは想像に難くなかった。だからこそ、ペシエラは子どもたちを優先させたのだろう。
「誕生日にはプレゼントは贈って下さってましたので、アイリスおば様のことも好きですよ。さっ、お勉強の続きに戻りましょう」
 パンと両手を叩いて雑談を終わりにしてしまうダイアは、早速教科書を手に取って勉強を始めていた。
 その勉強熱心な様子に驚かされつつも、シアンたちも同じように勉強に取り組んだのだった。

「だ、ダイア王女殿下に勝てる気がしません……」
「シアン様より頭いいじゃないですか。なんなんですか、王女って頭のいい方しかいらっしゃらないんですか?」
 勉強会を終えると、ブランチェスカとプルネが現実に打ちひしがれていた。
 二人がちんぷんかんぷんだったところも、シアンとダイアはすらすらと答えていたのだ。
「そんなことはございませんよ。実力があっても努力を怠っては、いずれ能力は衰えてしまいます。努力をしたからこそ、結果が伴ってきたのですよ」
 ダイアは淡々とした表情で語っている。
「それでは、今度の前期末試験楽しみですね。終われば夏合宿ですし、しばらくは忙しそうです」
 ダイアの顔には微笑みが浮かんでいた。誇らしげというよりは、本当に純粋に楽しみにしているという笑顔だった。
「お菓子と紅茶、おいしかったですよ。料理長や厨房、使用人の方にお礼をお伝えて下さいな」
「しょ、承知致しました、ダイア王女殿下」
 素晴らしいまでの所作でもって、ダイアはシアンと一緒に帰っていく。
「あ、あれが理想の女性というものなのでしょうか」
「私たちには、無理かもしれませんね……」
 ブランチェスカとプルネは、呆然とその場にしばらく立ち尽くしていた。
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